経済グローバル化とイスラム金融

 

講師 バハレーン経済開発委員会駐日代表

今平 和雄 

平成17年11月1日 於:如水会館

【無断転記転載を禁ず】

社団法人 如 水 会

責任編集

 




◆内容目次

はじめに

バハレーンとは

イスラム金融とは ― シャリーアの枠組み

イスラムの経済観と経済原理

リバーの禁止

利益分配制度

退蔵の禁止

喜捨

イスラム金融の仕組み

信託金融(ムダーラバ)

出資金融(ムシャーラカ)

商品売買契約 ― マークアップ契約(ムラーバハ)

リース金融(イジャーラ)

イスラム金融の実際(非イスラム世界との接点および問題点)

取引の実際

銀行間取引(コモディティ・ムラーバハ)

短期国債(サラーム・コントラクト)

中期国債(スクーク・イジャーラ)

その他

問題点

準拠法源の多元性

流動性

多元企業統治

質疑応答

講師略歴


はじめに

 初めまして。ご紹介いただいた今平和雄です。お疲れの時間帯ではございますが、しばし気軽にお聞きいただければ幸いに存じます。本日は「経済グローバル化とイスラム金融」ということで、イスラム金融について簡単にご案内したいと思います。グローバル化の意味するところは、一般的には国境・地域を超えた取引が拡大・活性化することを指しますが、一方でそれに反発する個の主張も強める傾向にあります。イスラム金融の場合には、通常の有利子金融が蔓延していく中で、謂わば、イスラム固有の利子を介在しない枠組みを構築することでイスラム教徒のための金融利便性を高めることに端を発した、謂わばグローバルに対する個の反発から始まり、今や、それ自体がイスラムの枠を超え、非イスラムの世界にも通じる金融としてグローバル化しようとしています。本日はこの触りをお話し申し上げたいと思いますが、錚々たるメンバーの名簿を拝見して「やや場違いなところに来てしまったのでは」という気持ちで、肩のへんがずっしりと重く感じられます(笑)。先日もゴルフをしたのですが、なにか肩や首の具合が重くて、うまくショットが打てず、久しぶりに100を超えるスコアでした。それもやはり今晩のプレッシャーだったかと考えます(笑)。

 実は、本日は私にとって大変よいことがありました。何かというと、これまでバハレーンの大使館がありませんでしたけど、本日ようやく大使館開設の運びとなりました。これからさらに、日本=バハレーン間の経済的、社会的、政治的なパイプを太くしていけると考えております。日本とバハレーンの因縁は浅からぬものがあります。湾岸地域で最初に石油が発見されたのはバハレーンです。最初に商業生産を開始して、その油が船に乗ってはるばると横浜港に着きました。1932年のことです。その後は、なかなか外交関係が深まらず、ようやく1983年になって、バハレーンに駐在する日本大使館が開設されました。さらに、その22年後になりますけど、まさにようやく、在東京のバハレーン大使館が本日(2005年11月1日)開設という運びとなりました。私も「片方の肩がようやく軽くなった」という感じがしております。

バハレーンとは

 最初に石油が発見されたバハレーンの場合には、石油の量が限られているということもあり、脱工業化をいち早く進めました。経済は大きく4つの柱に分けられます。石油関連のウエイトは約4分の1まで落ち込んでいます。残り4分の3は、まず4分の1が金融関係です。バハレーンがベイルートに取って代わり、中東の金融の中心地という役割をかれこれ30年間果たしてきました。後程の本論で触れさせて頂きますが、イスラム金融の中心地でもあります。それから、次の4分の1がアルミ関連です。なぜアルミかというと、石油がなくなりつつあるとはいえ、まだまだ産油国だけに、電気代が安いという条件もあって、年間100万トンのアルミを生産しています。最後の4分の1はサービス関係です。観光を中心として、一昨年からF1レースも始めましたが、限られた資源を利用して観光中心のサービスを充実していきたいと考えています。

 私が所属しているのは「バハレーン経済開発委員会」というところです。実務的には大蔵省につながります。経済企画庁と投資庁の2つの機能を有しており、私などのような在外の代表部は、その国からの投資を誘致する投資庁の立場に重きが置かれています。

 私が電話をかけて「バハレーンの経済開発委員会と申しますが」と名乗りますと「えっ?何々経済研究所さんですか」とか言われ、大方は総会屋か何かと間違えられます(笑)。「バハレーンとは…」と説明するだけで、ものすごく時間がかかりました。なんとか救われたのは、サッカーが終わった頃からです(笑)。あれでバハレーンという国が一般に認知されるようになり、私は「2〜3分は説明の手間が省けているかな」と実感しています。前置きが長くなりましたけど、お手元の配布資料に沿って説明していきたいと思います。


イスラム金融とは ― シャリーアの枠組み

 この表には、まず「イスラム」という根元があり、下部に枝分かれが見られます。多分「シャリーア」という言葉はよく耳にされるかと思いますが、「人の道(実践)」に当たります。簡単にイスラム金融というと、「シャリーアに基づいた枠組みにある金融」という説明になるわけです。では一体シャリーアは何かということですが、イスラムは、単に宗教、信仰等というよりは、広く生活様式とか慣習や文化など、すべてを包含しているものです。抽象的精神論だけではなく、具体的に信者の日常生活をも規定しています。言わば「人の道を説いていく」という規範です。 

 アラビア語で「シャーリア」は「道」という意味で、同じ語源の「シャリーア」はまさに「人の道」です。日常生活において、人々の活動ないし行動など、すべてに広く教えを説いているということでもあり、シャリーアの下にはマーマラートとイバダートの2つがあります。これは、それぞれ「人対人」と「神対人」の関係ということですから、「日常生活」は「人対人=シャリーア→マーマラート」の下にずっと連なっていき、経済活動も包含しています。同じ次元に政治活動と社会活動が並びますが、この2つはどちらかといえば「神対人」の関係も濃い。むしろ典型的な「人対人」の経済活動の中に、大きく分けて「銀行・金融活動」と「その他の経済活動」という2つが位置づけられています。この体系の中、イスラム金融は「シャリーアの枠組みを超えてはならない金融」というわけです。


イスラムの経済観と経済原理

 シャリーア、もしくはイスラムの経済観とは、どういうものか。イスラムの経済観と経済原理について少し触れておきたいと思います。中東地域に行かれた方々がよく耳にされる言葉に「アラブのIBM」ということがあります。IBMとは何かというと、「インシャーラ」、「ボクラ」、「マレーシ」の3つですが、まずインシャーラは「もしも神がお望みになるならば」です。ボクラは「明日」ですが、メキシコあたりでも何か問題があると「明日にしようよ」と言いますが、その「明日」という意味。そして、マレーシは「気にしない、気にしない」ということです。

 IBMの「I」ですけど、たとえば私がタクシーに乗って「J会館に行ってくれ」と行き先を告げると、イスラム・タクシーの運転手は「インシャーラ」と言うわけです。最初は「何と大仰な。このようなことで神様を引き合いに出すなんて」と。しばらく生活するうちに、そうでもなくなります。特にアラブの人びとの社会史とか、昔ながらのキャラバン生活等々を重ね考えると、「むべなるかな」という思いになってきます。「ある日、彼らは隊商を組んで出発して行った。ところが何時間も過ぎぬうちに、突然の砂嵐に巻き込まれていた。どこヘ行ってしまったのか」。そういう意味で、タクシーに乗っていて、次の瞬間事故にあわないとも限らない。こう考えると「インシャーラ」と言うのも、「なるほど」と思えるようになってくるわけです。いずれにせよ、神様はすっかり日常生活の中に入り込んでいると実感されることになります。

 「人間」という考え方は、聖書にもありますけど、神の創造物の1つとしての人間です。この辺りを受け売りするなら、「神の意志に尽くすために生きている」とされています。一見してイスラム=禁欲主義にとられるのですけど、実際は禁欲主義ではありません。むしろ逆で、禁欲主義は否定されています。生活は「物質的にも豊かな生活を営むのが良い」と教えており、そのための経済活動は積極的に認められます。ただし、経済活動に従事する場合でも、資源の所有権は、あくまでも神に属するのであって、人間には所有権がないのです。だから人間の立場は、資源を有効利用する管財人として神から信託されていると考えればよいと思います。

 資源の利用は、神により信託された範囲内でのみ認められますから、その濫用はもちろんのこと、独占という行為は禁止されています。したがって、すべての経済行為は、神の物的財産と人間の努力との共同作業でなければならない。結果として、利益配分や報酬給付が伴うとされます。しかし、「利益を追求すると言うのであれば、それは資本主義では?一体資本主義とはどう違うのか」となります。イスラムでは、神という絶対者を人間活動の監督者として位置づけており、ただ人間の利害が衝突する競争原理ではなくて、責任分担を通じて調和ある共同作業が行われる社会を求めるとの原点があり、これが資本主義と異なるところであります。またイスラム経済原理は生活する環境の影響を強く受けています。

 開祖マホメットが生きていた時代は7世紀でした。7世紀頃のメッカといえば、現在の新宿・渋谷界隈みたいなものですね。アラビア半島の商業・金融の中心地でしたが、周辺は砂漠で囲まれているという条件もあって、絶えず流動性不足に悩まされていました。当然、モノも不足ということで、キャラバンを出したり、通商に従事していた人びとが数多く存在していた状況でした。そういう中で「高金利と資産退蔵」という現象が生じていました。つまり、交換手段は一旦手放してしまうとなかなか戻ってこない。だから退蔵してしまう人びとが多かったわけです。一方で、そのような経済的状況に対応する幾つかの原則が生まれました。それは「リバーの禁止」「利益分配制度」「退蔵の禁止」「喜捨」の4つですが、いずれも流動性不足の解消を目的としたものです。

リバーの禁止

 リバーにも種々な説があります。詳細は省略しますが、形態とか利率の高低を問わず、ここでは「貸付に関する利子すべて」を指します。そもそもオリジナルは「増殖」を意味する言葉です。要は、「何らの役務を伴わず、時間が経過するだけで資産を増殖させる=利息を得る」ことが寄生的行為と見なされたわけです。寄生的行為=不当利得ということで、強く禁止されました。

利益分配制度

 資金の保有者が事業者に対して資金を投資として提供する。事業者がその資金を使って事業を行った成果として利益が出るのはよいとされている。資金提供者と事業者は、利益をあらかじめ合意した割合にしたがって配分する。そういった行為は正当な共同作業であるとして認められており、これが利益分配制度と言われる。

 損失が発生した場合には、金銭的な面はすべて資金提供者が責任を負担する。他方、事業者は、役務=自分が行ったサービスと物財を犠牲にすることによってカバーします。(資本と役務は同等と見なされていた)。かくして、資金保有者=資金提供者が得られるであろう期待利益は、事業者の事業努力に全面的に依存することになります。

退蔵の禁止

 資金保有者の保有する資金を漏れなく事業者に投下させて社会発展に貢献させようとするのが「退蔵の禁止」と「喜捨」であり、社会に資金を流通させる仕組みです。

 退蔵の禁止とは、資金保有者に自己保有の不活動資金を箪笥預金として留めおくこと無く事業努力=生産用途ヘ向かわせるべく、退蔵の禁止を説くことで道義的義務を負わせるものです。

喜捨

 さらに強制力をもって補完するのが「ザカート」と言われる一種の固定資産税とも見なされる類です。つまり「喜捨は税金である」と考えてよいと思います。基本的には年収と金融資産に課せられるもので、一律で大体2.5%ぐらいです。ストックベースの金融資産で、たとえば無利子預金にして退蔵した場合にも、毎年2.5%ずつ目減りしていきますので、資金保有者は、「黙っていて減るのなら、むしろ使った方がましかな」と資金活用を考えざるを得ない仕組みです。

 このような形で、いわば飴と笞を使いながら流動性を確保していこうという動きが見られました。


イスラム金融の仕組み

 のムダーラバ以下はアラビア語の音声表記だけで書いてあり、分かりにくいので、まず日本語に訳しておきますと、「ムダーラバ=信託金融」「ムシャーラカ=出資金融」「ムラーバハ=商品売買契約 ― マークアップ契約」「イジャーラ=リース」となります。順に沿って説明します。

信託金融(ムダーラバ)

 これはイスラム金融における最も代表的な取引形態です。ただし、代表的といっても、「形態だけ」で、実際の運用状況はどちらかというと若干異なります。資金運用という意味では、むしろ「ムラーバハ=商品売買契約」に資金が使われているケースが圧倒的に多いわけで、現在のイスラム金融の多分7割ぐらいは「ムラーバハ=商品売買契約」だと思います。

 ムダーラバでは、資金提供者は事業家(ムダーリブ)に対して資金信託(ムダーラバ資金の払い込み)をします。この図では、資金提供者をイスラム銀行としてありますが、事業者に資金を信託し、事業家はそれを投資活動に運用します。事業が完成するか約定期間が過ぎると、両者はあらかじめ定めた約定に従い、収益を分配(配当支払)します。もし事業が不成功に終わった場合、事業家(=受託者)に過失や違反行為のない限りは、投下資金についての責任は問われません。もちろん使用した役務とか労力がムダになるわけですが、損失が資金提供者の投下資金以上となった場合には、その「超過部分について責任を負うこともあり得べし」ということのようです。

 ムダーラバの場合は、共同経営とは見なさないので、資金提供者(図のイスラム銀行)の責任負担は、基本的に投下資金の範囲内に限定されています。遺失利益についての責任を問われることはありません。

 現実には、銀行が両者を仲介しているわけです。資金提供者は銀行にインベストメント・ファンズという形で資金を預けて、銀行は利益の見込みある事業に投資して、収益の上がった段階で配当を受け取る形になります。投資先としては、不動産の取得および開発が多く見られます。実際にどういうふうになっているか、後ほどもう少し触れたいと思います。

出資金融(ムシャーラカ)

 次の出資金融の基本的イメージは、ジョイント・ベンチャーです。前者(ムダーラバ)の場合は共同経営ではなく、資金提供者(図のイスラム銀行)に経営にかかる発言権はありませんでしたが、ムシャーラカ(合弁)には出資比率に応じた経営発言権が生じます。この図ではパートナー(顧客)の40%出資に対して、イスラム銀行(資金提供者)の出資60%とありますが、配当支払いの受領と発言権があります。損失が生じた場合も、この出資比率に応じてリスクを負担する責任が生じます。ただし、収益の配分については、事前の合意があれば、敢えて出資比率にこだわる必要もないようです。

商品売買契約 ― マークアップ契約(ムラーバハ)

 運用上は6割以上がこの形態だといわれています。商品売買契約とはどういうことかといえば、資金提供者(図のイスラム銀行)が、売手と買手の間に入ります。商品の売手に対してはキャッシュで購入代金を支払い、いったん買った(所有権を移転した)ものを、商品の買手に転売します。買手には代金延べ払い(後払い)とか一定の猶予を与えて、顧客へ所有権を移転します。資金回収には、買取り商品価額に一定額のサービスチャージ(利益上乗せ=マークアップ)されてくるわけです。これが定率だと利子と見なされるので、敢えて「不定率の売買差益」ということなら、シャリーア上も合法であると認められます。

リース金融(イジャーラ)

 これは通常のリース契約と考えてよいでしょう。資金提供者(図のイスラム銀行)は、あらかじめ代金を支払い、機械設備等の物件、主として資本財・生産財の購入(所有権移転)を行います。リース利用者にその物件利用権を移転し(用益物権設定)、費用化に展開する形で、リース利用料を徴収する方式です。利用料は、資本財の減価償却費プラスα=資本コストにあたります。利用料徴収自体はシャリーア違反ではないのですが、リース利用者(=企業家)側の利益もしくは損失に関わりなく一定料金ということになると、「利息では」と見られることもあり、必ずしも問題なしとはならないようです。以上、イスラム金融の仕組みを概観しました。


イスラム金融の実際(非イスラム世界との接点および問題点)

取引の実際

 実際の取引はどんなふうに行われているのでしょうか。私が最初に体験したのは、1983〜84年頃でした。ロンドンでのことですが、たまたま中東の銀行から「資金を安くデポするから使う気はないか。コストは取り手レート―αで良い」と言ってきたことに端を発します。

 資金を取り入れる場合、通常はLIBOR(London Inter-Bank Offered Rate)といって資金の出し手が唱えるレートを使います。彼の銀行はそれを「出し手のレートよりも更に低い取り手レート(LIBID=LONDON INTERBANK BID RATE)のマイナスαで預けても良い。しかも多額を、でも、金利としては要らない」と言うことでした。最初その意味するところが良く分からないでおりましたが、当時の邦銀はシンディケイテッド・ローンに入れ込んで、自分の体力を超え、資金をどんどん貸して、薄利多売の営業をやっていた時期でしたので、安く調達できるものであれば大歓迎ということで、取り敢えず前向き検討することとなりました。

 条件を確かめると、「金利は要らない。だけど、モノの売買をすることでその売買価格差を利用して金利に見合う額を返して欲しい」という、先程説明した「ムラーバハ=商品売買契約」による収益の中からライビット(取り手レート)― αに見合う金額(利息に相当)を支払ってくれということが分かりました。

 取り敢えず前向き検討ということでしたが、あまり金額が大きいことから、相応の金額を吸収しうる取引をということで周りをみれば、石油がまさにその取引にふさわしい物でした。ロンドンで石油を買い付けて、買値プラスαを乗せて日本ヘ売る。原油買い付け時に支払う資金は、中東の銀行が預けてくれる金額をそのまま右から左へ流すだけです。日本企業が代金を支払うのは、日本に石油が着いてから3ヵ月ないし6カ月猶予する。その分だけ金額が高くなるということで辻褄が合ってきます。

 他方、銀行のバランスシート上どうなるのかという問題があります。商品売掛金勘定が記帳されてしまうのです。貸方に預かり金であるインベストメントファンズが、借方にアカウント・リシーバブル(商品売掛金)が登場。これは銀行としては業法上なじまない取引となり、あえなくこのスキームは没と相成りました。イスラム銀行的には、逆に「これでないとダメ」なのですが。

 では中東の銀行の代理人として行動するのはどうだろうか。代理人として行為しても、どうしてもバランスシート上にそれが出てしまい、これもダメ。検討されたのは、直接石油売買をしている商社筋に利用してもらうということでした。たとえば1千万ドルの石油取引をやる商社があるとして、同社ロンドン支店にその買い付け資金一千万ドルを貸し付けます。同ロンドン支店は東京本社に延払いで石油を売るという取引になります。このスキームにおける銀行の役割としては単にお客を紹介するだけで、自身のビジネスになるものはありません。謂わば顧客をとられるだけで、収益機会も逃してしまうということになります。その意味で、このスキームの中でどうやって収益につなげるかということが真剣に検討されました。

 本スキームの返済原資は本邦からくる資金ですので、その保証人として介在することができれば、自らのバランスシートを使わずに保証料を入手することが可能となり、それによりビジネスとして参画することができるということで良しとなりましたが、先が見えていたのは、商社は、既に邦銀保証を必要としていなかったということです。したがって、保証人として取引にいつまで関わっていられるかというのは時間の問題でしかありませんでした。

 時間が経過したときに残ったのは、「中東の銀行」「日本の商社」「安い資金」という図式だけでした。おいしい話は長く続かないものです。ただ時代も変わって、現在では、イスラム金融といっても流動性がかなり限られており、また常に有利子銀行との競争にさらされていることもあり、常時安い資金を提供できるという図式がいつも成立しているわけには行かないようです。

銀行間取引(コモディティ・ムラーバハ)

 これは「イスラムの銀行間取引」を意味しています。日本など、一般に有利子の銀行には、そのまま当てはめることができない図なので、ご注意ください(フロー図)

 真中に「通常銀行(Agent)」とあるのはイスラム銀行と考えるわけで、その下の「イスラム銀行(Principal)」との間にキヤッシュフロー(実線)と商品の流れ(点線)の両方が見られる表示で、イスラム銀行同士・インターバンク取引の特異性を示しています。

 図はイスラム銀行が他行(Agent)にデポをする場合です。先ずイスラム銀行(principal)が他行(Agent) に対し「自分に代わり、ある商品を購入し転売する」という指示をします。ブローカーを通じるのですが、実際には資金・モノは動かず、口座間の移動(ネットオフ)だけで取引が行われます。結果として、Agentたる銀行には、貸方に信託された資金、借方に運用資金という図式が残ります。商品を通じた資金移動となるため、イスラムの場合に問題は、商品に種々限定があること。禁止商品は、まず金(キン)、豚もダメですね。甲殻類もそうですし、肉は、所定の手続きにより処理された肉でなければならない等々の制約があります。日用商品でも、通常の商品取引所で取り扱うものが全部適格というわけでもありません。したがって、こういう制約があるため、なかなか資金等のタイミングが合わず、利用手段としては限定されているようです。

 バハレーンの実際の金融体制はどうなっているでしょうか。先ず国債ですが、バハレーンでは短期国債と中期国債をイスラム債で発行しています。ここでバハレーンのマーケットについて簡単に説明しておきます。

 現在、バハレーンには銀行・金融機関が365あります。その従業員は6,400人。内訳はバハレーン人4,700人、外国人は1,700人雇用されています。銀行の総資産は1,110億ドルです。その内イスラム金融機関の総資産は48億ドル。これを見ますとイスラム金融セクターの占める割合は4.4%と、まだ大きな比重を占めるにはいたっていないということが分かります。

短期国債(サラーム・コントラクト)

 国債に戻りますけど、2つのスキームがありますが、上の図は「原型」です。イメージは、短期の割引債と中長期の利付き債です。短期国債の場合、サラームと言う手法と用います。イスラム銀行は製造業者に前払い代金を渡して製品をつくらせる。後日製品納入を受けて、それを他の企業家に転売して、代金の回収し当初支出を決済するという形態です。

 バハレーンでは、たとえば、アルミが使われる場合もあります。「アルバ(アルミニウム・バハレーン)」という国営アルミ精錬会社がありますが、そこに5基の炉がそれぞれナンバーを振られています。最初の注文は「炉何番に、製品いくら、デリバリー3ヵ月後」という形で発行されますが、同時に前渡金が支払われるわけです。この当初支払いのために、スクーク・サラームというボンドを発行します。その発行で調達した資金をアルバに前渡します。アルバが3ヵ月後に納入したアルミニウムを他の企業に転売することで、代金回収の資金を得ます。簡単に言いますと、100円のものを、最初に「前渡」という便宜を与える代わりに、現金は95円しか渡さないのです。実態は95円でつくって100円で売り上げることです。ボンド・ホルダーは額面100円の債券を95円で買い、3ヵ月後の償還期日に100円で戻ってきます。まさに割引債というスキームです。通常、図の中央にある「SPV(スペシャル・パーパス・ビークル)」は、「BMA(バハレーン・マネタリー・エージェンシー=中央銀行)」が所管しています。期間は通常3カ月で、毎月1回各2,500万ドル以内で常時発行していますから、ピークで大体7,500万ドルの短期資金を市場調達するということです。

中期国債(スクーク・イジャーラ)

 中長期はどうかというと、こちらはスクーク・イジャーラというリース・ボンドを発行して資金を調達しています。まず図上の「SPM(スペシャル・パーパス・ムダーリブ)」の「ムダーリブ」というのは、「資金の受託者」という意味で、「BMA(バハレーン・マネタリー・エージェンシー=通貨庁)」は、日本なら日本銀行に当たる中央銀行です。

 フロー図では、まずBMAがリース・ボンド(SUKUK)の発行により、資金を調達します。BMAはムダーリブとして特定財を購入するという契約をします。これは何かというと、たとえば水道あるいは飛行場、そういった公共財なら何でもかまいません。その購入財を所管の管理者にリースバックします。

 少し前ですが、苦境に立つ日本の大銀行が自分の本店を売却して話題になりましたけど、実はすぐリースバックし、リース料を払って従来通り使用したわけです。つまりそれと同じ発想です。飛行場を売却しても飛行場が動くわけではなく、飛行機の離着陸にはまったく支障がなく、飛行場の機能に変わりはない。回収された利用料(リース収入)はボンドのホルダーリース料として支払われます。

 期日がきたときに飛行場を元の持主に売り戻す(リース対象財を売却する)ことで、資金を回収、ボンドを償還し、ムダーリブの立場も解消するという仕組みです。

 先程のスクーク・サラーム(短期)と、このスクーク・イジャーラ(中期)は、イスラム的あるいはシャリーアから見て合法であると考えられており、セカンダリーのマーケットも完備されつつあります。

その他

 少し前になりますが、某テレビ局で『オイルマネーが戻ってきた』という放送をしました。石油価格が20ドルから60ドルまではね上がったので、潤沢な資金が産油国に貫流している動きを報道した番組です。TV局としては、オイルマネーがは「日本にも戻って来たのだ」という大々的な報道にしたかったのでしょうが、実態として、イスラム金融の資金が日本に初めてやってきたというものでした。

 バハレーンにアルキャピタ・バンクというイスラム銀行があります。シンガポールには、政府系の不動産会社キャピタランドがあり、この2つが合弁事業を立ち上げます。先程の「ムシャーラカ」です。これが、日本の賃貸マンションを購入しました。東京、名古屋、福岡の居住用賃貸マンションに限定したのです。オフィスビルだと種々の制約があり、もしかすると豚肉関連業者が入るかもしれない。貴金属取扱商やサラ金会社がいても、シャリーア上のコンプライアンス問題が出てきます。かくして個人賃貸用マンションに特定して購入しました。共同経営ですから、購入マンションからの賃料収入を収益とし、管理費を控除した上で利益配分するスタイルです。

 これは、実は、既に欧州やアメリカにおいては、イスラム銀行がかなり活発に実行してきたことです。日本ではこれが初めてのケースで、他にもイスラム銀行は数多くあるわけで、多分後続がやってくるのではないかと私は考えています。

問題点

 次にイスラム金融の問題点を考える一例ですが、イギリスのノエルクールソン博士の論文から、その内容の一部を引用させて頂きます。問題の所在をご理解いただけるかと思います。

 一見して、アラブ諸国は西欧流の法律を導入しています。為替手形などもほとんど西欧流の制定法です。ちょっと古い話で、アラブ首長国連邦の1つの国で「ある事件」があったのですが、いまも基本的な構造は変わっていないので参考になると思います。UAEに「BOO=バンク・オブ・オマーン」という銀行があり、そこから借り入れをしている事業会社「ABCカンパニー」というのが登場します。このABCは年利12%というお金をBOOから借り入れていました。有利子ですから、イスラム金融ではありません。この例は、有利子取引の世界で起こった事件です。ある日、ヨーロッパ人のミスターXがABCカンパニー本社に現われて、申します。「利ファイナンスをする気があれば、金利7.5%、ドイツマルクで2,000万マルクを用意できる。ただし、約手で5年間、毎半年均等払い。9枚の約手を振り出す必要がある。これをロンドン割引く」というものでした。

 ABC社はこれに同意し、実際に約束手形を発行します。しかも、取引銀行=借入先であるBOOがその手形を保証しました。その保証手形はミスターXに手交され、Xはロンドンのロイズ・バンク・インターナショナル(LBI)という銀行に持ち込んで割引きが行なわれた。ところが、割引かれたお金は、Xもろとも消えてしまった。ということで、後には手形債務、保証債務が残り、肝心の資金は消滅ということで、最悪の事態発生となりました。

 さてそこで、「LBI(ロンドンの銀行)」、UAEの「ABC社(手形振出人)」、「BOO(保証人)」の三者の関係はどうなるでしょうか。LBIは、当然のこと、保有手形上の債権を根拠に、返還請求の訴えを管轄裁判所に提起しました。ところが、ABC社とBOAは、逆に請求権停止の訴えをUAEの裁判所に提起したわけです。かくして、UAEの法とヨーロッパの法律が正面からぶつかる事態に発展します。

準拠法源の多元性

 まず、UAEの裁判所は何を根拠に判断をするかという法源ですが、大きく見て4つあります。1つはUAEが新たに西欧流に制定した「手形小切手に関する制定法」です。次に、「シャリーア」です。それから「法および公序良俗に反しない慣習」です。最後に、「自然な正義と法」ということです。この4つを法源=法基準にして判断します。

 LBIはUAEの裁判所には出頭せず、出廷しても、言うことは決まっており、要は、LBIはBOOの保証付き、ABC社振出の約束手形の「正当な所持人」である。LBIの権利は商法および商慣習に照らして明白である。故に振出人ABCおよび保証人であるBOOは手形面に記載の金額を支払う義務がある。なお、LBIは「約手記載文言の背後にある事実関係にはまったく関知しない」という主張である。この判決はどうなったかといえば、主たる被告「ミスターX」は、当初合意した金額をABC社に引き渡していない。その債務不履行は「XとABCとの合意を、そもそも拘束力ある契約とは見なさない」というものであった。その結果、「BOO署名の保証も法的根拠を欠くものとなる」という判定とななった。手形署名者の証券上の義務責任に言及しつつも手形行為の原因となった本来取引の真実を直視した判決になっています。これは、西欧流の制定法(=西欧輸入の法概念)と伝統的なイスラム法概念(シャリーア)を融合させた典型的な判例であると考えられています。

 制定法についても、たとえばABC社は利息付きローンを12%約定で借りていたわけで、一見利息や有価証券といった法概念を認知しているように見えるが、実際の裁判など、極限では「当然のことのようには適用しない」で、イスラムの伝統的な「シャリーアに戻ってしまう」可能性を示唆しているということです。

 つまり、金銭も含めモノはすべてそうなのですけど、イスラムによれば、「金銭が借主に現実に引き渡しされない限り拘束力を生じない」と、きわめて明確に示されています。ABC社のケースにしても、ミスターXの場合は金銭の引渡しが行なわれず、手形借り入れは「拘束力を生じなかった」つまり「そもそも無効な取引」でした。また、保証は拘束力ある債務に対するものである。したがって、BOOの保証行為は法的前提を欠くので「無効」である。かくしてABCおよびBOOの両者とも支払請求を拒絶するにいたりました。

 したがって、借り入れ約定では建前上は英法を適用するとか規定されていますが、一旦トラブルが起き、徴収しうる資産が外国になく、彼の国まで取りに行かねばならぬときは、イスラム法が前面に出てくることも想定し、相当覚悟する必要があることを示している。準拠法源の多元性というのは、そういった意味で、イスラムである限り、シャリーアの法源性が消えることはないと見られます。個別には、どこまで重く判断基準にされるかはあっても、必ず入ってきます。通常の場合、相当の重きをもって判断基準になると考えて頂くほうが自然だと思います。

流動性

 先程からのムラーバハ(商品売買契約)形態で取引の7割が行なわれているので、どうしても商品取引を通じるため資金の自由度が制限される事情もあって、なかなか預金の信用創造力が出てこないという問題があります。その意味では、常に流動性不足が貸手の側にも見られます。この流動性をどうやって補っていくか。ボンドの形でセカンダリー市場を整備し、流動性の増大につなぐという試みがあります。細々ではありますが市場の整備が進みつつあると言うのが実情です。それでもイスラム金融のマーケットは、拡大しつつあり、現在世界全体では、2,500億ドルとか2,800億ドル、あるいは3,000億ドルとも言われます。年間10〜15%、あるいはもっと伸びていると言われ、イスラム金融の高い潜在成長性が期待されているわけですが、さらなる成長を望むためには、いかに流通市場を整備していくかが当面の課題になっています。

多元企業統治

 これも企業統治のむずかしさもあります。たとえば、コンプライアンス、BISの規制に加え、先程来の運用の目的あるいは商品等々が、きわめてシャリーア上の制約を受けるとともに、通常銀行以上に、二重三重の制約を受けることもあり、特にシャリーアの場合には監督委員会も設立する必要があり、習熟した人材の養成も重要なポイントになってきます。 

 イスラム金融では、会計基準も通常のそれとやや異なっています。商品の転売にしても、現金ベース、つまり未経過利息などの未経過勘定で立てることは難しいということもあります。より公平で客観的な客観的な基準、運用も必要とされています。イスラム金融の拡大に伴い、有利子金融との境界線の取り扱い等も含め、よりイスラム金融としてのグローバルスタンダードを整備していく必要が生じている状況です。

 一応、大雑把ながらイスラム金融の触り程度をお話し申し上げました。ご清聴いただき有難うございました。(拍手)


質疑応答

質 問

中村と申します。2点程、気になるのですが。1つは、イスラムとの金融取引では金利が非常に難しい。我々もたいへんな経験をもっているのですが、現実は膨大な取引になっているようですね。先程、シェア4.4%というお話でしたけど、大半は金利として授受される普通の銀行取引が行われているという理解でよろしいのでしょうか。私の記憶ではサウジなどでは「金利という概念は用いず、銀行のサービスに対するコミッションとして、」と観念して取引がなされていたというような記憶です。いまや一般的に「金利」という顔で罷り通っていると理解するのでしょうか。

第2は、イスラムのシャリーアでは「退蔵がダメだ」というお話がありました。中近東の産油国は、バハレーンに限らず、莫大な金融資産を抱えており、それをロンドン、スイス他に退蔵していると思うのですが、そのへんがちょっと分りにくい。具体的に教えていただければありがたいと思います。

   
講 師

現実問題として、イスラム・シャリーアの適用は、銀行によって相当なバラツキがあります。たとえばあるサウジの銀行は、イスラム金融部門と通常コンベンショナル部門とありますが、サウジでイスラム部門で実際に金融サービスを展開する中で、サービスチャージという名目で「金利に相当するものを取ったり、渡したり」のケースは一般的に行われていました。ただし、実態は金利であっても、金利という表現は用いず、実際の取引が行われていたのも事実です。これは、一応有利子取引とはみなされておりません。

ただし、より厳格なイスラム銀行の場合には、利子を純粋に何とか排除しようと相当な努力をしています。たとえばアルラジ。あの辺りはかなり資金の受け渡しも堅実な運用を試みているようです。単純なサービスチャージとか、フィーというものでは授受はされていないと聞いています。なお我々が直面したケースも、そういうことは排除した形で、実際の売買契約で参画する取引でした。

質問のもう1つ、退蔵のほうにお答えします。仰る通りで、いいかどうかは別にして、お金持の方は国外に退蔵されるという見方は否定しえないかもしれません。モハメッドのいた頃は、キャピタルフライトなど存在しない世界のお話だったわけで、メッカという限られた地域内で資金の有効配分という観点から粛々と禁止されたわけです。本来は、もっと生産活動に向けられるべき資金ですから。

先程申し上げた「ロンドンでの事例」を補足させて頂きます。商社のロンドン支店から本邦に為替手形を振り出します。船荷証券が付いて銀行もB/Lに裏書きするので、荷為替手形で買い取るということはとりもなおさず「商品売買契約=モノの売買そのもの=ムラーバハである」という見解を試みましたが、実際は残念ながら不成立でした。「手形の買い取りは、あくまで請求権の買取であって、所詮荷物は請求権不履行に対してのみB/L上の物品を処分し、代替回収できる譲渡担保でしかない。したがって手形買取は商品売買そのモノでない。したがって商品売買契約には該当しない」と判定されました。

 


講師略歴

今平 和雄 (いまひら かずお)

昭和23年3月3日生れ
昭和46年 3月  早稲田大学政治経済学部卒
同年46年 4月  東京銀行(現 東京三菱銀行)入行
昭和49年 7月  カイロアメリカ大学留学
昭和53年11月  名古屋支店支店長代理
昭和54年 1月  資本市場部部長代理
昭和56年 5月  ベイルート駐在員
昭和58年 6月  ロンドン支店国際金融室
         シンディケーションマネージャー
平成2年11月  海外部次長
平成7年 4月  ホーチミン駐在員事務所所長
平成8年 4月  ベトナム総支配人兼ホーチミン支店長
平成13年 2月 日本電産海外事業部長(出向)
平成14年 4月 バハレーン経済開発委員会駐日代表