天意は夕陽を重んじ、人間は晩晴を貴ぶ 7組 兼子春三

 

 旧制東京商大(養成所3年本科3年9ケ月)の生活を終え昭和16年卒業して2001年に60年を経ました。ここまで生を享受することに対し、運命の女神に花束を捧げなければならない。まず妻に万斛の涙をもって頭を下げ感謝の礼を申さねばなりません。父母の恩・十二月クラブの皆様の恩、一橋大・国家の恩等有難くお礼を申しあげます。座右には、仏教典・バイブルを置き時々拝唱しております。

 法政大19年勤め(その前に高千穂商大新制大創設、埼玉大学10年国学院大5年を経て)、定年になり、信州短大5年と専門と大学院大学を探しつつ移動しました。短大学長のとき地元奉仕を考え佐久ロータリー・クラブに入会金・会費・寄付金を拠出して入会しました。信州短大に75才で別れを告げ、川崎市麻生区の家に戻りました。そこで第2の故里に奉仕せんとして、新百合が丘ロータリークラブに入会しました。ここでも入会金・会費の他、ポール・ハリス・フェローシップ(メダルを貰う)。それから奨学金に寄付をしたことにより米山ファンド・フェロー証を受けました。また、一橋大・法政大とも100年祭120年祭に際会できましたことは長寿のお蔭と感謝しております。これ等とともに、学徒出陣戦没者慰霊塔建立や「きけわだつみの会の集い」等に些少ながら協力して参りました。わたくしは、約30年間渋沢青渕記念財団竜門社に属し、投句などしてきましたが、幸い渋沢栄一翁を第1号とする寿杖の1790号を贈られました。

 わたくし健康を保ち、未だ三学会に籍を置き哲学者、スロモウスキーを研究し、座右に宗教教典を置き、時折拝誦しております。なお、俳句会、老人体操友の会などに入って余生を楽しんでおります。皆様のご厚意を感謝しております。有難とうございます。


俳 句

 渋沢栄一翁の遺徳を偲び「渋沢青淵記念財団」が設立され、竜門社と称されています。そして機関誌「青淵」が発行されています。わたくしは昭和63年11月より入会し、同誌を購読するようになりました。また、韓退之の「勧学之書」が翁の書となっていました。当時の川田鉄弥氏(高千穂学園創立者)が貰い受け石碑として校庭に建ててあります。これをわたくしが托本して財団に献上したことがありました。「青淵」には、俳壇のらんがあり成瀬桜桃子氏が選者となり何十年と続けてまいられました。わたくしも毎月五句をつくり提出しそのなかで一応合格点になるものを一句選ばれ上席下席はありますが載りました。これを下記に掲載させていただきます。ほかにわたくしは友人と竜耳俳句会を作り高千穂大学の伝統と想って句作しており、最近は春秋社(木下星城先生が主幹)にも参加しています。わたくしは我流で先生につかないで馬齢を加えてしまいました。俳号は龍耳会先輩につけていただいた「生々」でございます。

   平成元年 梅雨雲喚声湧けり女子オープン(9月号最下席)

     6  寒雀わが撒きし餌にこぞりけり(4月号)

     7  ハードルを超えし思ひや喜壽の春(3月号)

        助六の見えに惚れたり初芝居(4月号)

        答案に達磨の絵あり大試験(5月号)

        椿島めぐる潮の波頭(6月号)

        鈴蘭ややよと黒土にひざまづき(7月号)

        熟年の心和ます豆御飯(8月号)

        光陰にせかれて余生梅雨に入る(9月号)

        浅間山より青田に風の吹き過ぎる(10月号)

        星飛んで渡河戦始動二分前(11月号)

        病む妻に見せばやせめて新松子(12月号)

     8  落椿師司馬子規の死期を読み(1月号)

        月暦余す一枚木守柿(2月号)

        日蓮の法難の里梅固し(3月号)

        音はみな地底に沈む雪の夜(4月号)

        立春や水茎太く「大吉」と(5月号)

        あの世より彼岸の使者や箒星(6月号)

        つつじ咲く雲仙の道火山灰阻む(7月号)

        嵯峨野道人影絶えて竹落葉(8月号)

        日に万歩悲願の坂は汗一斗(9月号)

        わが死後を想いつ門にお殻焚く(10月号)

        シンクロといふ人間の水中花(11月号)

        自尊心手玉に取られ太閤忌(12月号)

     9  木枯らしや五重の塔を吹き上げし(1月号)

        障子張り今は昔の母の影(2月号)

        躊躇に青竹所望年用意(3月号)

        一碗の抹茶賞して春待てり(4月号)

        山しゅゆが老いの愁いを払いけり(5月号)

        帳尻のピシリと合えり弥生尽(6月号)

        妹背鳥東京大仏美男かな(7月号)

        揚げ雲雀武郎須磨子の失楽園(8月号)

        祈り込め病舎の七夕竹重し(9月号)

        暑気あたり終の別れとなりにけり(10月号)

        爆笑の顔そのままに西瓜割れ(11月号)

        虫時雨合いの手入るるちちろかな(12月号)

     10  コスモスやショパンの曲の揺れ心地(1月号)

        風呂吹きに取っておきの酒燗をつけ(2月号)

        若水を掛けて厄除け不動尊(3月号)

        初旅と洒落る余裕のなかりけり(4月号)

        如月や金婚夫婦普茶の席(5月号)

        犬ふぐり日蓮土牢格子前(6月号)

        手揉みなる新茶をいれて麩饅頭(7月号)

        夏風邪の尼僧に席を譲りけり(8月号)

        景品にビニール袋の金魚かな(9月号)

        結跏帙座三十分の夏座敷(10月号)

        秋出水田畑自転車人を呑む(11月号)

        叩き落して南無阿弥陀仏秋の蜂(12月号)

     11  妻半尾われは一尾の初秋刀魚(1月号)

        長き夜や眠りの友はラジオなる(2月号)

        五錮撫でて真言密教初利益(3月号)

        寒鳥狡智嘴太枝の上(4月号)

        かじまやに集う絵型の生御魂(5月号)

        さえづりや縄文人の住みし丘(6月号)

        口吟む楊柳青き大黄河(7月号)

        安居して五代の墓守る早雲寺(8月号)

        堂塔へ紺を投げたる秋の空(9月号)

        涼しさや横一文字に寝るパンダ(10月号)

        吶喊のなお耳底灯籠会(11月号)

        ビグバン手締めも締める大納会(12月号)

     12  秋芸大「アジアは一つ」天心像(1月号)

        散る自由持ちて落葉が風に乗る(2月号)

        マイテンダー歌いたくなるよな落葉かな(3月号)

        五体投地闇に響きて冴え返る(4月号)

        春の駒後脚をもて空を蹴る(5月号)

        風鐸の小揺らぎもせず花馬酔木(6月号)

        惜別や八十八夜の庭に佇つ(引越)(7月号)

        棒ほどの苗木大きな夢を植う(8月号)

        あやめ絵やほほ笑み残す皇太后(9月号)

        眼つむれば前線想わす遠花火(10月号)

        盆灯篭二巡りして本流へ(11月号)

        芙蓉咲くお隣さんは能樂師(12月号)

     13  結界に這う蔦紅葉風炉名残(1月号)

        古賀節に妻も酔いたり冬の夜(2月号)

        節料理いずし加わり家の味(3月号)

        初場所や物言ひつけし女の眼(4月号)

        梅三分汀女の句碑の緑石(5月号)

        実朝忌由比のおぼろの海辺かな(6月号)

        接吻に似せて吹きけり風車(7月号)

        母の日や半世紀前の不幸詫ぶ(8月号)

        あさき夢つづりて旅寝明け易し(9月号)

        夏学会口下手なりし老教授(10月号)

        天の川生死を映す天体鏡(11月号)