歌劇「イーゴリ公」より 韃靼人の踊り/ボロディン


一橋大学管弦楽団の2014年のサマーコンサートは、灼熱の太陽が照りつける“夏”によく似合う情熱的な曲で今まさに、その幕が開かれようとしている

ボロディンの歌劇「イーゴリ公」は、ロシア国民主義を代表する愛国的な作品としてその名が知られているが、実際に日本で演奏される機会が多いのは「序曲」と今回われわれが演奏する「ダッタン人の踊り」のみである。そこで、歌劇「イーゴリ公」のあらすじを紹介しておきたいと思う。曲のイメージが湧く手伝いとなれば幸いである。

舞台は12世紀のキエフ公国。ノヴゴロド・セヴェルスキーの公イーゴリが、南方の民族であるポロヴェッツ人(ダッタン人)との戦いに向かうシーンで始まる。兵を引き連れて向かうイーゴリであったが、息子のウラディーミルと共にポロヴェッツ人の捕虜となってしまう。そこへポロヴェッツ人のハーン(汗)のコンチャークがやってきて、2人に和解を提案するべく、もてなしの踊りを奴隷たちに踊るように命令する。これが「ダッタン人の踊り」であり(ロシアでは東方民族のポロヴェッツ人もタタール=韃靼と総称する)、原曲では合唱も加わり、コンチャーク汗の偉大さ、イーゴリの望郷の想いなどが高らかと歌い上げられる。この踊りを目の当たりにして、祖国のことを考えてやまないイーゴリは和解を断り、祖国のために戦うべく脱走を決意するが、ウラディーミルはコンチャーク汗の娘のコンチャーコヴナと恋に落ち、脱走を断る。イーゴリは祖国へと帰還し、人々の歓迎を受けるところで幕切れとなる。

曲は冒頭からすでに美しい旋律が流れる。ホルンが鳴らすコードの上で木管楽器が異国情緒溢れる不思議な雰囲気を作り出す。オーボエによる艶やかなsoloによって“女達の踊り”が始まる。この旋律は全曲中で最も有名な旋律である。速度を増し、突然クラリネットが忙しい旋律を奏すると“男たちの踊り”が始まる。荒々しくなっていったところでタンバリンが鳴り終止する。躍動するティンパニに導かれて、力強い“全員の踊り”が奏される。ここでは民族的な荒々しさ、バーバリズムを表現する一環としてトランペットに特殊奏法であるフラッターツンゲ(巻き舌奏法)を要求しているのも聴きどころである。次に現れるのは“子供達の踊り”で急速な舞曲となって進んでいく。最後は“男達の踊り”の旋律で全員が熱狂してラストを飾る。

また、この曲は木村康人氏と一橋大学管弦楽団の初共演を飾る記念すべき曲でもある。“若い指揮者”と“若い演奏家”による“若いエネルギー”を皆さんに伝えることができれば幸いである。