「21世紀 ― 世界に翔たく一橋大学」

如水会 昭和38年会 卒業40周年大会

記念講演会

講師 一橋大学副学長

清水 啓典 

平成15年10月17日 於:如水会館

【無断転記転載を禁ず】

社団法人 如 水 会

責任編集

 

 


◆内容目次

講師紹介 
国立大学法人一橋大学:日本の大学に範を示す世界最高水準の大学へ 
世界の研究教育市場:世界一流大学の進歩、欧米・アジアの動向 
世界市場への道:英語による教育の充実 
圧倒的なアジア研究の成果を生かした研究拠点の形成とアジアの大学との提携戦略 
世界一流大学の水準を実現するイノベーション 
一橋の伝統Captains of Industryの継承と再構築 
教職員・学生・OB:三位一体の取り組み 
新規事業に不可欠な外部資金調達 
母校に名を残す文化:Naming Right 
10 進行中の諸施策 
11 法人化後の諸活動 

司 会

本日の会は第一部の記念講演会ではセレモニーめいたことはいたしませんで、第二部の懇親会で幹事長の挨拶や乾杯等をいたしますので御了承ください。それと懇親会にこれから御講演を頂きます清水副学長に御参加を頂きますので、これからのお話の御質問や御意見等々を、清水副学長と親しくお話し願うことと致します。

では定刻でございますので、如水会昭和38年会卒業40周年記念大会を始めたいと思います。恒例によりまして、清水副学長の御略歴等を簡単に御紹介申し上げます。先生は1948年のお生まれでございまして、70年に一橋大学を御卒業になり、77年に一橋大学商学部の専任講師として御就任され、以降、助教授、教授となられました。2000年8月に大学の商学研究科の、我々の時代には学部長と言っておりましたが、研究科長に御就任され2002年7月に御退任になり、本年4月に3人目の副学長に御就任されました。御専門は金融及び経済でございまして、主な著書に「日本の金融と市場メカニズム」、「マクロ経済学の進歩と金融政策」等々がございます。また論文等は多数ありますので、その点は省略をさせていただきます。

さて清水副学長は、一橋大学や留学されましたシカゴ大学の教授陣のよき伝統であります、「行動する学者」の流れを最もよく受け継がれた貴重な人材でいらっしゃいます。金融学会、経済学会での御活躍はもちろんのことでございますが、金融危機に際しましては7名の学者グループの1人として政策提言を行っておられますし、また民間企業4社(NECや花王等)の協力を得て、一橋シニアエグゼクティブプログラムの研究開発を2002年より実施しておられます。同プログラムは、新装なりました丸ビルのスペースを確保することによって、ビジネスの中心地に教育・研究拠点を一橋大学が確保し、大学のイニシアチブのもとで産官学の交流を推進するものとして大変大きな注目を集めていることは皆様も御存じのとおりでございます。このような清水副学長の実績が内外から高く評価され、本年の4月、学生担当の杉山副学長、企画・総務担当の川村副学長に続きまして、新設の財務・社会連携・情報、国際交流、広報等々の担当副学長として、明年4月からの独立行政法人移行を見据えて、石学長を補佐する重責を負われることになったわけでございます。

御就任に際しまして、一橋を世界最高レベルの大学にするための支援活動が私の使命であるという決意を語られたと伝えられておりますが、清水副学長の念頭には、もう一つの母校でありますシカゴ大学があるのだろうと拝察されます。シカゴ大学は皆様も御存じのとおり、ジョン・メイナード・ケインズとかヨーゼフ・シュンペーターを理論的な支柱とする東部のハーバードやMITとは異なりまして、フリードマンあるいはルーカスの通貨理論あるいは合理的期待形成理論など、政府の裁量的経済政策の有効性を否定し、市場の合理性に深い信頼を置く学説を掲げ、アメリカの経済政策に多大な影響を及ぼした大学でございます。これらの教授にはノーベル経済学賞がもたらされまして、大学の評価が非常に高まったというふうに理解されます。

そのようなことを念頭に、清水副学長はこれから一橋をどういうふうに変えていこうとなさっているのか、きょうの私たちの集まりを意義あらしめるようなお話を伺えるのは大変な幸いであると思います。では清水副学長、よろしくお願いいたします。

   
清 水
副学長

一橋大学の清水でございます。過分な御紹介をいただきまして、恐縮致しております。このように多数お集まり頂きました諸先輩の前でお話しさせて頂く機会を頂きまして、まことに光栄に存じております。皆様の御卒業40周年という記念すべき時にちょうど国立大学法人化ということがありまして、私はたまたまその時期に大学の将来を考える立場になりましたものですから、その一端をお話しさせて頂きたいと思います。また、これからの大学はOBのサポートなくしては立ち行かないという時代になって参りますので、ぜひそのお願い旁々、現状を御説明させて頂き、またいろいろなサジェスチョンを頂きたいと思います。

レジュメをお配り致しましたが、「21世紀 ― 世界に翔たく一橋大学」という、まさに私どもが考えているそのもののテーマをいただきました。法人化全体につきましては9月4日に石学長が説明会を開かれて、今如水会のホームページにも載っておりますので、その大枠の部分は避けまして、私は具体的に、どういう目標に向かって本学がこれから変わっていこうとしているのかということについて、ごくかいつまんでお話をさせていただきたいと思います。



  国立大学法人一橋大学:日本の大学に範を示す世界最高水準の大学へ 

 来年4月から一橋大学は国立大学法人一橋大学という名前になります。端的に言いまして、私たちの目標は「日本の大学に範を示す、世界最高水準の大学へ」というものです。今日の「日経」にも出ておりましたけれども、日本の国立大学はどれも中期目標・中期計画というものを発表しました。国立大学法人一橋大学の基本的な目標は、読ませて頂きますと、「一橋大学は市民社会の学である社会科学の総合大学として、日本におけるリベラルな政治・経済・社会の発展と、その指導的、中核的担い手の育成に貢献してきた。人文科学を含む研究教育の水準は極めて高く、創立以来、国内のみならず国際的に活躍する多くの有為な人材を輩出している。この伝統と実績を踏まえ、21世紀に求められる先端的社会科学の研究教育を積極的に推進し、その世界的拠点として、日本、アジア及び世界に共通する重要課題を理論的、実践的に解決することを目指す。」これが一橋大学の今後の目標です。

 これはちょっと婉曲な言い方をしておりますけれども、要するに世界最高水準の大学になる、ということです。日本最高水準の大学から世界最高水準にということは、ある意味ではとてつもない目標です。中期目標でこういう書き方をしていますのは、数値目標をどこの大学も出していないというふうなコメントが日経にはありましたが、あまりはっきりとしたことを書くと、できなかったときに評価が下って大変だというので、どこの大学もちょっとあいまいな書き方をしておりますが、一橋大学の目標は明確で、世界最高水準の大学になるということです。



  世界の研究教育市場:世界一流大学の進歩、欧米・アジアの動向 

 世界最高水準ということになりますと、世界の研究教育市場ではどういうことが起こっているか。世界の一流大学はどういうことをやっているのか。欧米、アジアはどのようなことになっているのか、が問題となります。つまり優秀な学生を世界から取り合う、そして世界に情報発信をするということです。これは先ほど、とてつもない目標だというふうに申し上げましたけれども、例えばハーバード、MIT、シカゴ、スタンフォード、あるいはケンブリッジ、オックスフォードといった大学と互角に競争しようという目標です。このレベルの大学の水準あるいは歴史、環境などを御存じの方は大勢いらっしゃると思いますが、その水準を知れば知るほど、これが非常に高い目標であることが分かります。しかし、社会科学の総合大学で日本を代表する大学としては、それにチャレンジする責任が私たちにはあるのではないかということがこの目標の背景です。

 世界最高水準の大学といいますのは、先ほど御紹介がありましたが、例えばシカゴ大学やスタンフォード大学などは一橋よりも歴史的には短いのです。シカゴの創立は1890年、スタンフォードは1891年ですから、112年か113年ぐらいしか経っていません。一橋は128年です。その中でシカゴは76人のノーベル賞受賞者を出し、スタンフォードには17人のノーベル賞学者が在籍しています。興味深いのは、このような地位をどのようにして創り上げてきたのかということであります。ケンブリッジやオックスフォード、ハーバードなどは長い歴史がありますから、まだそれよりも違う面を持っておりますし、環境も例えばケンブリッジなどに行きますと、ニュートンのリンゴの木、ダーウィンが住んだ家とかマーシャルやケインズが講義をした教室とか、そういうものがあります。それにどう対抗していくか。しかし最近の研究の最先端ということになると、やはりアメリカということになるでしょう。



  世界市場への道:英語による教育の充実 

 世界を目標にしようということを言った途端に最も問題になるのは言葉であります。英語による講義・コースの充実をしない限り、そもそも国際舞台には立てません。これはこれからの一橋の大きな課題です。しかし、既に神田キャンパスの国際企業戦略研究科で英語だけで講義を行うコースが国立大学で初めて発足いたしておりますので、それを如何に増やしていくか。やはりこれだけ国際化してきますと、英語を共通言語・ツールとして研究教育をする大学に変わることが必要となります。 今言いましたような一流大学は総てそういうふうになっております。インターネットの時代でありますし、日本の大学のすべて、少なくとも社会科学についての一番の弱みは、英語を標準言語としていないということであろうと思います。そうなりますとやはり海外からも、日本語を勉強した上で勉強に来なさいというと、対象者は激減いたします。英語で講義が自由にできるということになると、日本で講義をしたいという優秀な研究者の層も一挙に広がります。そのレベルでまず国際舞台に立ちたいと。来年度から英語による講義・コースを一層増やす計画について教授会で議論を進める予定です。



  圧倒的なアジア研究の成果を生かした研究拠点の形成とアジアの大学との提携戦略 

 一橋が世界の一流大学に伍していくとなると、まず、アジア地域で圧倒的な地位に立つ必要があります。日本は経済的には既に東アジアと一体化しており、アジア全体を一体としてみない限り、日本企業や日本経済の動向を把握できない時代となっています。21世紀を展望して、アジアが世界の成長センターであることに疑いの余地はありません。世界の関心はアジアに集まっています。アジアの発展において日本の果たすべき役割は極めて大きなものがありますが、解決すべき問題も無数にあります。残念ながら、現在の日本は、アジアのリーダーとして期待されている役割を十分に果たしているとは言えない状況にあります。それらの課題に、社会科学の総合大学としての強みを活かして理論的・実践的な解決策を与え、アジア研究の世界的拠点として情報発信をする地位を確立すれば、世界最高水準の大学への道が開けてくるでしょう。アジア研究に関して、世界から最高の人材が本学に馳せ参じて研究教育をするような体制と環境作りがこれからの課題です。

 そこで、9月号の如水会会報と一緒にパンフレットを送らせていただきました小平国際キャンパス内に、アジア研究センターを立ち上げたいと考えております。今は国際共同研究センターと呼んでおりますが、それをアジア研究の拠点にしたい。そこを中心にして、中国の北京とタイのバンコクに海外拠点を設けたいというふうに考えて、来年4月から立ち上げる予定で今準備を進めております。

  そういう内外の拠点を通じて、国際的な一流大学との連携強化。そして、アジア研究ということであれば圧倒的に一橋大学だというレピュテーションを世界の中で確立する。これは既に一橋大学にはアジア研究の非常に長い歴史と他の追随を許さない実績があります。データについても、経済研究所などはアジア研究データの蓄積の拠点になっておりますし、それをいかに大学の力として今後は生かしていくか。それで一流大学、特にアジアの大学との連携強化、そういうことを今は積極的に進めております。

  海外拠点でのセミナーシリーズ、国際コンファレンスの主催、英語による成果出版、著名海外研究者の招聘と共同研究、主要国際コンファレンスにおける本学教官の定期的発表。今後は法人化になりますと、大学運営には執行部が責任を持ってあたり、教官が雑事に煩わされずに研究教育に専念できる環境を整えることが一流大学の条件だろうと思います。研究教育に関しても、教官の業績評価や、これは石学長もお触れになっております、学生による授業評価などがあります。それから、直ちにというわけではありませんが、全国の大学でもテニュア制 の導入やその評価に応じて給与に格差をつける等の制度が導入される方向にあります。世界の一流大学がどういう形でその地位を築き上げたかといいますと、ラフな言い方をすれば、世界から第1級の研究者を招聘しているということがあります。そういうこともこれからは積極的にやっていくことができるようになります。



  世界一流大学の水準を実現するイノベーション 

 ほかの今挙げたような世界の一流大学を見てみますと、その歴史はやはりイノベーションの継続であります。たゆまざるイノベーションです。この間スタンフォード、シカゴに行ってまいりましたけれども、驚くほどの新しい変化をしております。例えば先ほど御紹介がありましたが、私はシカゴ大学のことに一番詳しいのでちょっと御紹介させていただきますと、シカゴ大学というのは1890年にロックフェラーが寄附をして、ゼロから創った大学です。ハーバード大学から総長を含めて非常に優秀な中核的な人たちを引き抜いて、最初から「大学の大学」をつくるのだという非常に強い意志で創った大学でして、当初から大学院大学の確立を目指していました。そして世界で最初に男女共学を取り入れた。そういうコンセプト自体が新しかったということです。今、一橋は大学院大学になっていますから、同じ方向性です。

  それからビジネススクールも、エグゼクティブプログラムとか、今はウイークエンドプログラムとか、バルセロナやシンガポール・キャンパスの設立など、あらゆる新しい試みをやっています。そしてこれはビジネススクール同士の競争でありますが、世界中から最高の人材を集めて、その人たちが太い人脈をつくって、それが国力につながっていっています。これはアメリカのビジネススクールの強みであります。非常に新しいことを常にやっています。例えばMBAにしても、授業が始まる前から、お互いに授業に入ったらディスカッションがしやすいように、学生を1カ月間、教官がつきっきりでいろいろなソーシャル・アクティビティーに連れていって、そしてお互いが仲よくなる環境をつくってやる。そして数学ができていない人たちにはマスキャンプというトレーニングをやったり、ものすごく面倒を見ております。よくここまでやれるというほど、色々なことをやっています。

 例えばハーバード大学などは、オープンキャンパスは当然のこと、いつ来てもよろしいと。そして第6週目には実際に授業を受けられるというふうにして、高校生にアピールしているわけです。そして実際に大学内の寮に泊まるという経験もできる。そこまでやるのか、と唖然とする程です。そのレベルで競争しているのです。このたび如水会からは「母校ITインフラ支援」を頂戴して、10月から一橋のキャンパスの中で学生が無線LANを自由に使えるようになり、デジタル・ワークプレースという、お互いに交流ができるサイバー・スペースを頂戴しました。日本の国立大学では初の画期的なことです。けれども、そういう環境は欧米のトップ大学では当たり前のことになっております。そこで、世界トップの大学に追いついていくにはどうすればよいでしょうか。



  一橋の伝統Captains of Industryの継承と再構築 

 私は大学というのは、普通には出会えない人に会える場所でなければいけないと思いますし、そのためには非常に優秀な人が集まる場所にしなければいけません。優秀な人が集まれば、それだけで何かが生まれてきます。もちろん教える内容には膨大なものがありますが、それだけではないだろうと思います。これは皆さんの方がよく御承知であろうと思いますが、やはり御卒業後40年たたれて、大学の何が一番役に立ったでしょうか。私はこの如水会のグループ自体のつながりというものは何物にもかえがたい財産だろうと思います。私は如水会の担当になりまして、皆さんにいろいろとお目にかからせていただくたびに、あらゆる分野にどなたかがおられる、これは日本が誇るべき膨大な財産だと考えています。

 海外に行って、一橋大学を一言で紹介するときに一番有効なのは、経団連の会長はうちのOBです、如水会の理事長ですと。それから日本商工会議所の会頭、日銀総裁はうちのOBです、こういうことを一言言うだけで、すぐにすべてをわかってもらえます。やはりOBの力、どのような人材を出したかが最終的な大学の評価です。そのためにはどうすればよいか。優秀な人に来てもらって、優秀な人同士が集まれる場所をつくる。4年間過ごすと、おのずからcaptains of industryを指向するようになることが本学の伝統ですが、その伝統をより強固なものにしつつ継承するシステムを作る必要があります。本学の場合、noblesse obligeの精神に裏付けられた「いざ雄飛せん五大洲」の意気込みこそが、産業界のリーダーを生んできたのだろうと思います。

 大学というのは教える内容が中核であることはもちろんですが、それに加えて、やはりある意味では人脈形成の場ですし、それを通じた哲学形成といいますか、人間形成の場でもあります。それを明らかに売りにしているのが欧米のビジネススクールです。ですから、奨学金を出して現地で優秀な学生を選んで、そしてその人たちが来ると、その国の財産になる。そしてその友達同士のネットワークというのが、ビジネスにもはかり知れない影響を与えます。エグゼクティブ教育も非常に重要です。こういう場所が日本にないと、日本の国力にも決定的な影響を与えると思います。そのときに、日本語を勉強した上で来なさいというのでは、ほとんどの優秀な人たちは、日本に特別の関心を持つ人以外、皆欧米の大学へ行くということにならざるを得ません。そこをいかに変えていくか。早急にはできないことも多いわけでありますが、いずれそうなると思います。



  教職員・学生・OB:三位一体の取り組み 

 それをいかに早く実行するか。そのチャンスが今来たというのが、この法人化だろうというふうにとらえております。やるべきことはまだ他にも多数ありますが、何かをやるというときに、教職員だけでは大きな限界があります。というのは大学の「生産物」は学生でありますから、学生自身がその意識を持って育ってくれないことには、教官だけでは空回りすることになります。教職員が最高の研究業績を上げるから優秀な学生が集まってくるというのはもちろんです。そこで刺激を受けて、学生が一層成長します。また、あの先輩のようになりたいという尊敬するOBの存在が学生の目標になります。OBは学生が自らの将来を予想する際の最適予測値です。

 さらに、これからの大学にとって不可欠なのは別の面のOBの力であります。これからの法人化というのは結局のところ、国がお金をあまり出さなくても、外部から資金を調達してきて、そして大学が自由度を発揮してやる活動を通じて、研究教育をより効率的にするためのシステムです。ですから、今のところまだ6年間は保障されますけれども、恐らく運営費交付金というのは将来的には減っていく可能性があります。



  新規事業に不可欠な外部資金調達 

 もっと先を眺めますと、私立大学とどういう違いが出てくるのか、という問題があります。これは私立大学に近づいていく方向にある流れであることは明らかです。先ほど申しました世界第一級の人材を招聘するとか、優秀な学生を採用する、またすばらしい研究教育環境を整えて世界からいろいろな人たちが喜んで来てくれる環境をつくるなど、やはり新しいことをしようと思うと必ず資金が要ります。それは国からは来ません。国はある特定の大学だけが特に有利になる新しい活動をする予算を付けると不公平になりますから、原則的にそういうことは厳しく審査します。たとえ出来るとしても、概算要求の過程で長い時間と労力を掛けて認可をもらう必要があり、それが大学の活力を削いでいた大きな原因です。税金を使うわけですから、ある意味では当然のことでもあります。ですから、みずから調達した外部資金を持っていないところは、新しい活動が出来ず競争から脱落していくことがはっきりとしております。

 この点で諸外国を見ますと、ハーバード大学は2兆2千億円もの基金を持っていますし、ケンブリッジ大学などは英国の女王に次ぐ地主だと言われております。それだけの非常に潤沢な資金を運用しています。アメリカで最も多くの資金を集めている大学では年間500億円ぐらいの募金を集めております。それを使っていろいろな整備をして、そして人材も集めてくるものですから、圧倒的な競争力を持つようになります。ですから、新規事業には外部資金調達が不可欠であります。そこにOBのご支援をどれだけいただけるかというのは決定的なことです。



  母校に名を残す文化:Naming Right 

 それはただの支援というわけではありません。もちろん、大学の活動や研究成果が外部に高く評価されて初めて支援も可能となるわけですから、産学連携活動を通じて、社会に高く評価される問題解決策を着実に提供してゆくことが本質です。その上で、アメリカなどにあるのは「母校に名を残す文化」とでも言いましょうか、フィランソロピーの伝統です。ネーミング・ライトということが最近出てきておりますけれども、要するに人生で何を目標に生きていくかというときに、何かに成功して母校に名を残すだけの寄附ができるような仕事をしたということにまさる名誉はないという、そういう文化がやはり欧米にはあると思います。母校に名を残す文化、その名を残すに値する大学になること、本学の目標をそう言い換えてもよいでしょう。そこで、法人化後は、本格的に母校に名を残せるような形か可能になります。部屋に名前をつけるとか、いろいろな考え方があるわけです。建物も、まさに兼松講堂などはその例であります。兼松房治郎翁は一橋の卒業生ではありませんが、本学の象徴である歴史的建造物を寄附されました。実際には、お亡くなりになった後、そのご遺志を継がれた奥様がご寄付なさったようです。そして今度は10億円の寄附を皆様からいただいて、兼松講堂は更に100年の命を得たわけです。そこに今度はプレートをつけて、この寄附をいただいた結果、この改修が成ったということを書き残す予定です。今度改修後は、国立で定期的に音楽祭をやろうかということを国立音楽大学や桐朋音楽大学と協議いたしております。ほかの地域、ほかの大学にはできない、新しいことをどんどんやっていきたいと考えております。

 余談になりますが、一橋大学はもともと江戸町民のフィランソロピーのお陰で今日があるといってもよいのです。幕末の時代黒船が来たときに、江戸幕府は将来の危機到来時に備えて江戸町民に貯蓄を奨励し、それが江戸町会費として積み立てられ、かなりの金額になっていました。しかし、江戸幕府の崩壊によってそれが宙に浮き、明治政府になってからは東京商工会議所がそれを管理していました。東京高等商業学校が設立後資金難に陥って存続の危機に直面したとき、その事情を知っていた人が、会頭である渋沢栄一に学校存続のためにその資金を利用させてもらうよう依頼したのです。その当時から、日本には「ビズネススクール」が必要だと考えていた渋沢栄一が本学に関わりを持つようになったきっかけはこのときにあります。いわば本学は江戸町民が日本の将来を思って蓄えたなけなしのお金のお陰でその後存続して、日本経済の発展に貢献する人材を輩出してきたわけです。



10

  進行中の諸施策 

■キャンパス整備
お渡ししましたレジュメにいろいろと書いております動きについて、今回は時間がありませんのであまりお話ができませんが、進行中の施策としては、まずキャンパス整備があります。大学図書館として常にトップの評価を受けている附属図書館は全面改修されて、100万冊という日本最大の開架図書を持つ学習図書館ができておりますし、国立の東キャンパスは教養教育のための一大拠点として整備され、小平には国際交流拠点として小平国際キャンパスが完工しました。これでかねてよりの計画であった「創造の杜」構想が、日本における社会科学の国際大学村として実現し、創立120周年記念として皆様からご寄付頂いた小平の如水スポーツプラザは、その中核施設の一つとして一層有効に活用されることになります。

 それから今は建設中ですが、来年4月には大学院の総合研究教育棟、国立東キャンパスに3階建てと7階建てのツインタワーで1万4,000平米の大学院専用の研究教育棟が完成いたします。3階建ての方はすべて院生研究室で、7階建ての方が大学院の研究教育に使われます。これがができますと、数年前に比べて、一橋大学の建物の総床面積は2倍以上になります。それだけ大きなキャンパス整備が進んでおります。その中の2フロアを使ってロースクールを立ち上げることになっておりまして、法廷教室も備えた日本で最も恵まれた施設を持つロースクールとなります。一番上には富士見ルームという富士山が見える部屋をつくりまして、OBの皆様にも来ていただけるような環境をつくりたいと考えております。

■COE
 それから、21世紀COEプログラムについては今年度3件採択されたことは御存じのとおりです。昨年はCOEに採択されなかったというようなお叱りをよく受けるわけでありますが、それは科学研究費補助金の一部でありまして、科学研究費補助金だけをとってみますと、金額は理科系ではありませんから小さいわけでありますが、採択率は理科系を含めて全大学中で一橋大学がトップです。こういう資金を利用した研究活動を精力的に進めております。

■産学連携活動
 産学連携活動も、丸の内の商学研究科産学連携センターを利用した産学官共同研究会などを含めて、それぞれの部局で積極的に始めています。

国際交流活動
 国際交流に関しましては、現在オックスフォード大学やシカゴ大学、MITなどを始めとして、大学間・部局間で学術交流協定を締結している協定校が64大学あり、学生交流協定を結んでいる大学が24大学あります。各研究科や各分野で主催する国際コンファレンスは年間十数回開催されていますし、教官個人が海外からの研究者を招聘して開催する国際交流セミナーは、年間80回ほど行われています。

海外著名人による講演会
 
また海外著名人による講演会を最近は積極的にやっております。例えば去年お呼びしたのはシカゴ大学のゲーリー・ベッカー教授です。ご覧いただいているのはノーベル賞のメダルを持っている写真でありますが、彼は文部科学省の制度に基づいて、初の海外アドバイザーとして来学され、小平にも来ていただいて、どのように本学を運営して競争力をつけていくかというアドバイスをいただいたりいたしました。彼に「知的資本・知識と現代経済」というテーマで非常にすばらしい講演をしていただいて、その流れに沿ったことを推進していこうと考えております。

 それから今年の5月にはアメリカのフェデラル・リザーブ、連邦準備銀行の現職理事のベン・バーナンケ氏をお呼びしました。彼はデフレ・ファイターと言われており、従来の日本の金融政策に対して批判的なわけですが、新しい具体的な政策提言を行いました。現職のFRBの理事が日本の大学で講演をしたということは初めてです。こういう人たちにもどんどん来ていただいて、講演会をやっていきます。ついでながらこの写真は、FRBのグリーンスパン議長などがこのテーブルで金融政策を決定する連邦準備銀行の会議室です。

 来月にはウイリアム・ニスカネン氏を呼ぶ予定です。ニスカネン氏はブッシュ政権の有力シンクタンクの1つでワシントンにあるCATO研究所のチェアマンでして、レーガン大統領経済諮問委員会のアクティング・チェアマンであった彼が、来月の11月10日に大学に来て講演をします。都内でもそれぞれ経団連と野村証券と共催の講演会を別途開催いたしますので、御関心のある方々はおいでいただければと考えております。それから来年はさらにもう1人、財政学のノーベル賞のジェームス・ブキャナン教授をお呼びすることにいたしております。こういう方々に続々と来ていただいて、一橋大学をよりよく知ってもらい、また学生・院生たちにそういう人たちに接するチャンスを与えたいと考えています。



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  法人化後の諸活動 

一橋大学広報誌の創刊など
 それから9月号の如水会報と一緒に一橋大学広報誌Hitotsubashi Quarterlyの創刊号を皆様にお配りしましたので御承知だと思いますが、これを年に4回出しまして、一橋大学が持っているものを訴えていこうということで広報活動を活発化させております。今はもう1つ、如水会会報の中にある「母校キャンパス便り」にどうも情報がないというお叱りを受けておりまして、この欄を大学が直接執筆するように改革して、皆様への情報提供の機会をふやしていこうと考えております。

元留学生海外OB組織の強化
 如水会の体制と関係いたしますが、今非常に力を入れてやろうとしている海外拠点整備の目的の一つは、海外にいるOBの組織化であります。海外といいましても、今留学生が500人近く来ております。既に学位を持って帰った人たちが、特に中国とかタイとかのアジアにはもう何十人と育ってきています。その人たちが社会の中核あるいは政策決定の中心を担うようになってきております。ところが海外の如水会は、どちらかというと日本人だけが集まる形になっておりまして、その人たちの力が必ずしも如水会の力として生きておりません。如水会に入っていない人たちが多いわけです。それをいかにこれから組織化して、大学の力に結びつけていくかということを、今積極的に如水会とも連携しながら進めていきたいというふうに考えております。世界に61の支部がございますが、そういう形で如水会の支部が活動できるようになれば、一橋大学の世界に対するプレゼンスは一挙に拡大するのではないかと思います。その意味でも如水会との連携が極めて重要なことであると考えています。

英語による講義の増加・コースの新設
 2004年からは、先ほど申しました英語による講義の増加・コースの新設を致します。

リーディング・パケット、図書館リザーブルームの整備
 それからリーディング・パケット、図書館リザーブルームの整備というのは、図書館に幾ら本があっても、試験のときに1冊だれかが借りていたらだれも読めないというような環境ではなくて、必要な本は一流の大学ではすべて何部もそろえてあって、試験の前になると、時間制にして、それを必ずコピーして全員が読めるような、そういうリザーブルームというのがあります。あるいは既に、読まなければいけないものは総てパケットになって、印刷されてパッケージになって売っている、それだけを読めばよろしい。それをやるには著作権の問題とかがいろいろとあるわけですが、一々交渉してそういうものを用意するというところをやっているのがスタンダードになっておりまして、そういうところまで当然やらなければいけないだろうと思います。

事務組織改革
 また、事務組織改革、学長室の新設、各種委員会を整理統合など、教官の研究教育専念体制をつくろうという目的で、今いろいろとやっているところでございます。

兼松講堂改修:文化情報発信拠点としての活用
  それから先ほど申しました兼松講堂改修後は、これを西東京地域の音楽ホールとしても活用していく計画です。冷暖房が完備し音響効果も一層向上しますから、大幅に使いやすくなります。

留学生現地選考制度:優秀な留学生選抜制度の確立
  海外拠点ができれば、留学生の現地選考制度も導入しやすくなります。せっかく頂戴している如水会の留学生支援資金というものも、来た学生の中から抽選で渡すのではなくて、選ばれて来たらこれだけの奨学金が与えられるということをあらかじめ明示して、優秀な学生を募集する一助にする必要があります。これは世界水準の大学では当然のこととなっています。それに加えて、小平国際キャンパスに784室の留学生用の部屋ができましたので、それをうまく活用すれば、事実上多額の奨学金を与えたことになるわけです。これは非常に大きな大学の資産をいただいたわけでして、大きく発展する基礎として小平国際キャンパスの有効利用はこれからの本学の重要な戦略です。その中核がアジア研究センターで、そこを中心にして世界への情報発信を行っていきたいと考えています。そして世界の最も優秀な人たちがそこに滞在して、教官や学生・院生とさまざまな共同研究をする。そういうインフラが整備された環境を活用していくということであります。これは研究者だけではなくて、実業界の人々にも海外からそこに来てもらって産学連携の研究会をやるとか、あるいは産業界同士の連携の橋渡しを大学ができれば、もっと新しく大きな、他の大学にできない貢献ができるのではないかと考えております。

如水会との連携強化による国際的産官学連携活動
 一橋大学でなければできないことを積極的に進めていこうと考えておりまして、その一つが如水会との連携による国際的産官学連携活動です。これは、この38年卒の方々から積極的に御支援をお申し出いただいているプロジェクトでもあります。例えば中国に日本の経団連に相当する組織があります。そこに所属している人々が、日本に来てぜひいろいろと研修をしたいと。いろいろな企業も訪問したいし、いろいろなビジネスニーズを持っていたらどこに行けばいいか、そういうことのつながりをつけてほしいというニーズがあります。それが一橋大学に話がまず来ておりまして、来月に中国企業連合トップの訪問団が本学に来られることになっています。しかし大学だけ、研究者だけでそれを受けるには困難な面がありますので、如水会の力をお借りしてそれを受けるシステムをつくることができたら、これは一橋大学として、あるいは日本としても非常に大きな力になるのではないかと考えております。

 そういう形を通じて如水会の組織強化と母校との連携も図ることができますし、さらにこういう情報は、中国に帰った卒業生のグループ、強い人脈を政府と持っている人たちから来ている話であります。中国には多くの地方都市がありますが、そこの市長、副市長は何千人といるわけです。そういう人たちを順次日本に送って再教育をする、そういうようなプロセスに一橋大学がどのように貢献できるかというお話もあります。それができれば、日本との相互理解や人的関連を持つ意味でも非常に大きな貢献ができる可能性があります。しかし大学だけではなかなか対応し切れない面があります。今は、研究教育に専念して業績や授業を評価をされて、一生懸命に本来の仕事に集中しようとしている教官にとって、より幅広いそういう教育もやるということになりますと勢力が分散いたします。しかし、学内での研究教育だけに閉じこもっていたのでは、象牙の塔になってしまいます。それをいかにOB会を含めた大学の組織全体で受けていくことができるか、という課題があります。

 これは我々にとって大きなチャレンジでありますけれども、こういうことは世界の一流大学は非常にうまくやっているわけです。短期的なプログラム、夏の3カ月のプログラム、あるいはウイークエンドプログラム、海外から人を呼んだプログラム。ハーバード大学などでは、そういう人たちはその国に帰ったら皆トップであります。そういう人たちに非常にインテンシブな教育をして、そうすると、みんながその大学のファンになって帰っていって、そういう人たちが実際に非常に大きなドネーションをしてくれて、大学の組織基盤がますます強化されるというようなシステムができ上がっています。それをこれからいかにつくっていくか、ということです。

一橋大学基金の創設:OBによる顧問制度の導入
 そのためにはやはり最初に今何をするか、何に集中投資をするかというのが非常に重要な時期に来ております。今学長と共にお願いしておりますのは、後援会に10億円の資金がございまして、基金がたまっています。今まで後援会というのは、一橋大学は国立でお金を直接受けることができなかったために、その受け皿として非常に大きな役割を果たしていただいたわけですが、これからは直接受けることができる。それを今最も有効な目的に有効に使うことができれば、圧倒的な格差がつくのではないか。それだけの資金を持っている国立大学はそうそうないと思います。それを今お願いしております。

 それ以外にも一橋大学基金というのを創設していこうと考えております。それはいきなりハーバード大学のように1兆円というわけにはいきませんが、日本の大学は慶應、早稲田ぐらいで300-400億円ぐらいの基金を持っているようであります。これを幾らぐらいにするか。20年間で50億ぐらいは集めたい。石学長は先の講演会で100億円と申されましたが、より現実的にということで、50億円という話になっています。それでは私は少な過ぎると思いますが、いずれにせよ何億円かが定常的に入ってきて積み上がっていくというシステムをつくっていく必要があると思います。

Captains Club構想
 その1つとして、母校支援組織としてのCaptains Clubを設立しようという構想があります。これは本学卒業生に対してより密度の高い情報発信を行い、本学の目標、活動状況、環境変化、今後の課題等についての理解を深めていただくとともに、卒業生支援や生涯教育を通じた連携強化を図り、如水会の組織強化、並びに卒業生に対する母校からの支援体制を強化し、併せて母校への支援をお願いして、本学を世界最高水準の大学とするための一助とするという趣旨であります。そこに来年度から、1口1万円と書いてありますが、これにはいろいろと議論があります。ちょっと安過ぎるのではないかという意見もあって、2万円でなければコスト割れするのではないかとか、その辺の御意見をぜひ伺わせていただきたいと思います。いずれにしろCaptains Clubに入ると会員サービスとして、例えば、図書館の本を申し込めば宅配サービスで取り寄せて自由に読めるとか、いろいろな学外の電子ジャーナルにアクセスできるとか、その他、今はどのような形の特典が提供できるかを検討しております。その中核の1つが先般お届けしました広報誌「HQ」であります。それを年に4回送付することも含めまして、OBの方々と大学の交流をもっと密接にしていきたいということを計画しています。

 12月にアンケート調査を実施する予定でおりますので、ぜひ御協力いただきたいと思います。これは今までの如水会のままですと、例えば短期に在籍した人は如水会員になれなかったり、教官でも、教官でいる間は如水会員でありますが、やめて名誉教授にならないと如水会員から外れてしまいます。これでは母体が広がりませんし、海外から短期に来た人々も、新しいクラブに入って大学のファンになって、支援体制になっていただけるというグループを創ってゆきたいと思っています。

 最近では如水会員にならない卒業生も増えておりまして、本年は卒業生の如水会入会率が50%を下回りました。その対応策はいろいろ検討中ですが、Captains Clubは如水会組織強化策の一環として重要な役割を果たせると考えております。また、特に地方や海外在住のOBの間には大学からの情報提供を望む声が大きくなっております。実際、今までは大学としてOBに対して、直接何かのサービスや情報を提供するということをやってこなかったという面が非常にあると思います。例えばこのような会も、アメリカでは何年かごとにリユニオンというようなことで大学が主催してやっております。そういうことをこれからは積極的に考えて、是非とも如水会とのパイプを太くして、そして大学とより一体化してOB会組織を強化し、またサポートしていただきながら、OBの誇りとなる世界最高水準の大学をつくるという目標に向かって今後やって行きたい。そのためのサポートをいただければというのが、ここでのお願いであります。

 時間が短くて、かいつまんだお話しかできませんでしたが、今後の一橋大学の発展のために、ぜひ御支援をよろしくお願いしたいと思います。ご静聴ありがとうございました。



司 会

清水副学長、ありがとうございました。私たち38年会の人間は、金のある者は金を出し、知恵のある者は知恵を出す、そして知恵も金もない者は汗を出すということで、21世紀、世界に翔たく一橋大学を一生懸命に支えていきたいと思います。どうも本日はありがとうございました。

   
 
― 了 ―

(文責G組幹事 井爪 輝明)


(註) アメリカの大学のtenure制度について
 「(大学教師などの)終身的地位」(EXCEED英和辞典)とされるこの制度は、アメリカの悪名高い「赤狩り」、所謂マッカーシー旋風の吹き荒れた後に導入された、大学における学問・思想の自由を担保するための措置で、他の職種にはない大学教授特有の制度と理解される。教員の任期制について、アメリカの多くの大学では助教授には通常3〜5年の任期が付される。これは研究者・教育者としての能力が、博士号取得の時点では未知数だからであるとされる。任期期間中に、教育・研究面で相応の業績をあげたと大学より認定された者は、終身被雇用権(テニュアー)のある(任期のつかない)准教授または正教授に任命される。日本でも国立大学などの独立行政法人に移行後の教師の地位に関し、学問・思想の自由を守るテニュアー制度の導入が検討されることとなろう。