キャプテン・オブ・インダストリー

キャプテン・オブ・インダストリーという言葉は一橋大学の校是(catch word)とでもいうべきものであり、
何時の時代でも、それはその字義どおりに用いられて差し支えないと思われるが、
その源義を知ることも有益と思う。
 
「キャプテン・オブ・インダストリー」
引用の原典は T.Carlyle,1843Past and Presentである。
                                            (一橋大学図書館所蔵本写真・Click)

http://en.wikipedia.org/wiki/Thomas_Carlyle

Thomas Carlyleの肖像画 は 画家 James McNeill Whistler(1834−1903)により1873年
《Arrangement in Grey and Black, No2: Thomas Carlyle》と題して、美しく描かれている。
下記のURLから辿って Picture from Image Galleries;の項、Tigertail Virtual Museum
Portraits Gallery に外の2葉の肖像画とならべて収められており、クリックすると大きく見せてくれる。 
http://www.ibiblio.org/wm/paint/auth/whistler/i/carlyle.jpg
http://www.artcyclopedia.com/artists/whistler_james_mcneill.htm

同時代にはジョージ・エリオット、エマソン、トマス・ハーディー、ディッケンスなどがいて、ディッケンズの
友人としてカーライルもいる。この人々のリストの中から、カーライル夫妻(写真)をたどることができる。
Thomas Carlyle 1795−1881
Jane Welsh Carlyle 1801−1866
http://www2.cruzio.com/~varese/dickens/gallery.html

カーライルの研究は、例えば日本の鴎外や漱石の研究のようにさかんである。
The Carlyle Society が詳細なホームページを作っている。
http://ourworld.compuserve.com/homepages/malcolmi/carlylea.htm

夏目漱石の随筆に「カーライル博物館」がある。(クリック)

Carlyle,T.,  ” Chartism,1839 ”
Carlyle,T.,  ” Past and Present,1843 (クリック・写真)
上記カーライルの著書は一橋大学図書館に所蔵されている。
予言者的な言説をする思想家カーライルには衣服哲学、フランス革命、
英雄および英雄崇拝論などの著書がある。
 
カーライル研究のなかには  Past and Present : Epic as Action と題する ノートルダム大
ヴァンデンボッシュ教授の論評がある。
Captains of industry not only turn wasteland into fertile pasture, but may force
others to join them in the task.
As Carlyle’s metaphors make clear,he conceives of the captains of industry primarily
as military captains fighting ”one true war” against social ”anarchy”. ---------
The captain is a ”Brave Sea-captain” like Christopher Columbus who ”sternly represses”
his mutinous crew in order to discover an idyllic America---------------------
---the Puritan general Oliver Cromwell,whom Carlyle was to call ”a strong great Captain”
http://www.victorianweb.org/carlyle/vandenbossche/4f.html

『十九世紀の哲人トーマス・カーライルはキャプテン・オフ・インダストリーに夢を托し、
封建時代の戦士のごとく資本主義下の実業家が階級闘争の路を打破すると信じた。
いわば実業的封建時代を信じた。     noble chivalry 高潔な騎士道
また古典派経済学者として最後の締め括りをしたジョン・スチェアート・ミルは労働者
の自治協同による生産組合の勝利を信じ産業的民主制の必然性を信じたのであるが、
カーライルと共にその理想は達成されなかった。

資本主義の途は険しいが力倆のある企業家が出てきて隘路を切り開いた。
労働者も過去における煽動と雷同の失敗を反省し、次第に自治協同の途を歩んだのである。

上田先生の語を借れば「英国における百五十年の歴史から学びうるところもまたこれにほかならぬ」のである。』
 
以上は上田貞次郎先生(1879〜1940)の『英国産業革命史論』1922 を猪谷善一先生が解説したものの一部である。上田 貞次郎 先生

カーライルのキャプテン・オブ・インダストリーの背景は上田貞次郎先生の「英国産業革命史論」に詳細に記されている。

「英国産業革命史論」 より抜粋
第1章 産業革命
    産業革命の史的評価 / 産業革命発声の素地 / 紡績機の発明改良 / 蒸気機関の応用 / 合理思想と分業
    資本主義と階層分化
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 英国は十六世紀以来植民地を有し、海外貿易を行っていたので、その方面において巨利を収め、富は王侯を凌ぐというような大商人が輩出して、いくぶん旧来の貴族郷紳と対立していたけれども、その数はまだ少なかった。産業革命時代には微賎から起って独力奮闘の結果、いわゆるキャプテン・オブ・インダストリー、「実業の将帥」 になった人が数多く現れた。これらの人は実に英国の商工業をして世界の覇権を握らしめたとともに、人間の力をもって天然を征服するところの大事業に貢献したところの英雄である。  
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第2章 自由主義
   議会政治の実態 / 郷紳の誕生 / 国権主義とその経済的基盤 / 自由主義思潮の台頭 /
   功利主義と自由放任主義 / 自由主義と保守主義の対峙
第3章 労働生活
   英国経済繁栄の表裏 / エンクロージュア / 農民救済策の影響 / 手機職人の実状 /
   手機職人と工業労働者 / 労働生活の窮状 / 労働者階級の二極化 / 
第4章 階級闘争
   初期の労働運動 / フランシス・プレースの社会改革 / ロバ−ト・オーウェンの試み /チャーティスト運動 /
   運動の過激化 / 運動衰微の要因 / 
第5章 温情と自主
   社会改革の声 / 穀法撤廃の沿革 / 工場法制定に至る経緯 / アシュレー卿の社会政策と理念 / 
   J・S・ミルの主張 / グラッドストンとコブデン / 
第6章 組合精神
   経済情勢の変化と労働思想界 / 組合精神と自由思想 / 協同組合 / 友愛組合 / 労働組合の歴史 /
   自助主義の限界 / 
第7章 社会主義
   国際経済と英国思想界 / 新組合運動 / 労働党の設立 / 社会政策の充実 / 社会民主同盟の役割 /
   フェビアン協会と国家社会主義
第八章 産業管理
   産業管理の理念 / 欧州大戦の影響 / サンディカリズム / ギルド・ソシアリズム / 新組合主義の趨勢
第9章 企業と労働
   協同組合の前途 / 資本公営化の限界 / 資本主義の抑制均衡 / 株式会社組織の長所と短所 /
   独占と経済政策 / 

   カーラィル、ミル、マルクスの予見
翻って資本的企業の勃興時代における学者思想家の考察を求むるに、まずカーライル(Thomas Carlyle,1795〜1881)およぴミル(J.S.Mill,1806〜1873)の二人を代表者として挙げることができる。
カーライルは保守的社会観をもった人ですべてデモクラシーというものに信用を置かなつた。
世の中は盲千人であるから必ずこれを率いるところの貴族、英確または哲人がなければならぬ。昔は武人大名が百姓万民を治めたが、今は実業家が多くの労働者を使用するから、実業家が人民の上に立って社会を治めなければならぬ。すペて多数の人をして一事をなすために協力せしむるには組織を立つることを要するがその組織を立つるものは実業の将帥(Captain of industry)たる有為の人材のみ独りこれを能くする。しかしその人材はただ自由放任主義の下に自己の金庫を満たすことを能事とするものであってはならぬ。彼は生産費の安きものを作り出すとともにまたその生産物を公正に分配することをもってその職分としなければならぬ。需要供給の原則はけっして公正なる秩序を生ずるものでない。「実業の将帥」(Captain of industry)はその指揮者たる人格をもって労働者を心服せしめ、労働者はその高尚なる指揮の下に進退すペきである。
要するにカーライルは大企業の到来を必然なりとし、しかもそのうえに実業的封建制度を築いて一世の混乱を救うペしとしたのである。(Past and Present,1843)
 しかるにミルはこれと正反対の見解を抱き、労働者は自主独立の精神を完成するによってのみ社会を改造することができると考えた。
 彼に従えばカーライルの望むごとき温情主義は理想としてりっぱであるけれども、古来富と権力とを有するものが、これを社会の公益のために用いた例ははなはだ少なく--------(Pringiples of Political Economy)
   
    / 労使協調の新機軸 / 社会運動発展の条件
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2002年12月    5組 山崎坦 名を惜しむ:私の勧める現代史書