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国立キャンパスのゲニウス・ロキ

坂 内 徳 明

だいぶ以前のことだが、「ロシアの木造建築」なる本を翻訳したことがある。私自身はロシアの民族・民俗文化史を専門とするものの、建築学の専門でもないし、植物や木や森などにはあまり関心がなかったことからすれば、その仕事は断るべきだったかもしれない。ただ、この話がロシア(当時はソ連)での生活でとても世話になった先生からの推薦で生じたこともあり、「若気の至り」で引き受けてしまった。その仕事がきっかけで興味が広がり、ロシアの森・植生や木造建築について話をしたり、森に住む妖怪や魔物について、また、森は「異界」であると講義をするようになって今に及んでいる。

だが、いつも内心忸怩たるものがある。これまでロシアへたびたび足を運び、都会のみならず地方もめぐり、バスや列車で長時間移動する際に広大なロシアの無限に続く樹林をうんざりするほど眺め、ロシアの木造民家もいやというほど見てきた。だが、残念なことに、実際の森歩きの果てに「迷いはぐれた」こともなければ、昔話の主人公のように森に「置き去り」にされたこともなく、農家小屋で冬を越したこともないのだから、講義で「森の恐怖」「森は異界」などと口にするたびに、本当にそうだろうか?との問いかけが湧き上がるのが真実のところである。体験や実感がすべてと言い切るつもりはないが、こうした「やましさ」はこのまま続くのだろうと思う。にもかかわらず、人間の生活とかかわるすべての土地には、かならずその「守護神」ないし「地霊」(ゲニウス・ロキ)が住まうはずと確信する。それはどんなに現代化されようとも変化がない、なぜならば、そうした存在なしに人間のコミュニティは成立しないと昔話は語っているのだから。

一橋大学の自然豊かなキャンパスは、近年、植樹会の方々の献身的なご努力により、以前とは見違えるほど美しい姿となっている。手入れをされ、かつ適度に放置された自然が建物との調和を保ちながら維持されてあることには、いつも心を癒されている。それでは、この一橋コミュニティに住まう「地霊」とは何なのか、誰か? 近年、新聞にも報じられたタヌキかもしれないし、植樹会の作業で発掘された長芋かもしれない。あるいは、学生メンバーの中野晶子さんが観察した鳥たちかもしれない。私はひそかに、もしかして、植樹会の面々(失礼!)こそそれではないかと疑っているのですが、どう思われますか。 

 
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