6組  大野 晴里

 

 《西暦二〇〇一年、三月三十一日(土)
当日の集合者で現実との差異を検討することとしたい。》

 一九一八年、この世に生を享けてから六年、一七年、五年、三十四年、と夫々に幼時期、学業一筋期、軍務精励期、社界家庭人期と合計六二年、一九八一年に商大卒業四十周年の行事があった。

 今吾々は卒業六十周年行事の準備に忙しい。昨年一九世紀最后のオリンピックも終り、新世紀の第一年でもあるので、世界中で諸々の行事が行なわれている。

 吾々一同、齢すでに耳順、従心をすぎ孔子も決めてくれなかった年代に到達し、卒業還歴年ともなるので十二月クラブの会名を変更しようかと云う意見も出ていた。そんな時、幹事長から連絡が来た。
 六十周年記念行事の準備会を開き度いとの事である。

一、 日時 二〇〇一年三月三十一日(土)
一、 場所 浜名湖 オテル・デ・ジャポン
一、 会費 百円也( 千分の一デノミ)
一、 議題 
   1 記念行事の件
   2 会名の件
   3 基金の件

 当日は足腰のたつ殆ど全員が集って来た。末だ現役を務める怪物も二、三いたが、其の他は自分の時間を十二分にもつ自適の好人物揃ひ、各々夫人や娘、孫などを引きつれての泊り込みで各自勝手な事をしている。
 其の合間に会合が持たれて、次のような事が討議決定された。

一、 記念行事の件 
 学校に集合の上、若い教授から「世界史」の講議をうける。

一、 会名の件 
 論語の教えを超えたので、老子の説、自然に従うの意味の「虚無」を加え十二月クラブ虚無の会とする。

一、基金の件 
 会計の引き受けてがなく、病気見舞と旅行の費用として全額を使い切る。

                            以上

 世の中極めて平穏で、オーストリアとハンガリーの間で始まった東西の自由往来が遂に世界中に広まり、科学技術の異状なまでの進歩が国境を仕切ることを事実上困難にして仕舞った。人々の智恵は、国家間の一握りの人による契約の枠を超え、哲学、価値観の見直しと、宗教への回帰が人々の心を深くとらえる関心事となって来ている。

 も早、個人の超複雑で且つ極めて多様な二ーズに対応する為には、一元的な計画経済の手段では間に合はず、東西文化の高度な交流は人々をしてクラシックなものを求めるキッカケとなって現れた。
 科学技術の進歩は来年どんなものが出現するかさえ予測出来ず、軍備は省力化、省人化の傾向を強め、国内の治安を維持する為の警察的兵器と、国家の威厳を示す為の飾り的要素の方が多くなって来ている。先進国の間では、経済、社界の仕組に東西の言葉がなくなって仕舞った。
 いつの会合でもそうだが、会議よりもその前後に於ける同期の気楽さが集って来た最大の楽しみでもあり、雑談は一層の楽しみを添えてくれる。雑談を少々拾って見ると……

「この頃はTVを見てくらす時間が多くなったよ」
「世界中のどの国のTVでも見られることは居ながらにして旅行しているようなもんだ」
「お蔭で頭がフレッシュになるよ、何しろ方々の言葉を自然に覚えさせられるから」
「昔は語学などと云ったから、解らなかったんだな、言葉は言葉だ、学問じゃないよ」
「始めに言葉ありきか」
「去年のオリンピックは面白かったな」
「ああ、あの機械のオリンピックか」
「各国戦車の五種競争は良かったね、日本の戦車は水上競争は弱かったが、陸上のスピードと、回転、そして走り乍らの射撃は抜群の味があるね」
「又競争の場所が良かった、タクラマカン砂漠だから」
「太平洋上の軍艦レースも仲々だよ」
「大掛りなレースの中での司令なしの作戦など画面を面白く構成していて成功だね」
「戦闘機の空中戦の勝負、ルールがあると云へども圧巻だ」
「舞台は広いし、スピードがマッハ三だから写し方も進歩したものだ」
「この間月旅行に出掛けた連中の報告の時間だぞ」

 固形ワインをしゃぶりながら、話がはずむ、遺伝子の組替えなどで、地球上から飢えをなくすことは出来たが、面積には限りがある。
 国連総会の最重要議題は「人口問題」一本に絞られている。
 人がより快適な生活を送る為の各国各地域への人口の割りふりが極めて重要なことは当然である。生産の単純作業はすべて産業ロボットが人の労働に代っているので、よりよい遺伝子を残す為の優性法が、国際法として各国の国内法よりも優先するなどの討議が国連でにぎやかである。
 それから、それからと涯しなく話題が続いて行く。
 ・・・・先がつまって来たので毎週会を開くことにした。

 




卒業25周年記念アルバムより