音と健康

 

講 師  作曲家・ヴァイオリニスト

                玉木 宏樹

平成15年3月11日 於:如水会館

無断転記転載を禁

 

 

 

 

 

 

 

 










◆ 内容目次


1 本物のドミソと偽物のドミソ

(1)ヴァイオリンの挨拶

(2)私の作曲の仕方


2 音の後進国日本

(1)中央線自殺多発の怪

(2)世の中の迷惑な音

(3)そのほかの変な音


3 純正律と平均律

(1)偽物のドミソ

(2)純正律のオルガン


4 純正律に調整した美しい音楽の実例

(1)コーラス

(2)ポップスとクラシックの透明感のある音楽

(3)ピアノの調律

(4)ホーメイの声


5 純正律音楽研究会

(1)純正律音楽研究所で作ったCD

 


           質疑応答

           参考資料( 当日配布された資料 )

           講師紹介     

 

無断転記転載を禁

社団法人 如 水 会

 

 

 

 

 



1 本物のドミソと偽物のドミソ



( 1 ) ヴァイオリンの挨拶

 { 演奏・バッハ「無伴奏ヴァイオリンソナタ」1番・第1楽章 }

(註:以下演奏のところは{     }による括弧でくくります)

(拍手)

 みな様今晩は、玉木でございます。よろしくお願いします。いま弾いたのは、バッハの「無伴奏ヴァイオリンソナタ」1番の第1楽章です。のっけからバッハの演奏で始まって「何だ?」とお思いかもしれませんが、私の話はいつもこの曲で始めるのです。というのも、経歴は芸大のヴァイオリン科卒業になっておりますので、一応ちゃんと弾いておかないと(笑)これからやることが、何だ吉本じゃないかというようなことばかりですので疑われないようにということです(笑)。

 テーマの「音と健康」の話は追々やっていきますけれども、今日はみなさんが「あっ」と驚いてほしい音をお聞かせします。と言うのは、多分ここにいらっしゃる方の殆どの方が、本物の「ドミソ」を知らないで偽物のドミソばかり聞かされているのです。それを後でちゃんとご説明します。本物のドミソってなかなか聞けないのです。

 その前に、このヴァイオリンもご挨拶をしたがっておりまして(笑)「みなさん、今晩は」(笑)「玉木宏樹です」(笑)。「ここはどこですか」「如水会」(笑)。発音がおかしかったかな(笑)。如水会というのは言いにくいですね。そんな具合にヴァイオリンがお喋りしたわけですが、これがこれからお話する音の不思議な、神秘的な現象でもあるわけです。

 みなさんよくご存じのピアノの音は、鍵盤で全部決められています。そしてドとレの間にはドの♯1個があり、ですからドとレの間には3つしか音はありません。しかしヴァイオリンはそういうわけでなく、{ 実際にヴァイオリンを弾く}ドとレの間にこういうふうにいろんな高さの音があるわけです。ピアノはそこをぶった切っていてたった3つの音しか出せません。これに対してヴァイオリンはいろんな音程が出せますので、さっきのようなお喋りのようなことも出来るわけです。これがいつも僕が言っている「ピアノとは違うヴァイオリンの面白いところ」です。

 みなさんのお名前をちょっとヴァイオリンで弾いてみましょう。女性がいいですね。「済みません、お名前何ておっしゃいます?」「いけがやみちえです。」{ ヴァイオリンで、「いけがやみちえ」と弾く}(笑)「お父さんは?」「なかむらけいたろうです」。{ ヴァイオリンで「なかむらけいたろう」と弾く}(笑)(拍手)



( 2 ) 私の作曲の仕方

 いけがやみちえさんというお名前はいま初めて聞いたわけですから、手品でも何でもありません。この場でいけがやみちえさんのために、お名前で作曲をしましょう。何しろCMを1,500 曲も書いていますから、作曲は何処でも出来るのです(笑)。みんなによく、一体どういうときに作曲出来るんですかと聞かれますけど、何処でも出来なきゃプロにはなれないのです。先ほど紹介して下さった「大江戸捜査網」なんかでも、朝10時から録音があって、前の晩の10時から1晩で100 曲ぐらい書くことは平気ですから、そうして作曲しました。それでもあの曲は素晴らしい曲です(笑)。

それでは「いけがやみちえ」のお名前をイメージしたメロディを作曲し、即興演奏をします。{ 即興演奏 }(拍手)他にどなたか作曲してほしい個性的なお名前の方、いらっしゃいますか。先程の「なかむらけいたろう」で作曲しましょうか?怖そうな顔して……(笑)「なかむらけいたろう」。怖そうな、なかむらさんのこんなメロディが出来ましたそれでは即興演奏いきます。{ 即興演奏 }(拍手)




2 音の後進国日本


 それでは話の中身のほうにいきましょう。私は今まで本を3冊出しております。そのうち1冊が『音の後進国日本』、もう1冊は『純正律は世界を救う』という本です。その『音の後進国日本』という本は、音楽に関するノンフィクションなんて売れたためしがないのに、出版不況の中で今3刷りまできています。これがすごく話題になりまたのは、その本の冒頭に「JR中央線自殺多発の怪」というテーマで、どうしてJR中央線に自殺が多いのかということで、大胆にもあれは駅の音楽のせいであるということで、実例をずっと書いたのです。

それが週刊誌や新聞でものすごく取り上げられ、特に「日刊スポーツ」ではものすごく大きく出たんです。それでテレビ局の取材を受けたのですが、その申込みの仕方はほんとにひどかったですね。突然日曜日の朝刊を見て「出演してくれ」です。「本を読んだの?」と聞いたら「本、出ているんですか?」といった調子で、立て続けに3つ4つのテレビ局が電話してきましたが、誰1人その本を読んでいないんです(笑)。いちばん最初に声をかけてきたのがフジテレビで、結局フジテレビだけには出演しました。

 実際に出て面白かったです。駅の発車のときなど“音楽もどき”が流れますが、僕はあれは音楽だとは思いません。まず電車が入って来るときに、電車が入って来るよ、みたいなやさしい音を出します。そしてドアが閉まる前にあの音楽もどきが鳴るんです。山手線は大して問題はないんですが、一応こんな音楽が流れています。ところがある日、事務所が西麻布ですから、信濃町まで出て、信濃町から総武線で秋葉原へ行き、秋葉原から山手線を一周して、また秋葉原から黄色い電車で新宿まで出て、それから快速に乗り換えました。

それで全部の駅で鳴っている“音楽もどき”をスケッチしたのです。問題を感じたのは新橋、東京、原宿でしたが、たいがいはこんな音楽でうるさくも何ともありませんでした。



( 1 ) 中央線自殺多発の怪

 しかし中央線に乗って、中野に着いた途端にひどい状態が始まりました。こんな音楽{ 演奏 }でそれでブツッと切るんです。あつ、弓の毛が切れた(笑)。昔は発車する前ドアを閉める時、車掌が1番後ろの柱のところにブザーを押していましたが、今は音楽まがいが鳴ります。それで音楽の切りのいいところで切ることができず、途中で先ほどのようにブツッと切っちゃうわけです。

そうするとすごく混んでいるから、次の電車にしようかなと思っていたのに、音楽をブツッと切られると「あっ、これはいかん」とみんなワーッと無理矢理乗ろうと思ってしまうのです。すると「駆け込み乗車は危険ですから(笑)おやめください」と自分がせかしておいて、アナウンスするのです。先程の音に言葉をつけると「早く乗れよ、早く乗れよ、早く乗れよ、早く乗れよ」と聞こえます。それでブツッと切られますからこれはとてもひどいです。

 中央線は立川、八王子にかけて各駅で流れている音楽が特にひどいです。{ 具体的にいろいろな駅の実例を演奏 }覚えありませんか。これはひどいです。ここまではいいけど、ここでどうして転調するんですかね。非常に気味が悪いです。それでしかも音が乱暴です。京浜東北線の横浜のほうに行くと、しょっちゅう流れている嫌なのがあります。これはすごく怖い“音楽もどき”です。16分音譜を1個飛ばしちゃっているので、4分の4拍子でもないのです。僕なんかいつも頭の中で音符に書き直して聞いていますから、かえって危ないのですよ(笑)。あれは結局注意喚起音ですから、途中でブツッと切られたら、みんな焦って乗り、危険なのです。



( 2 ) 世の中の迷惑な音

 世の中には音が嫌いな人がいっぱいいるし、音楽が大嫌いな人だっているのですよ。隣の犬がうるさいかとか、夜中にピアノを弾いているからって、刺し殺した人もいるぐらいです。音というのは非常に良い面もあるけど、人をいらつかせて大変なことになることもあります。登校拒否とか出社拒否症寸前の人なんかには、あの嫌な音楽がものすごく神経にこたえる可能性もあります。

こういうように、早く乗れよとせかされるのを僕は「パチンコ屋状況」と言っています。パチンコ屋なら自ら進んで入っているのだから、どんな音楽がガチャガチャ鳴っていようが(笑)自分の責任ですからいいです。しかし駅というのは不特定多数の人が集まるわけで、そういうところで音楽まがいの変な音を出すのは非常によくないと思います。

 実際フジテレビのワイドショーの出演において、「じゃ玉木さん、山手線はどうですか?」と言うので「山手線は多分あんまり害はないでしょう」と答え、「じゃ、いよいよ中央線なのですが」となり、「中央線も中野までは何の問題もないと思うのだけども、中野以後がものすごくひどい。これはほんとにひどいですよ」と言ったのです。そしたらほんとに何の打合せもしてないのですが、自殺の率の棒グラフが示されたのです。それによると中野から八王子までの自殺の率が急にボコッと上がるのですよ。僕が中野以降はひどいと思っていたらその通りになっているのです。

 「真ん中あたりの黄色い電車はどうですか」「多分、何の問題もないと思うよ」「じゃ飯田橋、市ヶ谷はどうでしょうか」「ああ、あんなの誰も気にしないよ」と答えましたが、実際その通りこの駅では何年間か自殺率0なので、僕自身が驚きましたね。だから「中央線自殺多発の怪」は半分はふざけて書いた内容なんですが、実際に当たっていたのです。JRがどうしてあんなことをやったのかというと、「JRディズニーランド作戦」といって駅にそれぞれの音楽を鳴らさせてディズニーランドのようにしようという発想でした。だったらもっと綺麗な音楽を流してくれればいいと思います。



( 3 )そのほかの変な音

 音というのはそういうふうに人間に対して深層心理のところで大変な影響を及ぼします。これは駅だけではなく、僕がものすごく気になるのは電話の待機音で、あれも音楽まがいのものが流れています。それから横断歩道の信号で、目の不自由な人を愚弄しているような「通りゃんせ、通りゃんせ」ですが、目の不自由な人が一生懸命通ろうとしているのに「通りゃんせ」はないと思います。

あれは人がたくさん横断するところにしか設置していませんが、そんなところはみんなと一緒に行けば何にもないわけで、危ないのはそんなところではないと思いますが、そういうところには付いていないのです。

以前、八王子の視覚障害者の集まりに呼ばれていろいろ話をしたのですが、そのときに「“通りゃんせ”をどう思うか」と聞いたら、全員が「不愉快だ」と言っていました。それで嫌ならどうして声を上げないのか聞いたら、半分以上の人がせっかく政府や党が我々のために一生懸命予算をつけて作ってくれたものなので、反対の声を出したらひどいことになると思って我慢していると言うのです。これはどう考えてもおかしいと思っています。




3 純正律と平均律



( 1 )  偽物のドミソ

 今日は先程も言った“本物のドミソ”について、分からない人にも分かってもらいたいと思っています。何の変哲もない“ドミソ”ですが、日頃みなさんが耳にしている“ドミソ”はこういう音なのです。{ 以下ヴァイオリンで演奏 }

 これがピアノとかオルガンとかシンセサイザーとかハープなどの“ドミソ”です。先ほど僕が出した“本物のドミソ”とはこういう音です。一方ピアノに使われている平均律のドミソはワンワンワンワンって聞こえてくるでしょう?それはものすごく汚い音です。もう1回やりますが、“本物のドミソ”は全然違いますが、それを聞くチャンスがないのです。

黒板を見てください。一番左に「純正律」と書いてあり、それから真ん中に「平均律」があります。それから「ピタゴラス音律」というのがあります。これはちょっと難しいので省略しますけれども、ピタゴラス音律というのはヴァイオリン、お琴、民謡、全部同じです。古来ギリシャ人のピタゴラスが発見した音律ですが、中国も日本も全部このピタゴラス音律で、ものすごくメロディが綺麗で、いずれにしても平均律ではないのです。

 世の中はいま全部、大量生産のカルキ臭い“水道水のドミソ”なんです。これに対して純正律のドミソは、岩清水のように透明感があります。こういう“透明なドミソ”で出来上がっている音楽をもう一度見直して、そういう音楽を多くしたいです。特に駅の音楽などは単純なんですから、この綺麗なドミソでやればいいのに、そんな単純なものまで平均律でやっているのです。

 『音の後進国日本』という本の中で、音の環境を良くしようということをずいぶん書いているんです。そして街を純正律で染め上げ、純正律の美しい音色で街の環境をよくしようと主張しています。秋葉原の電気街はうるさいです。そこではテレビは何種類も違う放送の音が鳴っていますし、その横で別の音楽が鳴っていたりしますが、ああいうところに好き好んで行く人もいるわけです。私は街の音楽を良くしていこうという運動をすると宣言してその本を書きましたが、なかなかうまくは行きませんでした。

 が、しかし昨年、丸ビルがオープンし、その丸ビルのある中通りの環境音楽を純正律で、という注文がきたこともあり、世の中も少し変わってきました。

それから、今やっているかどうか分かりませんが、時報用の音楽を純正律のドミソで書きましたが、この音は非常に余韻が長い音楽で、これが2曲目です。これはシンセサイザーでも何でもなく、フィンランドの「カンテレ」という、お琴を小型にして寝かせたような形の民族楽器で、世界一余韻の長い楽器です。

こんなに余韻が長いと、ちゃんとドミソを純正に合わせておかないと、余韻がぐちゃぐちゃになっちゃうのです。全部純正律に、調弦をきっちりとやっていますから、あんなに余韻が長くても綺麗に残るのです。これを平均律でやったらとても耐えられないです。このカンテレという楽器の音楽は、大きなCD屋さんに行けばあります。こうして1つ成果が出てきましたが、音は、本当はなくていいのですが、出すのなら美しい響き合う音でなければダメだということを提唱しているのです。



( 2 )  純正律のオルガン

 私はいろいろCDを出しておりますが、その中から「歓喜の翼」という曲を演奏します。(拍手)この曲はシンセサイザーでバックを作っていますが、オルガンの音がしていましたね。このオルガンの音は全部コンピュータで純正律に調律しています。ですから非常に濁りのない透明な音なのです。ああいう透明なオルガンは残念ながら日本には何処にもありません。

オルガンは直接グーッときますから、平均律の濁った音では非常に身体に悪いのです。それを日本人は錯覚しているのです。ヨーロッパやアメリカの人達は、オルガンは神に近い楽器で神々しいということで一生懸命我慢しているのですが、これを神々しいと感じないのでは、馬鹿なんだろうと思いながら我慢するのは身体に悪いことで、我慢する必要はありません。

 平均律のオルガンも、実際はノートルダムでもウエストミンスターでも二階で弾いていて、弾いている姿は見えません。そして天井の高いところに音を放出して、ブレンドされて下に下りて来ますので、人いきれとお香の匂いで、平均律のギスギスしたいやな響きが緩和されるのです。下では子どもたちが純正律でコーラスを歌っていますから、すごく神々しくて美しいのです。これは一度フィルターを通してブレンドされているのと同じ事ですが、日本のサントリーホールのオルガンなんかは直撃しますから駄目です。

 最近、慶応大学の草野厚という政治学者の書いた『癒しの楽器パイプオルガンと政治』(文藝春秋新書)という本が結構、売れています。これはオルガン業界、要するにクラシック業界に巣食っている利権屋集団のことが見事に書かれていて面白い本です。草野さんは慶応大学在学中にこっそりと芸大の指揮科を2回受験している人です。同じように、純正律というものを声高に主張して音楽活動をしようとしている作曲家は、日本では2人しかおらず、世界では珍しいのです。それは私ともう1人が藤枝守という人です。しかし私たちは、話は合うのですが、方法論はちょっと違います。

 ヨーロッパやアメリカで平均律がいつから使われ出したかというと、せいぜい100年前からであり、例えばモーツァルトの場合はミーントーンという調律ですし、ベートーベンはキルンベルガーという調律で、平均律は使われていません。約100年前、日本が西洋音楽を取り入れた時期がちょうど平均律になったときなのです。その後、日本の教育は全部平均律になってしまいましたが、ヨーロッパやアメリカでは平均律なんていうものは間に合わせのもので、“真っ赤な嘘のドミソ”だということをみんな知っています。




4 純正律に調整された美しい音楽の実例



( 1 ) コーラス

合唱のゴスペラーズは、とても綺麗にハモっていますが、あれはピアノを使わないからです。よくハモった瞬間は純正律なのです。ちゃんと純正律の勉強をすればいつでもハモれるのに、しかし、今のままでは瞬間芸でしかハモれないのです。世界中で純正律の音がすごくはやっています。

ちょっと聞いてみましょう。まずこういう天使の歌声ですが、これはロンドンのボーイソプラノ集団の「リベラ」という合唱団です。昔は、少年合唱ですと「ウィーン少年合唱団」が有名でした。NHK児童合唱団もウィーン少年合唱団のようになろうとして訓練しましたが、幾ら訓練してもあのように綺麗な天国的な歌声になりません。その理由について僕は決して直接は言わなかったのですが、いつかは分かってくれるだろうと思っていたのですが、先ほどから言っているように狂わせてある平均律のドミソでいくら訓練しても、狂わせてある音にしかならないのです。

ミの音は純正ですとこんなに低いのですが、ピアノの調律だとこんなに高くなっちゃうのです。皆さんは高いか低いか分からなくても、違いは分かると思います。この違いというのは半音の50分の7なのです。それでも人間の耳はこんなに正確に分かるのであり、人間の耳を馬鹿にしてはダメです。従ってせっかく子どもたちがハモるために、低いほうのミで歌おうとしているのに、先生が「違うじゃないか。よく聞け」と狂わせてあるピアノのドミソを叩いて、狂っているほうの音程を押しつけるので、ハモれるわけがないのです。そして日本の児童合唱がハモらないのは、天井が低いからだろうとか、発声法が違うからだとか、最後は食い物が違うからだということになってしまうのです(笑)。



( 2 ) ポップスとクラシックの透明感のある音楽

ポップスの世界では非常に有名だから、ご存じの方も多いと思いますが、エンヤの歌っている「きよしこの夜」を聴いてください。これはエンヤの「ベスト・オブ・エンヤ」の、日本人向けのボーナストラックだけに入っていて、しかもそれをケルト語で歌っていて、とても美しいです。

それから一時非常によくはやっていた、ケルトのアディエマスというグループがあります。このグループの音楽は、NHKスペシャルの「世紀を超えて」という番組のテーマ音楽になりました。これらの音楽に共通して言えるのは、すごく音が透き通っていて、透明感があるというか濁っていません。この“濁ってない”のが純正律なのです。ピアノの音律でやったら絶対こういうふうにならないのです。

エンヤもアディエマスもポップス系なのですが、ポップスともクラシックとも言えない非常に綺麗な男性コーラスを聞きましょう。それはヒリヤード・アンサンブルの「オフィチウム」という曲です。これは世界中で300万枚ぐらい売れたそうで、世界中でこういうサウンドが支持されているのです。もとのコーラスで歌っている曲は11世紀頃の作曲です。その上で一緒に“ヘラヘラヘラヘラ”やっているのは、ジャズのソプラノサックスの奏者です。それらがなんかうまいこと融合しているのです。音楽に詳しい方のために言っておきますが、コーラスが歌っているのが純正律で、その上でヘラヘラヘラヘラヘと演じているサックスはピタゴラス音律なのです。どっちにしても両方とも平均律ではないのです。

それから現代音楽という分野があり、“ドテン、バタン、クソッ、カーン”というようなどうにもならない音を使いますが、最近は作曲家が反省しだしたようで、特にヨーロッパではどんどん純正律の世界に戻りつつあります。ポーランドの有名な作曲家でグレツキという人の「悲歌のシンフォニー」は、シンフォニーとしては珍しくこれも300万枚ぐらい売れました。そのグレツキの作曲した曲をキングズ・シンガーズというコーラスが歌っております。{ 演奏 }お聴きになっていかがでしょう。とても現代の人が作曲したとは思えない、古典のにおいがしていますよね。これはクラシック系ですが、純正律というのは別にクラシックであろうとポップスであろうとジャズであろうと何でも使われます。



( 3 ) ピアノの調律

シンガーズ・アンリミテッドという有名なコーラスグループも、ほんとに見事な純正律のハモりのコーラスを聞かせます。これもピアノは入っていません。ピアノはとても便利な楽器ですが、ピアノをやっている人はピアノの音程は正しいと思い込んでおります。平均律というのはどういう意味かといいますと、音を平均的に狂わせてある音律であり、それは本当に間違いなのですよ。

調律師の訓練はそれでやりますが、ドとオクターブ上のドを合わせて完全5度と言いますが、これは純正の完全5度で綺麗に合っています。しかし平均律の調律はここから狂わせるのです。{ 音を聞かせながら }分かりますか?もう一回、純正にしますとこの音は濁りがありません。しかし平均律にしますと“ヤンヤンヤンヤン”と唸りを生じていますが、これは音が合わないときに唸るわけです。この差は半音の50分の1なのです。半音の50分の1を誰が分かるかと思うでしょうが、ちゃんと人間の耳には分かるのです。この“ヤンヤンヤンヤン”という唸りの回数を、約0・8秒に1回の割合で唸るように調節したのが平均律なのです。

だから平均律はオクターブ以外全部合っていませんが、ピアノの中で音が減衰するから問題にならないのです。ピアノでは問題にならなくても、パイプオルガンなどは平均律ですと音が伸びてしまうので困ります。



( 4 ) ホーメイの声

次に、人間の声が純正律である証拠のCDを1曲聞きましょう。これは「ホーメイ」とか「ホーミイ」と言っていますが、1人で二重唱をしちゃうのです。歌っている人はバイカル湖の近くのモンゴルとかトゥバとかの、コンガールオール・オンダールという名前の人です。{ CD再生 }これは彼の地声の上に口笛の音を合わせて、1人で二重唱をしているのです。僕は彼を世田谷美術館で目の前で見ました。

人間の声には、自分のベーシックな声の上に、高い「倍音」がずいぶんと含まれているのです。その含まれ方の度合いによって各自の声の特徴があるわけで、誰でも高い倍音が一緒に鳴っています。それを特殊な訓練でより分けて、耳に聞こえるように発声するような演奏をしているのがこの「ホーメイ」なのです。「ホーメイ」の上で鳴っていた口笛のような音は、当たり前のことですが全て純正律です。だからミは必ずピアノよりは低く、人間の身体が純正律であるということの何よりの証明です。




5 純正律音楽研究会



( 1 )  純正律音楽研究所で作ったCD

私は「純正律音楽研究会」というのを主催してCDをたくさん作って参りました。そこの幹事の1人に、作曲して歌を歌う医者“シンガーソング・ドクター”がいます。彼は外科医ですが、彼の関係する病院のリハビリ治療のための理学療法室で、このCDをかけたところ、ものすごく効果があったと言っています。またある田舎の病院で、理学療法室が雑談室や社交場みたいになって、うるさくて仕方がないので、試しに僕のつくったCDをかけたら、みんな喋らなくなりすごく治療がしやすくなったのだそうです。

すごくいいことだと褒められましたが、一つ困ったことがあり、それはやっている先生まで眠くなってくるのだそうです。それから、私の本の中には実例が書いてありますが、私はそんなつもりは一切なかったのですが、すごくヒーリング効果があるという報告がきております。それは頭痛が軽減したとか、偏頭痛が治ったとか、不眠症が改善されたとか、情緒不安定がおさまったとか、鬱病が軽減したという例です。僕は半信半疑なのですが、他にもびっくりするのは、ペットがおとなしくなったという例もあります。更に強烈なのは、病気の猫が、また曲をかけろと催促する、ということもあるそうです(笑)。

もともと人間の身体がもっている「波動」や、身体そのものが純正律なのです。だから今までかけていた音楽も、この人達は何も純正律だと言ってないのですが、純正律でやっているから非常に美しくて、透明感が溢れ出て、心が和むのです。今こういう音楽がすごく増えているのですが、日本人では原理原則を知らないからなかなかやらないのです。僕はこのことについて、スキームとマテリアルがないと言っております。

マテリアルと言えば、三菱マテリアルの前社長の秋元勇巳さんという人は、財界で唯一、オーケストラの曲を書く面白い人です。

最後に、私が作曲して演奏しているCDの中から何曲か演奏しましょう。まず「悠久のケルト」という曲です。私はケルトがすごく好きですが、ケルトの幻影のような曲です。{ 演奏 }(拍手)

次に「雪柳」という曲です。{ 演奏 }(拍手)

次は「第三の夢」という曲です。これは私が始終お世話になっている整体の女王様がいまして、その人が純正律は非常に身体によさそうだから、そのための純正律の曲を書いてくれと言われて作った曲です。{ 演奏 }(拍手)

 

 



◆ 質疑応答


講 師 大分いい時間になってきたみたいなので、何か聞いておきたいこととかがございましたら、質問をお受けしたいと思います。

質 問 2つございまして、1つは、今私どもが聞いているモーツァルトのピアノソナタとかピアノコンチェルトとか現代の人が聞いているのは、モーツァルトが作曲したものと違うものを聞いているのかどうかということですが。

講 師 その通り全く違うものを聞いています。

質 問 そうすると、ベートーベンの「テンペスト」とか「アッパッショナータ」も、ベートーベンの作曲したものと違うものを聞いているということでしょうか。

講 師 違います。みんな偽物を聞かされています(笑)。というのは平均律がもう既に偽物だからです。さっきお聞かせしたようにドミソが違うのですよ。

質 問 もう1つは、天満敦子さんの弾いているルーマニアの音楽の「望郷のバラード」は純正律でしょうか。

講 師 彼女は私の後輩ですが、その質問はいろいろと商売上のしがらみがあり答えにくいのですが…、あの人が大変体調のいいときは純正律ですね(笑)。

質 問 あの曲を彼女が弾くのを聞いて、私は日本の演歌と共通するものがあるなという感じがしたのですけども。

講 師 そうですね。彼女の演奏の仕方は演歌的なものに向いていますね。あの曲も全然有名じゃないのに、あそこまでよく発掘して新聞小説にもなりました。しかし天満さんのことに関しては、個人名ですのでお答えは避けたいと思います(笑)。

   モーツァルトのことは大変重要な指摘であり、モーツァルトはここに書いてある以外に、ミーントーン、「中全音律」という調律だったのです。これは非常に純正律に近い調律で、ピアノの鍵盤では12個しかないのですが、それを平均的に狂わせるのではなくて、ここの辺はものすごく綺麗にしておこう、ここは綺麗にしておこう、ここはダメなふうにしておこうというように、区分けが厳しい調律なのです。

      中全音律の場合には、6つまでしか転調出来なくて、7つ目の転調にいくと世界が崩壊しちゃうというような音律です。モーツァルトは響きの音楽とか言いますが、純正な響きの甘味を追究した求道者と言われています。モーツァルトの曲に、「ドソミソ」という伴奏形が使われる音楽がありますが、この「ドソミソ」は綺麗だろうというデモンストレーションの音形なのです。それを平均律で弾いてもダメなのです。

      モーツァルトの録音を聞かれるのでしたら、僕は内田光子さんのをお勧めします。内田光子さんは古典調律でやっていますから、あの人のモーツァルトの評判はいいのです。「さすがウィーンで神髄を勉強した人だ。タッチが綺麗だ」とみんな言いますが、これはタッチが綺麗なのでなく、調律をモーツアルト時代のミーントーンでやっているからすごく綺麗なのです。だから「モーツァルトの夕べ」をやるのでしたら、モーツァルトの調律でやらなかったらおかしいのですよ。それを平均律でやってうまいか下手かと言うのは馬鹿な話です。ベートーベンだってキルンベルガーという調律でやらないとおかしいのです。

質 問 グレングルドは如何ですか。

講 師 グレングルドは逆に平均律の鬼っ子みたいなところがありますから(笑)、あれはあれで素晴らしいと思います。平均律を使うなら、平均律を武器として使うことが大切で、そうでなくて何でも平均律でやればいいと思っているのが大間違いなのです。私も平均律では曲を作らないということは絶対あり得ません。この世の中で平均律の曲を作らなかったらかえって生きていけません。「大江戸捜査網」も「怪奇大作戦」もみんな平均律です。しかし平均律を使うときには、なるべく音が濁らないような作曲の仕方があり、それをよくわきまえていれば良いということなのです。

質 問  基本的なことが分からないので勉強させてください。純正律の音楽はどういうところで聞けるのかという意味で、次についてイエス、ノーを教えていただきたいと思います。ピアノは構造的に純正律は出せない。ヴァイオリンは出せる。弦楽器は基本的に出せる。管楽器は出せる。ということで、著名な演奏家ではこういう人のカルテットを聞いたら純正律が聞けますというあたりをちょっと教えてください。

      それから「ピタゴラス音律」の中で民謡とありますが、あの民謡はワールドワイドの意味で仰っているのでしょうか。

講 師  世界中の民謡はかなりの部分、70%ぐらいはピタゴラス音律です。特に日本の民謡はピタゴラスです。ピタゴラスの特徴はミの音がものすごい高く、平均律よりもっと高いのです。日本の邦楽にドミソの観念が生まれなかったのは、ピタゴラスの調律のため、ドミソが汚いからドミソがないのです。僕はこれからそれをどんどん改善していきたいと思って、今邦楽にそういうことを提案しています。

      一番顕著な例は民謡系の北島三郎の「はるばる来たぜ、はーこだてー」です。「はーこだてー」と最後に伸ばしている部分は、「ドレミソ ラドレ ミミミミ」でミの音なのです。しかし、彼はちょっとピアノがおかしい、「はーこだてー」のミのピアノの音が狂っていると言うのです。それはそうなので、ピタゴラスのミはもっと高いのですから。ピアノの音はピタゴラスから言っても狂っているし、純正から言っても狂っているのであり、サブちゃんの「違う。ピアノの音が違っている」というのはなかなかいい言葉なのです。

純正律の例についてはもっとたくさんあります。

      コーラスではさっきお聞かせしたヒリヤード・アンサンブルの「オフィチウム」で、これはすごくよく売れています。それからキングズ・シンガーズというコーラス。そして、少年合唱団の「Libera」もCD屋へ行けばかなり売れています。それからジャズではシンガーズ・アンリミテッドのさっきお聞かせしました「キル・ミー・ソフトリー」です。

      この他、1940年代の黒人のゴスペルコーラスは全部純正律です。ブラスではカナディアンブラスやいろんなブラスアンサンブルの有名なところは全部純正律です。というのは、ブラスは隣同士の音がハモってないと身体にこたえるので、どうしてもハモらせないといけないのです。それからリコーダー・アンサンブルでは、NHKで笛のお兄さんをやっていた金子建治さんという僕の知人がいます。彼がやっている、東京リコーダー・オーケストラがものすごい勢いです。リコーダーも純正律でハモらないといやな音がしますからね。もしCD屋になければうちの事務所にご連絡ください。電話番号は(3409)2009です。

      それから自分のことですが、3月28日の夜10時から、12チャンネルで「芸術に恋して!」っていう番組があり、そこでヴァイオリンの特集をやります。そこではホステスの高島チサコが主人公で、私はいろいろナビゲーターとしてヴァイオリンの解説をやったりします。それから30日には、大森でヴァイオリン弾きまくりのリサイタルもやります。

質 問  いま弦楽器には触れられなかったのですが。

講 師  ハッキリ言って、弦楽器は遅れています。弦楽四重奏もダメです。古楽器の人達はいいのですが、でも古楽器はあんまり面白くないので今ひとつです。先日『ストリング』という雑誌の編集長が僕にインタビューに来ていろいろ話をしましたが、弦楽器はやっぱり音律に関しては絶望的です。

質 問  「アレグリのミゼレーデ」という、教会の音楽があるのですが、これは純正じゃないかと思っているのですが、それでよいのでしょうか。

講 師  ええ勿論。あの曲は純正で歌わないとダメなのです。しかしタリススコラーズがちゃんとした純正律で歌っているかといいますと、ちょっと疑問のところもあります。目標は絶対純正律なのです。

質 問  フランスの作曲家でカントルーブという人が歌のCDを出しているんですけど…。

講 師  カントルーブの「オーヴェルニュの歌」の中の「バイレロ」という歌、僕はCDを聞いた回数をつけていますが、150回聞いている大好きな曲です。あれは演奏も編曲も純正律ではないのですけど、曲の作りは純正律で、とても単純だけどすごくいいのです。多分僕は、無人島へ流れ着き1枚だけCDを持っていっても良いと言われたら、「オーヴェルニュの歌」を持っていくというほど好きなのです。

      他に質問がなければ、最後に1曲だけ季節外れですけど純正律の「枯葉」を演奏します。ギターは純正律じゃないのですが、今フランスへ行っている私の仲間が、エレキギターを純正律に調律する方法を発見したのです。その純正律ギターをバックに「枯葉」を演奏しておしまいに致します。 { 演奏 }  (拍手)

司 会  どうもありがとうございました。講義録をつくるのですけども、一番おいしいところは講義録には出てこないという(笑)非言語情報の「音と健康」という題で、玉木さんにお話をいただきました。

    (拍手)                   

― 了 ―

 

 

 



◆ 講師紹介

  玉木宏   たまきひろき

   作曲家・ヴァイオリニスト

   桐朋学園大学短期大学講師

           純正律音楽研究会代表

          (社)日本音楽著作権協会評議員(JASRAC)

   1943年 神戸生まれ。

    1965年 東京芸術大学ヴァイオリン科卒業後、山本直純氏に作曲と指揮を師事し、映画やTVドラマ等で作曲活動を開始。

    作品 「大江戸捜査網」(テレビ朝日)

       「おていちゃん」(NHK朝日朝のTV小説)

       「怪奇大作戦」 (円谷プロ)   他多数

        CM1500曲

著書 『音の後進国日本 純正律のすすめ』(文化創作出版)

   『ピュアミュージック 純正律は世界を救う??

    身体に良い音楽・悪い音楽』(文化創作出版)

詳細は、  http://www.midipal.co.jp/~archi/  をご覧ください。