7組 伊奈 重煕 |
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。……」 これは川端康成の名作「雪国」の書き出しであるが、私の住む新潟県に対する一般の人々のイメージはどんなものだろうか。やはり雪国のイメージ、それとも日本海の荒波、流刑の島佐渡、日本一の穀倉地帯……。あまり明るいイメージが湧いてこないというのが大方だろう。 しかし、新潟県も「地方の時代」の潮流の中で変貌を遂げようとしており、薄暗いイメージも過去のものとなる日も遠くない。 高度成長から低成長への経済基調の変化の中で、集中のメリットが薄れ、むしろ大都市集中の弊害が目立つようになったこと、あるいは経済の成熟化につれ経済的豊かさよりも精神的豊かさを重視するという価値観の変化等を背景に、「地方の時代」の声が高まってきた。 人々の目が地方に注がれ、「地方の時代」の主張が高まること自体は、地方に住む者にとって喜こばしいことであるが、「地方の時代」という言葉やムードに踊らされることなく、地方の時代は地方の人々の自律的意思に基づいて構築していかなければならないことを強く自覚していく必要がある。 地方の経済研究機関にいて「地方の時代」との関連で日頃感ずることは、中央からの発想ではなく、地方からの発想の必要性である。最近「中央のシンクタンクに地域関連の調査委託をしてもあまり役立たない」ということをよく耳にする。中央からの一元的な見方、発想では地域の問題に適確に対応出来にくくなってきているのである。 今後「地方の時代」を掛声だけに終らせず、真に地方のための時代を切り開いていくためには、産業の振興、就業機会の確保、交通体系の整備、豊かな自然との調和等勿論必要であろうが、最も大切なものは、人材の育成、確保であろう。そのためには、まず高等教育機関の充実が必要であり、優秀な人材を地域の中で育てていく必要があろう。 幸い私の住む新潟県では、長岡技術科学大学、上越教育大学、国際大学など特色のある大学が相次いで開校(予定)されていることは、将来に明るい希望を抱かせる。優秀な人材の定着を土台に新しい時代を切り開き、次の五十周年、六十周年の頃には、「トンネルを抜けると豊かな自然と産業、文化がみごとに調和し、希望にあふれた世界が広がっていた」という新潟県に変貌していることを期待したい。 |
卒業25周年記念アルバムより |