第2部 通学手段確保のために


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第1章 需給調整規制廃止が与える影響

この章では、需給調整規制廃止が、通学と最もかかわりをもつ公共交通機関である鉄道と乗合バス事業に どのような影響を与えたのかを概観し、ひいては通学に与える影響について考察していきたい。

1. 需給調整規制廃止に至る流れ

我が国において公共交通は今に至るまで住民の日常生活の足として活躍し、重要な役割を担ってきた。 そこで我が国では輸送サービスの安定的な確保の必要性から、旅客交通分野に対して需給調整規制を行ってきた。 需給調整規制とは、市場における需要と供給のバランスを適切に保つため、新規参入について一定の規制を設けるものである。 平成10年度運輸白書によると、その目的は、「一般的には、

を通じて、安全かつ良質な運輸サービスを安定的に供給し、国民の利便の確保を図ること」とされている。

しかし、高度経済成長による、大都市部における過密化、地方部における過疎化、少子化による通学需要の減少、 そしてモータリゼーションによるマイカーの普及といった社会情勢の変化のなかで、公共交通機関の経営は悪化し、 合理的な経営が求められ、制限された競争環境下において非効率な経営が行われているのではないか、 利用者ニーズへの対応が不十分なのではないか、 内部補助は限界なのではないかといった需給調整規制の問題点が顕在化するようになった。 そこで新規参入、退出における規制を緩和することによって、企業の自由競争を促進していくため、 需給調整規制を廃止することとなった。

2. 鉄道における需給調整規制廃止の影響

(1) 需給調整規制廃止の具体的内容

2000(平成12)年3月1日から、新規参入規制については、現行の免許制を許可制に、 退出規制については、現行の許可制を1年前までの事前届出制に、運賃規制については、 現在運用で行っている運賃・料金の上限のみを許可することを法律で明記し、その許可された上限の範囲内での事前届出制となった。 このような規制緩和によって次のようなことが懸念される。

(2) 鉄道事業に与える影響

我が国での鉄道事業における規制緩和のさきがけは1987(昭和62)年の国鉄分割民営化である。 この改革によって、大規模な経営合理化が行われ、採算の取れない路線の廃止が相次ぎ、 第3セクター化や私鉄化、バス化といった形態の転換が起こった。 しかし近年は、このような路線廃止の動きは沈静化していた。 ところが、長引く不況で企業収益が悪化している状況の中で、上記のような需給調整規制が廃止されたことにより、 退出が容易になり、不採算路線の廃止が再び活性化してきている。 事実、2001(平成13)年9月には、名古屋鉄道竹鼻(一部)・揖斐(一部)・谷汲・八百津の各線の廃止・バス転換が実施された。 このほかにもさまざまな事例が出てきており、今後もこのような路線廃止が続いていくものと思われる。

(3) 学生への影響

鉄道路線が廃止される場合には、生活交通確保の観点から、上記のような転換が行われることが多く、 この時点で通学手段がなくなるということはあまりない。 しかし、第3セクター化やバス路線転換が起こると、一般的に以前より運賃が上昇するので、 家計にとって通学費の負担がより重くなるといった影響が考えられる。 そのため、学校選択上の制約ができてしまうことが懸念される。 一方、バス転換がなされる場合には、鉄道よりも柔軟な路線設定や停留所の設定ができるため、 廃止前よりも利便性が高まるということも考えられる。

3. 乗合バスにおける需給調整規制廃止

(1) 具体的内容

乗合バス事業における需給調整規制廃止は2002(平成14)年2月1日から実施され、 新規参入規制については現行の免許制から許可制へ、退出については6ヶ月前までの事前届出制、 運賃・料金規制については認可制から上限認可制の下での事前届出制(一部料金は事前届出制)に改められた。

(2) バス事業への影響

これまでバス事業者は、少子化による交通需要の減少、モータリゼーションによる自動車の普及によって、 厳しい経営状況にさらされ、次々と路線の廃止や人員削減を行ってきた。 事実、1998(平成10)年で営業用バスは輸送人員で4.3%の減少、輸送人キロで1.7%の減少となっており、 このうち乗合バスは輸送人員で4.5%の減少、輸送人キロで5.6%の減少と人員については12年連続、 人キロについては8年連続のマイナスであった。 そのため、需給調整規制が廃止されると、採算路線で新規参入による競争の激化が起こり、サービスが低下するのではないか、 またこれまで内部補助により経営の足をひっぱってきた不採算路線の多くが廃止されるのではないかといったことが懸念されていた。 しかし現況では、朝夕の通勤・通学ラッシュなどの需要がピークに達する時間帯のみに参入することが禁止されたことなどから (これをクリーム・スキミング防止条項という。 クリーム・スキミングとは牛乳からおいしいクリームだけをすくい取ることから転じたもの。)、新規参入の動きは低調である。 また、退出についてもそれほど大きな動きはなく、規制が緩和されたからといって、その動きが活発化しているというわけではない。

(3) 生活交通維持のための方策

とりわけ地方部においては、鉄道網が発達していないため、駅周辺に住んでいる人しか鉄道を使えない場合や、 鉄道がすでに廃止されてしまっているといった場合が多く、交通弱者である高齢者や学生にとって乗合バスが最後の足となっている。 そのため、乗合バスが廃止されることは、住民の社会生活を脅かす可能性があるため、他の交通手段の確保を考えなければならない。

今回の需給調整規制廃止によって、路線の休廃止が進み、上記のような可能性が高まるおそれが出てきたので、 生活路線維持について当該地域の自治体が地域協議会を設置して検討することとなった。 地域協議会は都道府県、市町村、バス事業者、国土交通省地方運輸局などの代表者から構成され、 バス事業者からの路線廃止の申し出を協議し、その協議に基づいて都道府県が生活交通路線維持3か年計画を策定し、国に提出する。 このプロセスを経て、市町村が補助金を出して運行を継続する、あるいは代替バスを運行するといった対策がとられる。

また、複数市町村にまたがる10km以上の路線で1日3便、 1kmあたりの乗車人数が15人をいずれも上回るという条件に当てはまる路線を持つバス事業者を国庫補助制度の補助対象としている。

(4) 学生への影響

路線廃止に伴い代替バスが運行される場合にはほとんど影響はないだろう。 そうでない場合には、バスの代替交通手段として自転車が考えられるが、長距離の移動を必要とする学生には代替手段とならないし、 雨天時や冬の降雪時などには使用することができないため、条件が整わないと自転車で通学することはできない。 したがって条件が整わない学生は通学手段がなくなってしまうか、保護者の車による送迎に頼ることになるだろう。

4. 今後の展開とまとめ

乗合バス事業における需給調整規制廃止から、約半年が経過したが、まだ大きな動きは見られていない。 しかし、これまで代替バスや第3セクターへの転換が行われてきたことで、自治体の関与が重要性を増してきている。 しかし、多くの自治体がバス事業のノウハウを持っていないことが多く、住民のニーズに対応しきれていないケースが少なくない。 今後路線の廃止・転換が進んでいけば、ますます自治体の重要性が増していくだろう。 このような流れのなかで、代替交通を運行していく際には、利用者が何を求めているのかを精査すること、 地域の特性をよく理解すること、周辺自治体と協力していくことが必要となっていくだろう。


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Last modified: 2003.2.4

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