「ウェルネスの新しい組織論」

 

講 師 早稲田大学大学院 教授

寺本 義也

平成15年3月18日 於:如水会館

【無断転記転載を禁ず】

社団法人 如 水 会

 


















◆内容目次

はじめに

          私と一橋とのかかわり

          アジア太平洋研究科

          MOT

          ウエルネスとはなにか?

          QOL

          消耗戦からの脱却

1 組織論の挑戦課題

        【コミットメントを引き出す】

          仕事のやり方を変える

          キャノン我孫子工場のケース

        【言葉を変える】

          氾濫するカタカナ、ローマ字略語

          ビジネス・モデル――日本語に置き換える

          コミットメント

          多様性を活かす

          透明性を高める

          2つのジャスティス

2 オルフェース・プロセス( Orpheus Process)

          1人ひとりがプロの集団

          高いスキル

          共通語

          共通のミッション

3 人と組織をいかに賢くするか?

          だめな組織の特徴

          賢くなる組織の前提

          桃太郎集団

          知識共有

          伝わりにくい人間の五感

          全体概観

          TOC

          自在連結

          仮想実験

          セブンイレブンのケース

          シリコン・バレーの仕組み

          浜松のケース

          クエスチョン

          ミサワホームのケース

          グッド・クエスチョンとクリエイティブ・ルーチン

          キーエンスのケース

結び:楽しむに如かず


質疑応答


【無断転記転載を禁ず】

 社団法人 如水会

 

 



はじめに      

 

私と一橋とのかかわり

 ご紹介頂きました寺本でございます。実は一橋のOBの皆さんの前でお話をさせて頂くのでたいへん光栄だと思っておりますが、私が学部、それから大学院のときの指導教授は実は古川栄一先生でありまして、そういう意味でのご縁があるわけであります。あの頃は、そういう年代の方はご存じだと思いますが、経営学の方では古川栄一先生、藻利重隆先生、それから山城章先生と、まだたくさん立派な先生方おられましたが、ちょうど同じぐらいの年代でそれぞれ学派を形成されてわれわれもいろいろ指導を頂いていました。それからいま隣のビルで教えておられる野中郁次郎先生は早稲田では私の先輩になりまして、それでいまご紹介のなかにもありましたが、「失敗の本質」という本を私も一緒に書かせて頂いて、それで野中さんが北陸先端大学院というところで知識科学研究科というのを作るから、私はその当時北大におったのですが、北大なんぞという古臭いところにいないで、こっちへ来て一緒にやったらどうかと、こう言われまして、それで一緒に北陸の方へ出かけておりまして、それで一昨年ですか、2000年からいま高田馬場の方に勤めておると、こういうようなことでございます。

 

アジア太平洋研究科

 いま私が所属しておりますのはアジア太平洋研究科という大学院だけの部署なんですが、名前がわりと、なんていいますか、アバウトな名前になっていますので、いま大学院生が修士課程が約700名、とにかく多いんですね。それから博士課程が約200名で、900名総勢おりますが、そのうち45%が留学生で、このあいだ数えましたら32カ国から来てるということで、隣の一橋の国際企業戦略研究科も、あそこは英語だけでおやりですが、私どものところは英語と日本語での講義がセットになっておりまして、まぁ研究指導も英語、日本語両方で対応するというようなことを今やっております。

 

MOT

今年の4月から、来月からになりますが、MOTという、あまりお聞きになったことがない言葉かもしれませんが、これはマネジメント・オブ・テクノロジーといいまして、日本語では技術経営というような訳し方をしておりますが、日本の特に製造業といいますか、モノを作る産業が非常に今やはり、もちろん元気のいい会社もありますが、なかなかブレークスルーが、もうひとつその先にいかないという会社もたくさんありますので、われわれとしてはその日本の企業というのは、あるいは産業全体もそうですが、技術力の評価では国際競争力評価でいきましてもトップクラスになるんですね、技術力そのものは。 ところがそれが具体的な商品ですとか、サービスとか、あるいはもっというとビジネス、あるいはその売上げとか利益とかキャッシュ・フローにどうもうまくここのところがつながってないなと。つまり技術力の評価は非常に高いんですが、それがアウトプットとしてどういうかたちでビジネスの成果につながるかというと、ここが残念ながら必ずしも高くないと。

 

そうするとここのあいだのギャップをこれどうやって埋めるかということになるんですが、結局はその技術がよく分かって、それをビジネスにつなげるような、そういう人材を日本全体で急速にこれから育成していかなきゃいけないということで、いま文部科学省じゃなくて経済産業省が非常に熱心にいろいろな予算をですね、つけてくれておりまして、そういうことで今そんな新しい、まぁ技術系のMBAなんていう言い方をすると、あるいはお分かりやすいかなと思うのですが、日本のベンチャー・ビジネスもまぁ数年前にワーッとこう、ブームにいっときなったのですが、なかなかそのあとうまくこう、2段ロケット、3段ロケットにつながらないという話がありまして。それにはいろんな理由があるのでしょうが、一つはどうもそういうベンチャー・ビジネスにですね、ほんとの意味での、技術のタネというか、核がどうもちゃんと入ってないと。そうするとなんかこう、ビジネス・プランといいますか、事業計画書みたいなものをうまくまとめるとなんか、かつてはですが、いろんなお金が出てきたと。どうもそうじゃなくて、やっぱりそういう事業企画と技術みたいなものですね、広い意味での。それをもっとうまく直結するような、そういうマネージメントができる、そういう人材をやはり相当これから計画的に育てる必要があるというので、実は東北大学ですとか、東大の先端系の一部ですとか、それから私学ですと早稲田ですとか、それから東京でいいますと芝浦工大なども今年の1月からおやりになるようですし、名古屋大学、九州大学もやはり取り組まれるということで、少し全国的ないま広がりができつつあるということをまずお話しておきます。

 

ウエルネスとはなにか?

きょうの本題は「ウエルネス」。皆さん今回はウエルネス・シリーズでずっといろんなお話をお聞きになってると思うのですが、ウエルネスというようなこういう世界で、その組織のあり方、あるいは作り方で、どういうものが考えられるかということをちょっと考えてみたいというふうに思います。副題に「指揮者のいない交響楽団」と書いてありますが、これはちょっとあとでお話をさせて頂きます。それで、「ウエルネス」ということについてはもういろんな講師の方々からお話をお聞きになっていると思いますが、これをそのままビジネスにしている、まぁ私から言わせれば青年がおりまして、ご存じかもしれませんが、一橋の卒業生で山下君というのがこの下に事務所を開いておりまして、その新しいオフィスを、先ほど見学して来たんですが、彼にウエルネスの話を何回か聞いたんですが、何回聞いてもよくわからないのであります。ウエルネスという考え方もよくわからないのに、それがどうやるとビジネスになるのかというそこのところがどうもよくわからないと。まぁ私の理解力が乏しいのだろうと思うのですが。

 

QOL

ウエルネスというのは要するにそこに書いてありますが、クオリティー・オブ・ライフという、一般には生活の質という言い方をしますよね。で、それは私は先ほどの山下さんから聞いたときにQOL、生活の質、うーむ、そういう訳し方もできるけども、ライフというのは生活、暮らし、以外にもう一つライフというのは生命、命という、 まぁもちろん関係はあるわけですが、命の質を高くするということも大事ですよねと。日々の暮らしの質を高めるということがそれになるといえばそうですが、やっぱり人間がこう、世の中に生まれて来て、まぁいろんな仕事をして、そしてやり遂げて後と交代していくと。しかしその一生の間の命の質というのをどうやったら上げられるかと、ということは実は生きてるあいだだけではなくて、われわれがその、この世からさようならしたあとも実はわれわれ生きてるわけでありまして、たしかに物理的には生きてないんですが、やっぱりそれは生きているんですよね。だんだんそういう感じが私なんかするわけです。私の父親も母親ももうしばらく前に亡くしましたけれども、やっぱりまぁ折に触れてといいますか、やっぱりなにかのとき、1日にいろんなときに思い出すわけですね。そうするとやっぱりそれはもちろん物理的にはいないんですが、そうじゃない意味ではまぁいるわけですよね。

 

そうするとやっぱり亡くなってから、死んでからの生き方というのも実はあるんじゃないかと。そういうことも含めて命の質をどうやったら高くできるかと、質のいいものにできるかというのがウエルネスの非常に大事なことかなと思うのです。

そうなるとそういう活動をどうやって一つの、1人が、個人がただやるだけではなくて、それをいろんな人が集まってそういう活動をかたちにしていくと。そうすると当然組織のようなものが必要になるんですね。じゃどういう組織がウエルネス型の組織なのかというのがきょうの課題になるわけです。

 

消耗戦からの脱却

その次のところに、皆さんのメモのですね、「消耗戦からの脱却」と。いきなりなんか別のキーワードが書いてありますが、最近いろんな会社にお邪魔していろんな方のお話を伺うとですね、どうも元気がいいのは社長と女子社員だけなんですよね。けさも午前中トヨタグループの1社であります、鍛造品を作っているメーカーの愛知製鋼という会社があります。そこへいってトップの皆さんといろいろとお話を伺ったり、意見交換というとおおげさですが、お話をさせて頂いたんですが、やっぱりどうもそんな感じがするんですね。

 

つまり社長さんと女子社員は非常に元気がいいんですが、あと男性の諸氏はですね、副社長以下なんとなく疲れているという感じがあるんです。で、これにはまぁいろんな理由がもちろんあるのでしょうが、どうもやっぱり最近のビジネスの現場というのが、どうもどんどん、どんどん消耗戦といいますかね。要するにやってもやってもこう、歩留りが、いい意味での歩留りができて、それがストックにつながって、それが次のアクションのベースになっていくと。どうもそういう感じじゃなくて、もう際限のない消耗戦をえんえんとやっているという感じがあるんですね。これはウエルネスの組織論からいうと反対の極にあるわけでして、どうやったら消耗戦から抜け出て、もう少しですね、いろんな仕事をやりながら、なんていいますかねぇ、関係者が、トップから担当者の人までがどうやったらもっとハッピーになるというか、もっといえば賢くなるといいますかね、そういうような組織とかマネージメントというのはないんだろうかと、まぁいうのがそもそもの問題意識なわけであります。

 



1 組織論の挑戦課題


そういう意味で今どこの、ビジネスだけでなくていろんな、もう日本中いろんな組織が改革とか革新とか変革とか、まぁ変えなきゃいけないということをずっと言いつづけているわけですね。だけど考えてみますともうそれを12、3年、バブルが終わったのが91年というふうに言われてますから、そこから数えますともう12年、まるまる12年経ってもなかなか、先ほど言いましたように具体的なその改革、変革の成果が目に見えるかたちで出てこないというのが、多くの組織の状況だろうと思うのですね。そこで、どうしてだろうかというふうにちょっと考えたのですが、一生懸命その変える努力はされてるんですよね。それでもなかなか変わらない。いったい、どこに問題があるのだろうかと。

 

どうも最大の問題はですね、変え方、変えるというね、変革とか改革の、その変革、改革、変え方がどうもパターン化しちゃってて、なかなか現場の第一線でやってる人のところまで、ほんとうの意味で思いが、なかなか伝わっていかないんじゃないかと。ですから結論からいうと変え方を変えないとどうもだめじゃないかなという、そんな感じもするわけですよね。それで変え方を変えるときにどんなポイントがありそうかという、私はどうも3つぐらいのポイントをどうも押さえないと変え方が変わらない。ちょっとこの話に関連はあるんですが、まぁ最近そんなことを考えてるものですから、じゃ変え方を変えるときのポイントというのは、先ほど3つと言いましたが、何と何と何だろうかと。

 

【コミットメントを引き出す】

 

仕事のやり方を変える

1つはですね、仕事のやり方を変えるということですよね。仕事のやり方自体を変えると。最近そういうことをやって成果が上がってきている会社もずいぶんありますね。たとえばモノづくりのところでいいますと、今もう日本の主なモノづくり産業からベルトコンベアがどんどん、どんどんなくなっていますね。もうどんどん撤去して、ですからベルトコンベアで分業して、それで能率が上がると、標準化していくという、そういう仕事のやり方じゃなくて、今は松下電器も全社にそういう、仕事のやり方を変えるということを実施しているんですが、もう完全にセル生産方式という、皆さんご存じだと思いますが、数人のチームで1台の機械を全て組み立ててしまうと。今はそれがもっと進化しまして1人セル生産方式、ちょうど作業担当者の周りに部品をきちんと並べて、それでやるものですから、それを屋台と言ったりしますが、1人屋台方式とか、1人生産方式、1人セル方式。

 

これをやりますと、1人1人の担当者が全体の工程が全部、まぁ当たり前ですが、見えるわけですね。理解できる。そうするとやっぱり知恵が出るんですね。やっぱり全体が見えないとなかなか知恵が出ない。分業をやればやるほど全体が見えにくくなります。

 

キャノン我孫子工場のケース

それで有名なといいますか、最初にやって非常に効果が、大きな成果が   上がったというので皆さん見にいかれるんですが、キャノンの我孫子工場というのがあるんですね。そこへいきますともうほんとに1人セル生産方式に切り替わっていまして、1人の女性の担当者の人がデジダル複写機ですね、最新型の、部品は全部細かくばらすと2万点近くあるんですが、それを全部こう組み上げていくわけですね。それで全部組み上がった後、ここから先が非常に大事なんですが、その機械を組み上げますと、そうするとまぁいわゆる名盤といいますかね、どこどこ社でいつ作ったと、どこの工場だという、そこのところにその作った人が自分で自分の名前をサインする。そうするとこれまた知恵が出るんですよね。

 

検査部門が何日検査したという検査済じゃなくて、作った人がそこへサインするわけですね。で、全体が見えて、それでそういう1つ1つの作業、あるいは機械に自分がコミットメントしたと。まぁ責任を持って仕事をしたと。つまり機械と作る人が一体感を持つといいますかね、そうするとまた知恵が出るわけですよ。そういう意味でどうも仕事のやり方を変えるというのが1つ。1つの例ですけどね、今の例は。

 

【言葉を変える】

 

氾濫するカタカナ、ローマ字略語

2つ目は言葉を変える。われわれはものを考えたりするときは言葉で考えますよね、通常。いま私も言葉を皆さんに話をして、言葉で皆さんは理解をされていると。言葉だと。日本の企業の競争力が弱体化した、低下したとよく言われまして、そのとおりの部分が多いのですが、その原因というのはいろいろあると思うんですけれども、私はその非常に重要な原因の1つは、いま会社の中に、あるいは職場の中にやたらにカタカナ語が増えた。

 

それからローマ字3文字語ですとか4文字語というのがどんどん、どんどん入ってきた。これが実は日本の企業の競争力を弱めている非常に大きな原因の1つだと見ているのです。それはどういうことかといいますと、今から振り返ってみますと90年代ですね、1990年代の初め、前半にですね、例えて言いますとBPRという言葉が入ってきた、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング。もうご存じの方はよくお分かりでしょうが、なかなかそれはどういうことであって、何がポイントでと言われるとなかなかよくわからない。

 

日本語では、いわゆる日常業務、業務プロセス、業務の抜本的改革というような日本語があったりしますが、なかなかじゃ何をどうすればいいんだということはよくわからない。

 

そうこうしているうちにどんどんまた新しい言葉が入ってくる。たとえばERPなんていうのがもうあれですね、一般名詞に近いようなかたちに、エンタープライズ・リソース・プランニング。基幹的統合業務システムとかいうんですが、これも分かったようでわからない。お分かりの方はもちろん分かるけど。そのうちにもっとひどいのは、特に情報、IT関係はもうカタカナ語の世界でありまして、そのうちに「レガシーなシステム」なんていうことを関係者が言うようになった。私もその言葉を最初に聞いたときにレガシーなシステムというのは何のことかよくわからなかったんですね。で、ひょっとしたらこれは車の話かなと思ったら(笑)、それは違うというんですね。なんか聞いてもちょっと分かったようなわからないような話だ。そのうちにこんな話も。

 

その業績評価の指標としてはROAだと。いや、やっぱり株主価値でいうとROEだと。いやいや、やっぱり資本コストを考えるとEVAだと。いやいやMVAの方がもっと正確に評価できるとかですね、最近はまたバランス・スコア・カードというBSCという、われわれBCGというのを打った憶えがあるんですが(笑)、BSCというんですから。で、正確にはバランスド・スコア・カードというのが正しいとか。こうなりますとね、要するにどういうことかというと、担当している人たち、事務局をやっている人たちもよくわからないわけですよ。それで関係者がよくわからないことを一生懸命やってもぜったいに成果にはつながらないですね。つまり関係者が腹に落ちてないんですよ。そういう言葉が消耗品のごとくどんどんくるわけです。で、もうほとんどがアメリカからくるわけです。ですからやればやるほど、真面目な人が取り組めば取り組むほどもう現場は混乱しちゃうと。こういうような結果にどうもなりがちなんですね。

 

ビジネス・モデル−−日本語に置き換える

ビジネス・モデルとかいう。それで特許が取れると、ビジネス・モデル特許とかいう話になるし。これからはそれぞれの組織、会社はコア・コンピタンスを持たなきゃいけないとか、ですよね。それから1人1人はコンピタンシーだと。まぁ皆さんはほとんどお分かりになってると思いますが、なかなかこれ一般の人ですね、現場で仕事をしている人たちがほんとに腹に落ちて、呑み込んで仕事ができるかというと、できないんです。それで、きょうここにいる皆さんはほとんど在日日本人の方ですよね(笑)。いや。アメリカへいけば在米日本人と言われるわけですから。

 

つまりわれわれですね、日本でまぁ仕事をしたり、考えたり、いろいろするときはやっぱり母国語、日本語で考えるんですね、特に深く考えるときは母国語で考えるんです、どこの国の人でも。英語圏の人はやっぱり英語で考えるんです。それから中国の人はやっぱり中国語で考えるんですね、深く考えるとき。つまりその横文字とか3文字、ローマ字でやってると深く考えなくなっちゃうんですね。で、深く考えて、ほんとに知恵を絞り切って、それで関係者が腹に落ちて、それで取り組んでやっぱり初めて成果につながるわけです。ですから特に重要なキーワードといいますかね、こういうものはいったん日本語で言ったらいったいどう言うんだと、いうことをやっぱり折に触れて関係者で考えるということも必要じゃないかと思うんですよね。で、特に日本語に置き換えてみますといいことは、つまり分かりやすいっていうことだけではなくて、日本語の世界でもってわれわれが古くからですね、蓄積して来た知恵ですとかね、それから文化ですとかね、いろんな価値とか伝統とか、そういういい意味のですね、そういうものと日本語の世界でつながっていくわけですよ。

 

ところがカタカナ語とかローマ字3文字でやってると、そういうものとつながりがほとんどなくなっちゃうんですね。根なし草的な話になっちゃう。ところがアメリカのいいところはどんどん真似、真似といいますか、参考にしていいんですが、そういうことを消化不良のままやってても、それで一生懸命やってもやっぱりなかなかこれ、アメリカに対抗してですね、やっていくというわけになかなかいかないんですね。

 

コミットメント

そういう意味で私のこのメモにもところどころカタカナ語が出てきますが、コミットメントというのが次に出てますね。組織論の今の大きな課題はコミットメントなんですね。ゴーンさんがよく日産の社内で言われるわけです。コミットメント。それでゴーンさん辞書(ゴーン・ディクショナリー)でいいますと、これは必達目標ですね。コミットメントしたよって、私とあなたが、まぁ分かりやすくいえば握ったということになるんですが、これ必達の目標ということなんですね。握った以上はもう必ずやる。ですが、これも日本語一言でいえば何だというと、これは逃げないと、逃げない。

 

コミットするということは逃げないっていうことなんですね。実は、これは非常に大事なことですよね。社員は積極果敢にとは言いませんが、社員はけっこうリストラクチャリングでどんどん整理しちゃうけど、トップ・マネージメントの方はなかなかリストラしないみたいだね、そんな話とか、これコミットしてないということですよ。つまりあの人はいいこと言ってるけど、いざ厳しくなると逃げちゃうという、あるいはあの会社は非常に立派なこと言うけど、いざとなると逃げちゃうという、このコミットメントしない、つまり逃げるということですから。逃げちゃうとやっぱりぜったいまずいのはこれ信頼関係、信頼感がぜったいできてこない。信頼感とか信頼関係がないところで、いくらいろんなマネージメントの手法を弄しても、ぜったいにそれは成果が出ない。ということでまずどうやったらそういうその自主的、自発的、内発的に逃げないという、そういう姿勢を引き出せるかと、いうのが1つまぁ非常に大事だと。これは上から下まで共通の課題ですよね。

 

多様性を活かす

それから2つ目のそこに課題と書いてありますが、やっぱりこれからの組織というのは、これは特に日本の組織の場合ですが、もっと多様性を抱え込んでそれを生かしていくと。こういうことが非常に大事でありまして。やっぱり20世紀型のビジネスの世界というのは、まぁいろいろ言いますけども、圧倒的に男だけがまぁいわばメンバーシップがあってですよね、だいたい皆さん永らく同じ組織に所属すると。それはもちろんそのこと自体は悪いわけじゃないんですが、どうしても同質化しちゃうと、いうことになるんで、できるだけ多様性をむしろ楽しむぐらいのね、ところへいかないとなかなかだめですねと。つまりいろんな多様な人材というか、多様な知識とか多様な知恵っていうのがあると、それがその相乗効果を発揮して非常に強い組織になりますねと、いうことが2つ目。

 

透明性を高める

それから3つ目は組織の挑戦課題としてはやっぱり外からも中からも、はっきり言えば非常に分かりやすくて、まぁ開かれているといいますか、透明性が高いということが非常に大事でありまして、特に透明度をどこで上げるかというと、英語ではジャスティスという言葉がある。これまぁ「正義」という訳し方もありますが、「公正」、公正ですよね、ジャスティス。

 

2つのジャスティス

それでジャスティス、公正には2つの公正があると。一つは結果の公正、結果の公平といってもいいんですが、結果をできるだけ公平に分配しましょうねという、それは1つの、これは英語ではディストリビューティブル・ジャスティスというんですね、つまり配分上の公正。もう1つはですね、もう1つの公正は英語ではプロシーディアル・ジュスティスと言うんですが、手続き上の公正、つまり決定するときの決定の基準ですね、評価するっていう、評価の基準ですとか、あるいは評価した結果ですとかね、そういうつまり手続きに関する公正さ、つまりそれは機会の、機会ですよね、オポチュニティーの公正さと言ったほうがいいですが、徹底的に情報を開示していくと。情報をディスクローズしていく。

 

で、その結果、結果は当面頑張る人とそうでない人が出てくるんですけど、これはその正しい評価をしていかなきゃいけないんですが、その今いった2つの公正ですね、結果をできるだけ平等にするのがいいのか、手続きなどをきちっと公正にしたほうがいいのか。これには実はいろんなアメリカ、ヨーロッパ、日本での研究があるんですが、実証例が。

 

その結論はですね、結果の公正よりも手続きの公正さのほうがよほどメンバーがコミットすると。つまり逃げないといいますかね、主体的にコミットするということと、それからそのほうがよっぽどいろんな人が参加して、多様な人が参加して、共同して成果を実現するということにつながると。ですからもうできるだけその情報を開示すると、提供する。それもできるだけスピーディーに提供するということが非常に大事だと言われているわけです。

 


 

2 オルフェース・プロセス(Orfpheus Process)


こういうことを実はやっている組織があるんですね。それは非常にウエルネス型の組織でオルフェースとそこに書いてありますが、これはご存じの方もいらっしゃると思いますが、ニューヨークをベースにした交響楽団です。オルフェース・オーケストラです。今度、ウィーン・フィルは小澤さんがコンダクターになる。すでにもうなっています。それぞれ著名な一流の楽団、世界的な水準で見て。それらはやはり一流のコンダクター、指揮者がいるわけです。ところがこのオルフェースというのはいろんなアメリカで賞を取っている非常に演奏水準の高い交響楽団の1つですが、コンダクターがいないんです。コンダクターレス・オーケストラです。指揮者を一切置かないんです。

 

指揮者を置かなくてどうやってそのまとまって練習をして、それでそれが高い演奏につながるのかという、そこなんですが、オルフェース・プロセスというのはですね、まず最初にですね、何をやるかというと、今度こういう、まぁ英語ではパフォーマンスといいますね、こういう演奏をやると。曲目はこうだと。まぁそういうことが決まってきますと、そうするとそれに応じてまずメンバーを集めるんですね。オルフェースの楽団のですね。

 

ある程度一定期間長中期的に3年とか5年とか、そういうサイクルでコンスタントにメンバーとして参加してる人が3分の1位で、あとの3分の2位はそのつど演奏曲目が決まると、いわば公募でもないんですが、募集して集まる。で、この最初の3分の1のメンバーもこれ何年かで入れ代わってきますから、そういうかたちでかなり流動的なメンバーが集まって、それで今度はこういう曲目だと。そうするとパートがありますよね。オーケストラを構成する。パートごとで話合って、それでそのときのコンサート・マスターを誰にするか。それから各パートのリーダーを誰にするかをみんなでディスカッションして決めていくわけです。というのはやっぱり曲目ですとかね、作曲家によって得手、不得手、得意、不得意がありますから、やっぱりそれにいちばんふさわしい人を、これはもうプロ同士ですから分かるわけですね、すぐ。じゃ今回はあなたがこのパートのリーダーですよね。それから全体をコーディネートするコンサート・マスターは今回はあなたになってもらいましょうと、こういうことです。で、そういう人たちを演奏するごとに選ぶわけです、みんなで。こういうメンバーをコア・メンバーというふうに呼んでます。


そのあとはコア・メンバーが比較的中心になって練習のプログラムを作ったりしていくわけですね。だけどその練習の途中で、実際に各パートごとで演奏すると。そうするとほかのパートの人が聴いてて、それに対していろいろそのレビューをするわけですね。そこの音がちょっと弱いんじゃないかとか。ここはこうだと。まずですね、あの人たちはプロの世界ですから、それぜったいにやらないんです、普通の楽団では。それはお互いにその領海侵犯みたいなことになっちゃいますからやらないんですよね。まぁ腹の中ではいろいろ思うことあるでしょうけど。だけどそれを相互に批評し合って、レビューをとると。いうようなことをやって、それで当日演奏をやると。で、演奏が終わったあともまた全員が集まってミーティングやって、あのときのあれはこうだったよねというような、また全員でレビューをする。そこまでが1つのサイクルなんですね。で、また次のシーズンで次の演奏の曲目をみんなで決めていくと、また同じようなプロセスが成立するんですね。

 

1人ひとりがプロの集団

ですからそういうように1人ひとりがまずプロで、そしてそういうプロフェッショナルな人たちを非常にそのミッションといいますかね、演目、題目に応じてそのつど組み合わせを決めていくと。それからお互いにプロ同士で非常に腹蔵のないといいますか、もう腹を割った批評をお互いにすると。こういうようなことをやってるんですね。

 

それで全体として非常に高い演奏のレベルを維持するというか、あるいはそれをさらに高めていくと、いうようなことをやっているわけです。ですからリーダーシップがぜんぜんなくて烏合の衆ではないんですね。こういうその、よくネットワーク型の組織とかいうことをいいますね、こういうピラミッド型ではなくて。今のオルフェースというのはそれに非常に近いわけですが、こういう組織が高い成果を上げるためにはやっぱり条件があるということですね。

 

高いスキル

1つは1人ひとりのメンバーがやっぱり相当高いスキルを持ってないとだめですね。素人が集まってワイワイ、ワイワイやってるだけでは、まぁそれは趣味としてはいいんですよ。しかしほんとの意味でプロの評価に耐えるような、そういう高いレベルの成果を実現しようということを目標とした限りにおいては、1人ひとりが相当習練をして、トレーニングをして、それで非常に高いレベルになっていないと。これはニューヨークを本拠地にしているという理由は1つはそこですね。そういうのが成り立つというのは。ニューヨークはご存じのように世界のある種の芸術のセンターの1つですよね。ジュリアード音楽院とか、ああいう著名な音楽スクール、非常にレベルの高いのがたくさんあるわけです。で、そういうところを出た人がたくさん実はいるわけですね。だけれども、固定的な1つの組織の中だけではやりたくないと、いうようなそういう人たちがたくさんいますから、そのつどさっき言ったように、いわば「この手にとまれ」というようなかたちで集まる。つまりそういう高いプロがいるということが1つ。

 

共通言語

それからもう1つはですね、お互いのメンバーのあいだで共通言語が成り立つ。この場合は交響楽団ですから、楽譜という共通言語がありますよね。そうですよね。まぁドレミファソラシドで構成されてますから、まぁそれは音程ですけど、リズムとかハーモニーとかというのがありますから。つまり共通言語が、プロのあいだで共通言語が成り立つということが2つ目ですね。

 

共通のミッション

それから3つ目。これがおそらくいちばん大事なことだろうと思うのですが、共通のミッション、ミッションが共有化できる。つまり目的が共有できる。つまりこの場合は非常に社会的にも優れた演奏をぜひやろうと、あるいはもっと優れた演奏をみんなでやろうという、そういう共通のミッション、高いミッションが共有化されていて、そして共通言語がありますからコミュニケーションが可能だと。で、1人ひとり非常に高いプロフェッショナリティーというか、スキルを持っていると。実はですから烏合の衆とプロの非常に集まりの違いは今いったように3つなんですね。ですから素人だけが集まって、まぁ素人だけで楽しみましょうというのでしたらいいんですが、ほんとの意味でフラットな組織で高い成果を上げるためには、やっぱり今いったような条件がちゃんとあるんですね。で、それはやっぱり相当きちっと押さえておかないとだめですねということです。

 


 

3 人と組織をいかに賢くするか?


実は今いったことはこれからの新しい組織を考える上で非常に重要なポイントの幾つかが出ているわけです。それを簡単にまとめたのが3番目になるわけですが、賢くなる組織をどうやったら作れるかと。いわば消耗戦ではなくて、オルフェースもそうですが、演奏するたびごとに演奏のレベルが上がっていくわけですよ。今いったような、説明したような、オルフェース・プロセスを通じてですね。ですから消耗戦ではなくて1人ひとりのメンバー、あるいはチーム、あるいは組織全体が仕事を通じてどうやったら賢くなれるか。

まぁ演奏家でいえば腕が上がるかということですが、賢くなっていくかと、仕事を通じてですね。これが実はウエルネス型の新しい組織になるのではないかと思うんです。

 

だめな組織の特徴

だめな組織の特徴を最初に申し上げておきますと、だいたい3つぐらい症状が出てくるとそれはだめな組織だと。これは私が考えたというよりは、アサヒビールの社長、会長をやられた瀬戸さんと、お話をしばらく前にしてたら、だめな組織というのはだいたい3つぐらい兆候が出ますから、ここが出てきたらやっぱり組織は危ないですよという話を伺って、なるほどと思ったんですね。口だけの社員が増えちゃうと。口だけの賢い人。まぁ評論家としてもいいのかもしれませんが、いろいろ言われるというんだけれども、それが実践、実行になかなかつながっていかない。実践、実行につながらないからよけい口だけの話が増えるということと、それからまぁ関連してるんですが、その延長線上で汗をかかない社員が増えると。まぁ汗というのは走ってなにかというよりは、知恵の汗ですよね。ほんとに頭を絞って知恵から汗が出るような、そういう社員が少なくなって汗をかかない社員が増える。そうすると組織全体として結局パッションといいますか、情熱といいますかね、使命感というか、こういうものがどんどん、どんどんなくなっていくということになりかねないわけで。こうなると組織というのはどうもだめな組織になっちゃうということで、どうも まぁ日本の国全体もこういうことになっちゃうと困るという話になるわけです。

 

賢くなる組織の前提

そこでそうでない、賢くなる組織、仕事を、職務を通じて、それをきちんとやることを通じて賢くなる組織というのはどうやったらできるかというのが、そこに書いてある実は話であります。前提が1つと、あと4つぐらいのポイントがあるというふうにお考え頂ければいいと思います。ポイントはそういう意味では合計5つになるんですが、1つは前提条件ですね、それぞれのメンバーが自立しているということと、それから多様性が非常にそこにあると。先ほどのオルフェースの楽団で言いますとやっぱり1人ひとりがプロですね。 だけどいろんなパートがあるわけです。それ 全体でオーケストラができるということでありまして、分かりやすくいえば皆さん方にたいへん失礼ですが、初歩的な話になっちゃって恐縮ですが、金太郎飴集団だけではもうだめだと。これからは桃太郎チームでやらないとどうも、ほんとの意味で賢い集団にならないと。

 

桃太郎集団

桃太郎集団というのは非常によくできてる話でありまして、まずは情報をきちんと収集していかないとだめだと。そうすると、あの仲間になるキジというのがおりまして、あれが空からパッと見て、それで帰ってきてこういうことであると。だけど情報だけ集めていてもだめですから、これを分析して企画に落としこまないとだめ。そうすると仲間のサルが活躍するんですね。猿知恵というのをどんどんと(笑)。で、こうしたらいいんじゃないですかと、こういうかたち。だけど情報を集めて企画だけ やってますとだめでして、ゴーンさんは計画は5%、実行が95%と、こう言ったわけですね。計画は要らないという意味じゃなくて、あとのプロセスがものすごい実はたいへんなんだという話だろうと思うのですが、そうするとここで実行力、実践力ということになると仲間のイヌがいて、これがワンキャンいって噛みついてくると。それが桃太郎というそのリーダーが非常にうまくコーディネートしていくと、こういう 異質な集団ですよね。

 

で、尚且つこの桃太郎チームのポイントはですね、桃太郎というリーダーがそのコーディネーションを非常にローコストでやってると。そこがもう1つのポイント(笑)。きび団子ですから(笑)。きび団子でいっちゃうわけですから。だけどなぜ、きび団子でもみんなが頑張るかというと、あれは先ほどの言葉でいえば共通のミッション、ミッションを共有化したわけですよね。鬼ケ島というところへいって、奴らがみんなから奪い取った宝物をいっぱい溜め込んでるから、奴らを退治して、それで元の持ち主に返したらいいじゃないかと、こういうその、言ってみれば、なんていいますかね、個を越えた奉仕といいますかね、ミッション、これがあるからあのきび団子でもいくんですよ。ですからね、成果主義で稼いだやつにはたくさんやるっていう、こういうことばっかりやってますとね、それはそれで大事なことかもしれませんが、みんなで力を合わせるということがだんだんなくなりますよね。こういうやり方だけでいくと。

 

知識共有

日本の組織が強いのは全員参加型でとにかく取り組めるという、そこなんですよね。ですからお金で人を、成果主義という名のもとにお金で人を集めますとね、お金で集まった人はお金で去っていくんです。お金だけで集まった人は。そうですよね。給料がもっと高いところがあるからそっちへいっちゃうとか。まぁそれが一概に悪いっていうことじゃないんですが、やっぱりそのミッションを共有するという、そういうこと、それが1つ前提になるわけですが、その上で最初のステップは関係者全員で知識を共有すると。これは野中郁次郎さんが言われてるような話でいえば、形式知だけでなくて暗黙知も共有すると。

 

文字や言葉や数字で表せないような、そういうものまで共有しなくちゃいけないということになるわけでありまして、そういうものを徹底して共有化していくと。こういうことが可能なのもですね。1人ひとりをもう徹底的に個人主義的に成果主義だけでやると、これなかなかできないんですよね。やっぱり先輩が後輩に教え、そして仲間同士で教え合う、あるいは切磋琢磨するというような、そういうやっぱり仕組みが一方でないと知識の教育はできないのでありまして。そういう意味で言いますと、ここにちょっと書いてありますが、文字や言葉や数字というのは形式知ですから、これはわりと伝わりやすいんですが、こっちの暗黙知というのはなかなか、経験とか勘とかコツとかノウハウというのは、これはなかなか伝わらない。

 

伝わりにくい人間の五感

最近分かったんですが、人間の五感の中でも特に伝わらないのは味とにおいだそうですね。どういう味、旨いって、あそこの何とかは旨いっていったって、どう旨いんだって言われるとなかなかこれはうまく説明できない。味覚と臭覚はですね、人間の脳の中で言葉を処理するところじゃないところで処理してるわけですね。言語処理領域じゃないところで。ですからなかなか言葉にしにくいんです。どう旨いかっていう。味覚は甘い、酸っぱい、辛い、しょっぱい、苦いと、5つしかないんですね、表現は。ですからどうも伝わりにくいんで、あそこの何とかが旨いって、どう旨いかって言われるとなかなか言えないんで。じゃ一緒にいって食べようかって(笑)。で、一緒に並んで食べて旨いかっていったときに旨いというわけですね。

 

そのときにそれが伝わったわけですが、またそれは他の人に言えないので ありまして。こういうものをしかし徹底的に共有化するということが非常に大事で。というのは、形式知はだいたい全体の組織でいいますと20%から30%位で、暗黙知の方が圧倒的に実は多いということが経験的に言われるわけでして。これをどうやって 共有化するかという話が重要だということはいろんなところでいま言われて いるわけです。ですからそういう意味で形式知だけでなくて暗黙知も徹底的に共有すると、そういうことが非常に大事だということですね。

 

全体概観

それからもう1つ大事なことは、先ほどセル生産方式にどんどんいま置き代わってるという話が出ましたが、要するに組織というのはそのメンバーが大きくなればなるほど、どんどんどんどん何をやるかというと分業するわけです。分業するとたしかに専門特化できますから能率は上がるんです。しかし全体が見えなくなる。分業すればするほど、そうすると自分は何をこの組織の中でやってるのか、それがどういう意味があるのか、それからそれがどういう価値につながってるのかということがどんどん、どんどん見えにくくなるわけですね。ですから全体を見える仕組みをどうやって作るかっていうことが非常に大事でありまして、ソニーなんかでも昨年 から工場を全部一括してソニーEMCSという会社にしちゃったんですね。それまではそれぞれのカンパニーというのがありましたが、カンパニー系列でいろいろこうやっていたわけですが、それを横に1本にしちゃった。それでEMCSという言葉は実は非常に意味があるのでして、Eはエンジニアリングですね。

 

それからMはマニュファクチュアリング。ですから工場で設計もやるわけです。製造だけじゃなくて。設計、それから製造。それからCSというのはアンドCSです。カスタマー・サービス。作ったモノが売れますよね。そうするとお客さんからいろいろ問い合わせがあるとか、場合によってはクレームがあるとか、そういうカスタマー・サービス、アフター・サービスも含めて。そういう機能を工場に持たせた。そうなるとどうなるかというと、今までは工場はとにかくいいモノを作ってりゃいいんだと、こういうことだったんですね。それで、あとはその事業部門とかカンパニーに負わさせちゃえば、そこから先はカンパニーがやる。これ分業ですから。ところがCS、カスタマー・サービス機能を求めますと、工場に直接お客さんの反応というか、声が入ってくるわけです。

 

そうすると工場の人たちは自分たちが作ったモノが、たとえば先週作ったモノがどこでどう売れてるか売れてないか、そういうのをリアルタイムで見ながら作っていくわけです。それで、もう在庫がこれだけあるから大丈夫だとか、あるいはこれはなかなかもう売れ行きが悪くなってるから、これはやめちゃおうとか、そういうことを工場が考える。ですから分業じゃなくて  ですね、全体が見える。まぁコラボレーションといいますかね、そういうことができるようになるということですし、1人ひとりの作業でいえば1人セル生産みたいになると全体が見渡せる。そうすると、知恵が出る。1人ひとりがなんか工夫してもベルトコンベアですとね、生産で上げるというためにはなかなかたいへんなんですね。

 

TOC

その辺のことをよく研究して本になったのが「ザ・ゴール」という本が去年あたりだいぶ読まれた本ですね。一昨年とか。「ザ・ゴール」という本を目を通されたことがあるという方、ちょっと手を挙げて頂けますか。そうですね。皆さん非常に勉強熱心ですから何人か。これは物語風に書いてありまして。で、パート3ぐらいまでいま出てますから、私もちょっと買って読もうと思ったんです。ですが、物語風でなんだか面倒くさかったものですから、研究室の大学院生に君これちょっと読んで、分かったら3分間でちょっと教えてと言ったんです(笑)。そしたらやっぱり若い人ですからね、2日目位したらもうその本を抱えて来まして、分かりましたと言うんですよ。分かった、じゃちょっと言ってくれと。結局これは簡単言いますと、まぁ今のような話ですね。

 

その連続したプロセスがあった場合に、どっか1カ所ね、能率が悪いとか、どっか1カ所不具合なところがあると、結局全体の生産性はそのレベルで決まると。まぁそれはその通りだろうと思うんですね。要するにそこを解決しないと全体の生産性なり、成果が上がらないと。だからそこをやっぱりきちっとやらなきゃいけないと。それで、「ザ・ゴール」、これはTOCという理論ですと、こう言ったんですね。これをやると徹底的にたとえば原価は安くなります。そうか。TOCか。安くなるんだな。じゃそれは東京卸売センターかと(笑)、私は思わず言っちゃったんですが、そうでなくてあれはセオリー・オブ・コンストレイントという。制約の理論とかっていうんですが、まぁそういうことで、要するに全体が見えなくなると知恵が出なくなるということで、全体が見えるような仕組みをどうやって作るか。ですからオルフェースではリハーサルのときからですね、各パートごとでお互いに批評し合う。それから実際の演奏が終わったあとまたみんなで集まってお互いに批評し合う。ここがこうだ、ここがこうだと。普通の楽団では先ほどの話じゃないけど、ぜったいにそんなことやらないんですね。だけどもそういうことをちゃんとやると。そうすると全体が分かる。それから演奏をする人が同時に聴き手にもなるわけですから、そういう意味では、要するにお互いがよく分かると。売手と買い手が入れ代わるというようなものですからね。そういうことが必要だと。



自在連結

それから3つ目はですね、先ほどオルフェースではそのつどこの指とまれみたいなかたちでいろんな人が集まって、それでパートを作って、そしてそれをまたパートのリーダーをそのつど選んでいくという話をしましたが、結局そういうメンバーとかいろんなユニットが自由にですね、自在に、非常に柔軟にその組み合わせを決められると。それも自分たちで。これがいま日産の社内に起こってることなんですね。日産のゴーンさんの問いかけはいろんなところで本になっていますからご存じの方多いと思うのですが、最初にクロス・ファンクショナル・チーム、CFTというのを全部で10個作ったわけです。で、そのメンバーを選ぶのでゴーンさんは実は延べ数百人に及ぶマネージャークラスの人と個別に会って、それでディスカッションしたわけです。で、これはという人をピックアップして10のクロス・ファンクショナル・チーム、つまり製造、設計、開発、それから必要に応じてマーケット、こういう人たち、ファンクションの違う人だけを集めてそれでチームを作っていろんなソリューションを進めると。ここまではしかしゴーンさんが言ってみればデザインした話。

 

だけどいま日産のたとえばテクニカル・センターで起こってることは、こういうその会社が全体を枠を決めたクロス・ファンクショナル・チームであって、社員のお互いにやりとりの中で、自由にそのクロス・ファンクショナル・チームを作っちゃう。

つまり小型のミニCFTがいっぱいできてるわけです。これはもうほんとにその自発的、相双発的にやるわけで、数はですから会社としても幾つあるか、それは正確には分かりませんけど、相当いま動いています。それがまたどんどん、どんどん新しいソリューションといいますか、成果をいろいろやっておるというようなことがあって、やっぱりそういうかなりハイ・スキルを持った人たちが自由に組み合わせを自分たちも考えながらやっていかれるということがあるとですね、それは非常にうまくいくだろうと思います。

 


仮説実験

それから4つ目のポイントはですね、そうはいっても演奏もそうですし、会社の仕事もそうですが、やってみないとわからないということがあるわけです。そうですよね。まぁソニーの出井さんのように朝令朝改ということをトップが言われるんですがね。朝令暮改では遅すぎると。朝やって不具合があったら朝改めりゃいいんだと。だから朝礼朝会でいくぞと、こういう話になるわけですが、やってみないとわからない。つまり不確実性が非常に高いというときに、われわれが一般的にやるアプローチ、手の打ち方は2つありますね、基本的に。どっちかですよ。1つはまぁとりあえず何でもいいからやってみると。下手な鉄砲も数打ちゃ当たるというアプローチですね。これまずいんですよ。なぜまずいかというとときどき当たっちゃうんです。当たったらいいじゃないかと。当てることを目的でやるんだからというんですが、これなぜ悪いかというとですね、当たるんですが、どうして当たったかということは、当てた本人も周りもわからないんです。とにかくいろいろやったら当たっちゃったじゃないかと。つまり結果オーライの世界になって、これ賢くならないですね。で、 もう1つのアプローチはここに書いてあるように何かの仮説を立てて、それが正しいかどうか、当てはまるかどうかを実行して検証してみる。仮説、実行、検証。あるいは仮説、実行、実験してみてその確かさを検証するという、こういうアプローチ ですよね。

 

セブンイレブンのケース

こっちの方がやはりより賢くなるというのはもうお分かりだと思うんですが、こういう仮説、実験というのを愚直なまでにやってる組織、会社がありますよね。文字通りこういう言葉を。セブンイレブンですよね。まぁ他のところもやってるかもしれませんが、ここが非常に有名ですよ。あの店舗で、100平米位の平均の店で3千品目位並んでるんですね。POSデータでほとんどのデータをとって単品でどういう品物がいつどこで幾らで売れたかというような情報を、だいたい1日に1万店位チェーン店が国内に系列ありますが、だいたい700万人位の人が来てるわけです。だからものすごいデータが積み上がっていくわけ。だけどこれは基本的に社内にあってもですね、自由には公開しないの。注文が1つ付くの。条件が1つ付くの。そのときの条件がここで書いてある仮説だと。仮説持ってこいと。そしたらデータ出してやる。ですからたとえばある商品の仕入れ担当者が、自分が担当している商品が日によって非常に売れ行きにばらつきがあると。どうしてかなと。

 

これは問題意識ですね。だけどどうしてかなじゃ、これ検証できません。実験できませんからもう少し詰めていく。そうするとひょっとしたらこれは当日のその天気でだいぶ違うんじゃないかと。温度が相当影響してるんじゃないかと。ここにくると仮説になるわけです。温度が高いと売れて低くなると売れなくなると。まぁ仮説。一定のいろんなことがあるらしい。そうすると初めてそうかと、分かった。それじゃ日にち別、時間帯別の売上げデータ出しましょうと。それから天気であれば、じゃ天候のデータも一緒に出します。あそこはウェザーニュースという会社と業務提携しています、気象情報会社です。日本の会社ですが、気象情報会社としては世界で一番大きな会社です。ここと全面提携していて、いちばん細かくデータが欲しいというと、2キロ2キロ位のメッシュで気象情報を出して、この地域の天気はあしたこうだと。で、温度はこれぐらいという。この会社のすごいところは、その気象情報が予測が外れた場合に、たとえば晴れといって大雨になっちゃって、商品が売れないというときに、その予測の見誤りによるロスは補填するという、補填契約まで必要に応じて結ぶんですね。だけど精度が高いからこれやれるわけで、外れっ放しだ

とこれちょっと影響があり過ぎますますね。

 

ところが気象庁ですよね、気象協会というのが外郭団体にあるんですよ。ここがテレビでやってる天気予報ですが、2キロ2キロなどという話じゃなくて、最後はね、「関東南部」「関東北部」でやりますから、私なんかどっちに入るのかと、ときどき思うんですが。気象庁ですね。去年の秋の大運動会、職員の、まだそんなことやってるんですが、雨で流れちゃった(笑)。要するに自分のところの運動会だって(笑)。まぁ差し障りがあると困るんですが、お役人がお役所仕事でやってると精度は上がらないと。民間の会社がリスクを張ってやるとやっぱりどんどん知恵が付くと。まぁそういうことかもしれないですね。それで仮説実験やると。ですからセブンイレブンなどはあの弁当とかお惣菜という、ああいう生ものといいますか、あれは1日3回発注するんですね。3回納入するんです。ですからこれチェーン店全体で1万店ですから、ものすごい仮説実験やってるわけですね。それをまた吸い上げて、みんなでまた知恵を共有すると。で、これだというその得られた知恵とか知識をまたみんなで、関係者で共有すると。で、全体を見ながら知恵を出して、絞り 出して、それで必要に応じていろんなところとコラボレーションといいますかな、 連携をして、それで仕事のプロセスのなかでは仮説、実験を繰り返して、それでまたそれを知識として全体で共有すると。こういう仕組み、こういう組織の仕組み、マネージメントの仕組みを作りますとね、こういう組織は時間の経過とともに、仕事をやりながら時間の経過とともに賢くなっていくわけです。

 

つまり知恵がどんどん、どんどん積み上がっていくわけです。消耗戦やらなくていいわけですね。ですからこういうような仕組みをちゃんと作って、意識的にそれを回してるところと、こういうことをあまり考えないでとにかくあれだと、みんなで頑張ろうというような精神論でやってるところと比べますとね、1週間や半月ではあまり差は目立ちませんが、これを1カ月3カ月、半年、1年回していくとですね、その差はもう累積的に大きくなるわけですね。そういう意味で、こういうものはですね、1つの組織の中だけじゃなくて、組織と組織のあいだでもそうですし、あるいはその1つの地域社会全体でもこういうことが起こってるわけです。つまりミクロな個々の会社とか組織の組織論だけでなくてマクロな組織論でも起こる。

 

シリコーン・バレーの仕組み

シリコン・バレーというのはもともとこういう実は仕組みが埋め込まれていたんですね。だいたいあそこはこの点についてあの人と話し合いたいときに、連絡をして1時間以内に車で出会えるという広がりで町がもともとできていた。どんどん町は大きくなっちゃいましたから、今はちょっとそれよりはサイズが大きくなっちゃってますが、もともとはそういうことで知識を共有する。やっぱりフェース・ツー・フェースが非常に基本になるんですね、ああいうところでも。インターネット発祥の地なんだけど。インターネットが世界的に今どんどん普及して面白い現象が起こってるのは、人口が大都市集中がまた始まっちゃってるんです。ほんとはインターネットみたいなものが普及すれば山の中でも仕事ができるから、大都市は人が集まらないよと、こういう話だったんですね。ところがいま日本だけじゃない、東京だけじゃなくて世界的に拠点都市というか、大都市に人が集まってる。なぜかというとインターネットのようなもので手に入る情報は世界中たしかにどこでも同じ条件で瞬時に入る。

 

従って逆にいうとそれでは付加価値はつかない。ほんとの深い知識を持ってるのはやっぱり1人ひとりの、もっといえば暗黙知なんです。1人ひとりの人間というか、チームの集団だと。それはもうフェース・ツー・フェースで直接やりとりしないとそういう深い知識や知恵のやりとりができないんです。こういうことでああいうシリコン・バレーなんかでも実は1時間以内に出会えるという町のサイズができてて、それでその出会う場所に24時間やってるコーヒーショップとかレストランとか、あるいはホテルなどがあって。24時間どこででも打合せといいますかね、そういうのができるような、そういう状況になってる。従って全体が見えるようなかたちだし、結局シリコン・バレーというのは実は人的ネットワークの世界なんですね。ですからそういう人たちが瞬時に連絡し合っていろんなことをやってると。それでやってる中は仮説、実験をやってるわけですよ。で、あのシリコン・バレーの強いところはハイテクの開発拠点があるだけでなくて、ユーザーがその周りにいっぱいいるんですね。ですから技術とマーケットのあいだが非常に距離が短いんです。頻繁にいったり来たりと。

 

浜松のケース

こういう視点でいいますとね、たとえば日本の浜松という地域がありますね、静岡県の。あそこはオートバイの技術の集積地である。ホンダ、ヤマハ、スズキ、全部あそこから生まれたわけです。あれはですね、まぁ浜松高等工業という、技術的に非常に優れた伝統のある教育機関があったということが1つですね。それ以外にたとえばホンダとかスズキのオートバイの開発の初期の段階というのはみんなそうですが、ホンダさんなんかが、あれはもともとホンダさんが原付きの自転車を作ったのは奥さんがちょっと足が悪くて、町まで買い物にいくのはなかなか不便したんで、それじゃ自転車に原動機付けたほうがいいと。


それで戦時中の軍で使っていた軍用の水筒ですよね、あれを2つに割って、あの中にエンジン取り付けて、それで走らせたの。ですからいまだにこういう水筒型してるのはそれがずーっと実はもともとのオリジナルだったんですね。それで奥さんがそれに乗っていくと、ああ便利だなというんで、近所の人が私にも作ってと、こうくるわけです。じゃ作ってあげるよっていって作って。それで乗って帰ってくるとどうも音がうるさいよってなことを言うんです。じゃちょっとっていうんで、すぐそこでみんなで寄ってたかって少し改良して、じゃもう1回乗ってという。つまりですね、マーケットとそれから開発の現場がもう直でつながってたんですね。で、こういうところはつまりその、知識をユーザーと開発さんでは共有できますしね。だいたいやってること全体が見えますし。お客さんとのやりとりは自在にできるし。それでやって見てまた走ったらまた教えてねと、こういうことで、こうやったらうまくいったというとまたそれでやると。そういうですね、開発っていうのは開発は開発だけでやると。で、営業とかマーケットはマーケットだけでやるというんじゃなくて、そこがやっぱり非常に近い、距離的に、物理的にも心理的にも。そうするとこういうようなことが非常にスムーズに回っていくと。こういうこの組織をですね、いろんなところへ埋め込んでいくと、そうするとどんどん、どんどん賢くなると。

 

クエスチョン

だけどこれは自動的には実はこのサイクルは回らないんですね。これを回すエンジンといいますかね、駆動力は何かというと、これはクエスチョンなんです。クエスチョンなんです。問いなんですね。当然最終的には解決策、答え、解答が必要なんですが、答えとか「解」というのは「問い」があって初めて成り立ちますよね。今ちょうど「私の履歴書」、今のお坊さんの話は面白いですね、ドラマチックで。まぁ読んでおられる方はすぐお分かりになると思いますが、有馬頼底さんという偉いお坊さんですが、あそこで禅の、禅問答で苦しんじゃって、あまりに苦しんでからだの具合が悪くなったなどという話で出てきましたが、あれも「禅問答」というぐらいで問いがあるんです。公案というんですかね、こうやってやると手が鳴るけど、これはどっちで鳴ってるとかですね、いうような話ですね。考えるとなかなか深いわけでわからないわけですが。


ですからあれ禅問答というんですが、禅はあれ問いだけ残ってるんてすね。答えは記録として残ってないんです。つまり問いが大事なんですね。もちろんそれを考えて、答えを考え抜くということは大事ですが、問題、問いがなきゃ答えは出てこないんです。答えという、解というのは問いを巡って生まれるわけですから、どういう問いを立てるかが大事ですね。どういう問いを立てるかが非常に大事なんですよ。ですから深い問い、本質的な問いを立てないと、現象的な問いを立てて、みんなで頑張ってやってよかったねという話では賢くなれないんですね。これを回していくのはやっぱり深い問いなんてすね。まぁクエスチョニング・ケーパビリティーというか、発問能力、発問力、問いを立てる力。

 

ミサワホームのケース

しばらく前にミサワホームの三澤社長さんにお目にかかったときに、私は最近社内で怒ってるんですというのね。で、社長なにを怒ってるんですかと言ったら、あそこはここ数年、借地権付き分譲住宅というのを非常にメインの商品の1つとしてやられてるわけです。まぁ50年間ですか、借りて、50年したら更地にして返すと。そうするとうんと安い値段で住宅が手に入ると、という話ですがね。そういうその借地権付き分譲の販売促進をやってる部署へいったら、関係者が一生懸命みんなでパンフレットを作ってると、非常に豪華な。そこでその三澤社長がその仕事やってる人たちに訊いたんだそうです。このパンフレットにある、最寄りの駅がここで、それから商店街が何とか商店街があって、学区の中学はマツダ中学で、それから医院、病院が何とか医院というのがあると。そこで訊いたんですね、この何とか通り商店街にうまい和菓子屋はあるかと。ところが担当者たちは誰も答えられない。というのはみんな現地を見てないんですよね、依頼した写真なんかを撮ってきたのを貼りつけて、こうやって見てるわけですから。


それでまたねぇ、その三澤社長はまた続けて訊いたんですよ。この学区の何とか中学というのは、これどういう中学かと。なんか校内暴力とかいじめとかで荒れてるのかどうか。これもわからないんですよ。答えられない。それからこの何とか医院というの、これは藪医者かどうかと。それも答えられない。そこで私は怒ったんだ。で、その怒った意味はですね、われわれがお客さんに提供しているその価値っていうか、商品というのはどういうものなんだ。だから単にその土地があって住宅があると、そういうものじゃなくて、生活の空間をわれわれはお客さんに提供してる。だから高いお金を出して買って、それでそこへ住むと、いうことになれば、まぁ主婦がいれば夕方買い物にもその日からいくでしょう。そこにどういう商店があるか、非常に大事でしょ。それから中学生の子どもがいれば翌日からその中学へいくでしょう。

 

その中学はどういう状態になってるのかと。それから家族に病人が出れば、いやでもそこの医院にいくでしょう。それが藪医者だったら命取りになるじゃないかと。つまり生活空間というものを売っているので、単なる入れ物を売ってるんじゃないぞと、いうことなんですね。ですからこの社長の言うその、何とか通り商店街にうまい和菓子屋があるかというのは、話だけ聞くとどうでもいいような質問のような気がするんですが、実は非常に深い問いなんてすね。われわれがお客さんに提供してるものはいったい何かということを問いかけてるわけ。ですからその問いがどれだけ深まるかというのが実は非常に大事なんですよね。

 

グッド・クエスチョンとクリエイティブ・ルーチン

アメリカもいろんな問題がある国ではあるんですが、参考になるところもまたずいぶん逆にたくさんありましてね、1つは小学生や中学生、大学もそうですが、先生がですね、生徒に何というか。一番多く発する言葉はグッド・クエスチョン。何か生徒が聞くとグッド・クエスチョン。ところが日本の小学校でも中学校でもそうですが、ハイハイとか言う。あれは問題は先生が出す。で、解答もまぁあるんですね、正解は。で、正解になるべく近いやつを出したやつが偉い。グッド・アンサーという。よくできましたって。グッド・アンサーとは言わないんですね、向こうの人たちは。グッド・クエスチョンと言う。尤も手の内をちょっとだけ申し上げますと、何か質問されたときに、はたと考えなきゃいけないときに、一応時間稼ぎでグッド・クエスチョンと言うんですが(笑)。まぁそれはちょっと別の話ですが、あのね、グッド・アンサーとは言わないんですよ。グッド・クエスチョンなんですね。ですからクエスチョンがあってアンサーがあるという。そういう関係ですから、グッド・クエスチョンというのがやっぱり、深い問いかけがこれをぐるぐる、ぐるぐる回している。

 

ですからトヨタ自動車はいまだに工場なんかではですね、有名な話ですが、まぁQCなんかではいろんなことやってますが、問題が起こると5回までは繰り返すんですね。なぜこういうことが起こったか。有名な話しで、昔は行灯と言ってたんですが、今はボタン押すとですね、その問題が起こったところに担当者が来てボタンを押すと上に黄色いランプがつく。で、そうするとラインが全部止まる。で、関係者が来る。と、みんなで、その担当者も含めて、なぜこれが起こったんだろうと、こういうことですね。だからこれはこういう原因ですというと、いや、それは分かったと。そしたらそれはなぜ起こったかと。源流遡及というのがありますね。根本の問題まで遡らないと本質的な解決にならない。で、トヨタの人に聞きますとね、3つぐらいまでは、「なぜ」はなんとかいけるけど、あとの2つがもうほんとに知恵絞らないとなかなかそれが、なぜ、なぜというのが解答は出てこないということでしてね。ですからやっぱりそういうようなことが実は組織の中に埋め込まれているわけ。私はそれを勝手に、まぁ英語で恐縮ですが、クリエイティブ・ルーチンという。つまり組織が創造的なことを考えざるを得ない、創造的な発想をせざるを得ないようなルーチン、くせですね、それが優れた組織には埋め込まれているんですね。

 

キーエンスのケース

キーエンスという会社がありますが、これも非常に優良な会社ですね、日本の会社で。ここの開発部門はどんな新しいテーマで開発に取り組んでもいいと。こういう大方針がある。但し条件が1つある。その条件というのは何かというと、新しいテーマで開発にかかるときは必ず2社以上お客さんを見つけてこいと。それで最初のお客さんというのはだいたい検査装置とか測定装置を作る会社ですから、最初はお客さんは向こうからいろいろ相談があるわけです。こういうようなスペックでこんな装置、機械はできませんかと。普通ですとお客さんの注文ですからすぐやりますというんで、一品特注生産型になる。これ結局開発コストばかりかかってなかなか利益が上がらない。で、ほかになかなか兼用が利かないということになりかねないのですが、この会社の場合は1件目はそんなかたちで飛び込んでくることが多いのですが。そうすると担当者はやりたいわけですね、新しいテーマであればあるほど。そうすると自分で今度は次のお客さんを探しにいくわけです。

今度こういう開発に取りかかろうと思うけどもお宅もどうかと。ですから技術と営業がなかなかすり合わせが難しいとか、そういう世界じゃないんですね。あるいはその、上の人がですね、開発担当者に、そんな社内にいるだけじゃだめだと。お客さんのとこへいって、お客さんとやりとりしろといってもなかなか腰が重いからいかない。ところがこの会社はみんな喜んでいくわけです、やりたいから。ですよね。どんなテーマでもいいっていうんだから。但し条件が1つという。ですからもうお客さん、マーケットとの距離なんていうのは担当者が埋めにいくわけですよ。進んで。

 

もう1つこれの質問がクリエイティブ・ルーチンになってくるところはですね、その2つ以上のユーザーを想定して開発にかかりますから、設計にかかりますから、設計の最初の段階から標準化という発想がないとですね。この2つ、あるいは3つかもしれませんが、このあいだで共通の仕組みが使えないか、共通のメカが活用できないか、共通の部品が利用できないか。標準化なんです。ですから試作品作って量産に入ってから標準化を考えるというんじゃないのね。もう最初の段階から。ですから開発コストが非常に下がる。あるいは製造コスト自体も非常に劇的に下げることができる。まぁこういうようなことで、このクリエイティブ・ルーチンというのを組織の中にどれだけ埋め込めるか、なんです。ルーチンというのは決まりきったことをやるというのであまり頭を使わないということにいきがちですが、頭を使わざるを得ないのがルーチンをどうやって埋め込むかと。

 

花王なんかもそういうことは非常に熱心で、お客さんとやりとりをする、お客様相談室センターというのがありますが、あそこではお客さんからの問い合わせとかいろんな情報とか、あるいは場合によってはクレームとか入ってくる。全部そのつどデータ・ベースに入れるという、そういう仕組みを作ってるんですが、仕組みを作っただけじゃだめで、その自分が担当している商品、開発担当者、製造担当者、営業担当者、マーケティング担当者、その人たちが必ず1日に1回はそれを覗き込むというルールになっています。ですから絶えずそれを意識して聴いてるわけですけどね。

 

あるいはクロネコの運転手の人たち、セールス・ドライバー。6人で1チームです。この人たちはもう地域の情報は熟知してるんですが、それに加えてお客さんといろいろやりとりするわけです、配達したときは。荷物運ぶのでなにかお困りのことはありませんか。そういうやりとりの中からいろんなわれわれが日頃使ってる新しい商品とかサービスが出てきてますね。ゴルフ宅急便からスキーとか、クール便もそうです。最近はタイム便というので1時間刻みでしておりますけどね。あれはね、やっぱりクリエイーティブ・ルーチンなので、聞いて、聞き込んだセールス・ドライバーの人はリーダー、6人のうちのリーダーにすぐに営業所へ帰ったら報告すると。そしたら1時間以内にそのリーダーは営業所長に報告する。で、営業所長はやっぱり1時間以内に本社の対応する部署にそれを伝えるわけです。

 

それで、伝えられた本社の対応する部署は24時間以内にその情報についてどういう取扱いをしてるか、どういう決定をしたか。それをいちばん最初の情報を上げたドライバーの人にフィードバックする。これをやってるものですから、せっせせっせと情報を拾ったり集めたりして、どんどん、どんどん上げてるわけ。こういうことをやらないとですね、こういうものは実はかたちだけ作ってもだめなんですね。これが回るようにするにはそういうクリエイティブ・ルーチン、要するに頭を絞らざるを得ないような、前向きに考えざるを得ないような仕組みをいろんなところに作っていくということが大事です。



 

結び:楽しむに如かず


そういうことが実はわれわれがつまりほんとによりよく生きるという、ウエルネスというのはやっぱり人間が知恵を前向きに絞って、それをからだでいろいろ実践、実行して、それが成果になって現れて、それがまた次の仕事の原動力になると、こういう仕組みですよね。こういう仕組みをやっぱりこれから作っていかなきゃいけないんじゃないかということでありまして、私の最後のまとめはですね、そういう意味で知恵が出るにはやっぱり人間楽しまないとだめなんです。皆さんはですから非常に、そういう意味ではOKだと。楽しまないとほんとに知恵が出てこないんですね。

 

これは最新の大脳生理学でも実は同じことが確認されてるんです。前頭葉といいますかね、われわれが前向きにいろいろ知恵を絞って、前頭前野ということで、前頭葉は前頭葉だけで勝手に動いてくれないんですね。これを刺激したりサポートしたりするもう1つの脳の器官がある。それは脳幹というところなんです。球皮質といってね、ここは何かというと好きか嫌いか、楽しいか楽しくないかというところなんです。ですからいやいややってるとかね、深いところで楽しまないでやってると前頭葉が活性化しないんです。厳しい状況のときほど、そういう状況を敢えて楽しむというようなスタンスがないと、ほんとに深い知恵が出てこないということでありまして、やっぱり知力というのは気力と密接に関係があるし、気力はやっぱりまたもう1ついうと体力とも関係しますね。3点セットですよ。体力、気力、知力というのは。

私も家内から健康第一とか言われまして、毎朝牛乳を飲む。それで日替わりでして、けさ牛乳を飲む、あしたはヨーグルトにして、その次はまた牛乳になるんです。で、夜は養命酒を飲む。もう理想的な生活です(笑)。けさは牛乳の日だったんですけど、牛乳をぐっと飲んでだいぶ元気出たなぁとこう思っておるんですが、よくよく考えたら毎朝牛乳配達するあのおじさんの方がよっぽど元気だなと(笑)。いうことが分かりまして。まぁべつにそれで牛乳配達やろうという話じゃありません。もうだいぶ時間過ぎちゃってますからこれで終わります。どうもありがとうございました(笑)。

 



 

質疑応答


質問 どうもありがとうございました。ちょっと1つだけ教えて頂きたいんですが、2年前にですね、中央省庁再編ということでお役所がですね、行革、効率化でああいう組織の改変、大々的な改変をやったということなんですが、どうもその成果がですね、あまり聞こえてこない、いうことでですね、先生の組織論からいったらこれをどういうふうにお考えなのか、教えて頂きたいと思います。

 

寺本 そうですねぇ。どの辺に問題がありそうかというんですが、結論からいうと、このあらゆるところに問題があります(笑)。それが解答でありますが、まず1つはですね、1つ1つが必ずしも自立性があるわけじゃないし、それからほとんどもう同質化しちゃったような人たちが仕事をやっています。かつての大蔵省、今の財務省、キャリア組の人たちはキャリアを保証する、キャリアを保証するということの意味はですね、退官したあともずっと安楽ですよね、大臣官房の所管のところがずーっと面倒見て。それで局長経験者は80歳まで面倒見るというのがルールになってる。私の今の同僚にも銀行局長経験者がおりますが、そういう人はですからそういうとこからもうはみ出て、自分で楽しんでるわけですが、この辺がまずないですよね。やっぱりもっとどんどん、どんどん民間と人事交流をやって、民間の人はもう事務次官になるぐらいのところへいかなきゃほんとはいけない。それからあとこの辺はもうどうしようもないですよね、省益あって国益なし、ですよね。全体を誰も見てないという話ですし。この辺ももうなかなか救いがないですよね、次官級の人たちの会議でほとんど決まっちゃうという話があるし。こんな実権政治はおよそないですよね。ですからこれあらる点で、つまりあの省庁再編というのは、再編とは言いながらですね、結局足しただけですから、中は全部分かっているわけですよね。で、文部科学省というのも、文部省系と科学技術庁系がきれいに分かれてますから、結局あれは国民というよりはタックスペイヤーの目から見るとほとんど意味がないのでありまして、そうですよね、本社経費を子会社経費に振り替えただけみたいな、連結したら同じじゃんという感じですから、あれはやっぱりまさに毎日賢くならない組織(笑)、と呼んでも私は間違いじゃないというので、もうあらゆるところで実は血管が詰まってるということですから、これの正反対の組織を考えれば官僚組織になる(笑)、いうことだと私は自信を持って言えますが。よろしいでしょうか。

 

質問 たいへん面白いお話をどうもありがとうございました。1つだけお聞きしたいことがあるんですが、一番下の仮説実験というところなんですね。その仮説実験というのはですね、いろいろな試行錯誤だと思うんですけども、この場合にですね、試行錯誤やってる人はすべて問題としてたいへんな失敗を繰り返すと思うんですね。私は日本の組織の中において問題のあるのは、失敗することによって損がどのくらい出るか。大きいのか小さいのか。これね、クオンティティーばっかり問題にしましてね、その質を問題にしないと。つまりアクティブな失敗なのか、それともパッシブなのか。だからこういった失敗の、アクティブな失敗の積み重ねがですね、結局なんかの成功に結びつくので、その成功もですね、意外性のあるものが多いですね。ぜんぜん予期しないところでパッと出ると。これがですね、なかなか。まぁ先生はそれをその、なんていうんですか、説明がつくものとか、後に残せないか、というんですけれども、ちょっとスポーツ的な感覚がございましてね、説明のつかないものがたくさん出るんですよ。なんでそうなったのか。あの女の子の手を握ったのか、肩をたたいたのか、あのとき転んだのかと、これはわからないですね。

 

 またそういうものがね、大きな成功に結びつく場合、ということが、この失敗のですね、実験をぐちゃぐちゃにしてたくさんやらせるという組織、失敗の組織ですか、これを作っていけば成功の確率が増すんじゃないかと、こんな感じがするんでございますが、先生のご意見を。

 

寺本 もうおっしゃる通りでありまして、まさに実験というのは失敗を含んでいるわけでしてね、必ずうまくいくというのであれば実験は要らないわけでありまして、実際に試してみるというのが実験ですから。やっぱりやってみるんですよね、右肩上がりでずーっと先輩方が第一線でおやりになってた頃は右肩上がりでしたから、ある意味でいえばですね、まぁ浅知恵ですが、失敗しても会社全体としてはいろんなリカバリーが可能だったんですが、これだけこう、なんていいますかね、厳しくなってくるとなかなか失敗というのを抱え込む度量といいますかね、組織の中に余裕がなくなってるということはたしかですよね。

 

 そうするとどうしたらいいかですが、結局1つはですね、もちろん大規模な実験をやってみるということも非常に大事ですが、それ以上に小規模な実験をいろいろやると。一橋のまさにベンチャー・ビジネス・パーソンとして非常に大活躍している1人が三木谷浩史ですよね、「楽天」という。で、三木谷さんにしばらく前にお会いしたときに、あなたのようなビジネス分野で成功する秘訣は何ですかと、こう聞いたんです。インターネット上で商店街をやってるんですよね、インターネット上での。そしたらですね、三木谷さん英語は非常におできになるので、ちょっと考えておられて、一言でいえばメイク・ミステーク・アーリーと言いましたね。失敗は早めにやる。ですから特にああいうビジネス分野はそうだと思うんですが、要するに失敗というのは当然避けられないんですが、やるんなら早くやる。他の会社よりも早くやる。で、早くやるということは早くとりかかるということですね。早くとりかかるとやっぱりいろんな情報が入ってくると。2番手3番手4番手、だんだんそういう情報が入ってこない。それから早くやればやるほど、まさにその試行錯誤を通じていろんな学習ができると。米国人がよく英語でラーニング・バイ・ドーイングといいますね。やることによって身に付くことがあるんだと。ですからメイク・ミステーク、ミステークはいいんですが、メイク・ミステイク・アーリーなんですね。で、それをできるだけ小規模でもいいからとにかくメイク・ミステイク・アーリーでやると。しかしそのときにまるっきり何のその仮説といいますかね、仮の説なんです。私は仮説のもう1つ前がほんとは重要だというんですが、仮説の前、こういう日本語はあまりないんですが、臆説というふうにいわれる。ひょっとしたらこうじゃないか、というようなね。で、臆説は大半がまぁ否定されるんですよね、排除されちゃいます。で、仮説にみんななって、

 仮説のなかでほんとに実験して生き残るのはまたごく少数で。だけど臆説が豊かにないといい仮説は出てきません。やっぱりいい仮説がたくさんないとほんとの実験もなかなかできないということですから、私はやっぱり臆説をどんどん自分で、あるいはみんなで考えると。そしたらこうじゃないか。それはやっぱり楽しむということですよね。そのこと自体を。ですから臆説をできるだけリッチにして、その中から仮説を抽出して、だけどやっぱりやってみなきゃならないわけですからやって、それでその仮説がどうだったかというような、そういうことをやっていくと、仮説の精度が上がってきますね、やっていくなかで。それがやっぱり大事だろうと思うんですね。ですから失敗は非常に実は大事なんですが、やるんなら早く失敗する。メイク・ミステイク・アーリーということでいかがでしょうか。

 

質問者 それでその失敗をですね、早めに落とすことができるような組織がぜったい必要ですね。

 

寺本 そうです。そうです。

 

質問者 ちょっとやっちゃったら殴られたりしたら。

 

寺本 そうです。おっしゃる通りです。ですからシリコン・バレーなんかの見習うべき点は会社を今まで2つプロジェクトを立ち上げてね、残念ながら2つとも失敗しました。そうか。2つも君立ち上げて、2つも失敗した経験持ってるのかと。それはたくさんのことを学んだろうと。だったら投資しようと、こういうスタンスなんですね。だけども失敗したらもう二度と、敗者復活どころか、みんなで寄ってたかって叩いちゃうというようになると、それはだめですよね。だからよけい早くやって、それでいっぱい失敗の中から成功を積み上げていくと、いうことでありましてね。まぁ松下幸之助さんがお元気な頃に、松下さんのようにたくさん事業を、家電事業をたくさん手がけて、これだけ成功される、成功の秘訣は何ですかということをどなたかが訊いたら、いやそれは簡単ですと。成功するまでやり続けることです。ということはやっぱり失敗もたくさんあるということですよね。だけど成功するまでやり続ければこれはもう成功すると(笑)、いうことになるわけでして。成功はもちろん楽しむんだけども、それに加えて失敗自体も楽しんでいくと、いうことがやっぱり組織の中にないとこういうことは起こらないですね。おっしゃる通りですね。そういうなんか、度量の広さというか、あるいはそのリスクをどうヘッジするかということも大事ですがね。だからその上でやっぱり実験をやるという精神が大事だろうと思うんですね。どうもありがとうございました。

 

高橋 ちなみにダイヤモンド社から先生が「失敗の本質」という本を出されています。


質問 賢くなるマネージメントの全体のプロセスというお話で、私も今やっぱりそのクロス・タスク・フォースじゃないんですけど、そういうグループを作ってですね、新しいことをやろうとしているので非常にこう、自分の例と当てはめながら考えられてきたんですけれども、それで逆に質問があるんですけれども、そのエンジンというんですかね、動かすのはクエスチョンであると。で、発問力ということがあって、これは非常によく分かって私もですね、これからこういうクエスチョンをしなくちゃいけないなという立場だと思ってるんですけれども。で、最後にきょうのクロージングで成功の鍵というんですかね、その「楽しむ」ということがあったと思うんですけれども、そうすると1つきょうはアドバイス頂きたいのは、楽しめるようなクエスチョンというんですかね、これをどう聞いたらいいかと。なにかいい事例とかあるいはアドバイスがあったら頂きたいなと思うんですけれども。

 

寺本 これは実は数年前にIBMコーポレーションのヘッド・オフィスへいったときに、いまマネージメントの能力開発でいちばん力を入れてる部分は何ですかと訊いたことがある。そしたらそのときにクエスチョニング・ケーパビリティーの開発ですという言葉が出てきて。最初はよくわからなかったんですが、いろいろ訊いたら今のような内容で、要するにどうしたらですね、深い問いかけ、面白い問いかけ、本質的なクエスチョンができるようになるのかと。ここなんですよね。非常にグッド・クエスチョンですね、それは(笑)。いや。ほんとにそうですよ。

 そこでIBMのプログラムの中身もそのときに少し伺ってきたんですが、彼らはこういうこと言ってましたね。結局その深い問いかけというのが出てくるというのは、やっぱりね、その組織、会社がね、やっぱり明確なミッションを持ってる。その会社としてのね、やっぱり組織としてのウィル、意志が明確にある。ミッションがありビジョンがある。そういうものが全くないところで、ただ考えるといってもね、それは考えることは非常に難しい。だから組織をベースにしてそういうことを開発しようとすればやっぱり会社自身が大きなミッションなりビジョンなり、それでそれ自身は絶えず追求して実現していかなきゃいけない。つまり未実現の意志だと。だからそれを実現していくと。そういうなかで、じゃこういうことをわれわれはやるべきじゃないかと、いうことが当然出てくる。だからその問いかけの深さというのはやっぱり会社か持っているミッションのやはり深さだと思うんですね。ビジョンの深さとか、そういうところが1つは当然プラットホームといいますかね、ベースになるということが1つ。

 それからもう1つ。これもまぁ組織も個人も共通していることではあるのですが、やっぱりわれわれがある物を考える、問題を、テーマを立てるというときに、どういうふうにしてわれわれが物を考えるかというと、やっぱり1つは空間的な広がりをどこまで広くとれるか。つまり空間軸といいますかね、グローバルに物を発想して、そして捉える。つまり部分最適じゃなくて全体の最適だと、いうことが1つと、それからもう1つは縦軸は時間軸であると。やっぱり世界に学ぶというのが横軸であれば、縦軸は歴史に学ぶといいますかね、そういうやっぱり広い意味での教養ですよね。教養というのは単に物を知ってるということじゃないんですね。教養というのは最終的に詰めていくと、人の心が分かる心、それを教養と呼ぶ。単に知識かいっぱいあると、いうことじゃない。それももちろん大事ですが、そういうことを踏まえた上で人の心が分かる心、これをほんとの意味での教養、教養人というんだと。いうことですからやっぱりそういう実はこのことをですね、やっぱり愚直にやっていかないと、なんかあるトレーニング・プログラムがあって、それをやるとなんか問いかけが余っちゃうと。いう問い、そこで出てくる問いかけは結果的にはそんなに深い問いかけにならないだろう。

 

 最近いろんな本が出てるんです。実は。「発問力」ですとか。しかし非常に現象的なことがよく書いてありますね。ハウツウ的に。ハウツウはもちろん大事ですが、しかしもっと根本的なところでやっぱりわれわれは深い意味での教養、人の心が分かる心、想像力、イマジネーションといってもいいんですが、それがやっぱり豊かでないとほんとの深いクエスチョンはなかなか出てこないんじゃないかなというふうに思いますけどね。まぁ永遠の課題といいますかね、挑戦課題。

 

 アメリカ人のもう1つわれわれがいつも感心するのは、彼らはこれが問題ですと言わないですね。これはわれわれのチャレンジです。チャレンジというんですよ。つまり挑戦すべき課題というふうに言うんですね。問題は人に押しつけるためにあるんですね、自分の。挑戦は自らリスクを負ってでも追いかけるというところが挑戦でありまして。まぁそんな話で、テーマを選ぶというのは、たとえばもう研究開発なんかでは生命線ですね。筋の悪いテーマを立てて、いくらやっても大した成果につながらない。どうやってテーマを選ぶんですかということを研究ジェトロさんに ずーっとインタビューして歩いたことがあるんです、だいぶ前ですが。しかし皆さん、そこが問題なんですよと。ご質問の、どうやったらいいテーマ、いい筋を選べるか。あとからは、後付けならいくらでも言えるんですが。でも選ぶんでしょうと言いまして、どうやって選ぶんですかといったら最後はやっぱり目の色だと言うんです、担当者の。どうしてもやりたいということになると、やっぱりスポンサーシップを発揮するとかね、サポートしたくなると。コミットしてるということですからこっちもコミットする。ただあれですよね、最近は開発拠点もどんどんいま海外に展開してますから、最初から目の色の変わった人が入って来たりして(笑)。目の色だけで選ぶというと、そういうわけにもいかないんで(笑)。おっしゃるように、どうやったらその発問能力、発問力をね、深められるかというのは非常に重要な課題ですね。チャレンジです。どうもありがとうございました。

(拍手)

 

 

−以上−

 





講師紹介       

  (2002.10.1現在)

寺本 義也 (てらもと よしや)e−mail:teramoto@wiaps.waseda.ac.jp

生年月日:1942年10月7日
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授(経営戦略論・経営組織論・人材開発論)
文部科学技術省科学技術政策研究所客員研究官

【略歴】
1965年 早稲田大学第一政治経済学部卒業
1967年 同大学大学院商学研究科修士課程修了
    富士通株式会社入社
1972年 早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了
    明治学院大学経済学部専任講師
1975年     同     助教授
1979年〜81年 英国ブラッドフォード大学、アストン大学、ロンドン大学
    客員研究員・客員教授
1981年 明治学院大学経済学部教授
1989年〜94年 筑波大学大学院経営システム科学専攻教授
1992年 英国クランフィールド経営大学院客員教授
1994年〜98年 北海道大学経済学部教授
1994年 科学技術庁科学技術政策研究所客員研究官(併任、現在に至る)
1998年 北陸先端科学技術大学院知識科学研究科教授
2000年 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授(現在に至る)

【専攻分野】
 経営戦略論、組織論、人材開発論、知識社会システム論

【主要著書】
『経営戦略論』同文館、1974年 『実証・現代企業の戦略行動』同友館、1977年
『メディアソサエティ』日本能率協会、1984年
『失敗の本質』ダイヤモンド社、1984年
『経営管理』中央経済社、1987年
『日本企業のグローバルネットワーク戦略』東洋経済新報社、1990年
『情報立国』NTT出版、1990年
『ネットワークパワー』NTT出版、1990年
『パワーミドル』講談社、1992年
『学習する組織』同文館、1993年
『知の転換看たち』NTT出版、1993年
『大戦略』日本能率協会マネゾメントセンター、1993年
『戦略を創る』同文館、1994年
『日本型グループ経営の戦略と手法[1】』中央経済社、1994年
『日本型グループ経営の戦略と手法[2]』中央経済社、1996年
『インターネット時代の電子取引革命』東洋経済新報社、1996年
『大逆転!インターネット時代の仕事革命』主婦と生活社、1996年
『日本企業のコーポレートガバナンス』生産性出版、1997年
『事業進化の経営』白桃書房、1998年
『パワーイノベーション』新評論、1999年
『知識社会構築と人材革新』日科技連出版、2000年
『ビジネスモデル革命』生産性出版、2000年
『新中小企業経営論』同友館、2001年

【所属学会】
 オフィスオートメーション学会(副会長)、組織学会(理事)、日本経営品質学会(副会長)、情報文化学会(理事)、研究・技術計画学会(監事)、Euro-Asia Management Studies Association(理事)、日本経営学会、国際ビジネス研究学会他