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人類の遺産(世界遺産)について

羽山 章一(Iクラス)

昨年(2007年)の春頃、偶々都心の書店で世界遺産検定のポスターを見かけた。早速調べてみると、この検定は前年の2006年6月に第1回目の検定試験が実施され、NPO法人である「世界遺産アカデミー」が主催するものであった。元々世界各国の歴史、文化、都市、自然、宗教、民族などに興味があったこととボケ防止も兼ねて、世界遺産について勉強して第2回目の検定試験(2007年6月)を受験してみようと思い立った。幸い初級の上位クラス(シルバー)に合格することができたので、2007年から始まった中級の試験(日本を含む東アジア地域:中級は世界を5地域に分けた専門試験となる)にも年末の12月に挑戦した。
以下、大変僭越ではあるが、世界遺産の勉強の過程で得た知見を主に、小生の所感も少し交えて述べてみたい。

1、世界遺産条約の意義/目的
  世界遺産条約とは、1972年11月の第17回ユネスコ総会で満場一致で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(通称:世界遺産条約)」である。2007年現在、世界で183カ国が批准/加盟しており世界最多の加盟国数を誇る国際保護条約となっている。なお、日本の加盟は遅く1992年に125番目の加盟国となった。これには後述するが日本が西洋の「石の文化」と違って「木の文化」であることが影響している。
さて世界遺産条約の意義/目的であるが、「世界遺産とは、地球の成り立ちと人類の歴史によって生み出され、今日まで受け継がれてきた大切な宝物である。それはまた、未来に向けて遺していかなければならない、全人類が共有する宝物でもある。これらの遺産を未来に遺していくため、人類は国際的に協力し合い、保護していくことが必要なのである。」と定義されている。ハンチントンはその著で「異なる文明の衝突により戦争が起こる」と主張しているが、ユネスコは「文明は衝突しない、お互いを良く知らないだけだ。文明間の対話があれば争いは起こらない」と強く否定する。これがユネスコの精神であろう。

2、世界遺産登録の歩みとデータあれこれ
2007年7月現在、世界遺産は851件(文化遺産660件、自然遺産166件、複合遺産25件)が登録されている。世界遺産条約発効後の初登録は1978年で12件が登録された。
年代別に見てみると、大体3期に分けられる。第1期は1978年〜1991年で、「記念物、建造物中心の登録。西欧中心でキリスト教関係の建造物が多い。」のが特徴である。従って、「石の文化」中心で日本などの「木の文化」は文化遺産と認められていなかった。第2期は1992年〜2006年で、「文化的景観という概念が導入されると共に、木造の文化遺産(部材を取り換えたり、補強したり、時には解体修理してきた)にも真正性が適用されることが確認された。また、産業遺産、20世紀の遺産など、遺産の多様化が進む。」文化の多様性や人間と自然の共存が重要視されるようになってきた。日本も1993年に4件を初登録した。2件が文化遺産で、1、法隆寺地域の仏教建造物群、2、姫路城、もう2件が自然遺産で、3、白神山地、4、屋久島、である。第3期が2007年〜で、「モニタリング(継続的監視)の重視。“点”から“面”へ、総合的な保護体制の確立及び自然と人間の共生を重視し且つ観光と遺産価値の両立も図っていく。」という新しい概念が導入されている。
次に地域別では、やはりヨーロッパが圧倒的に多く、世界全体の45%強、次に多いのがアジアで約21%である(アジアの大国である中国、インドに多い)。また国別では、(共同登録の件数を除き)やはりヨーロッパ諸国が多く、ベスト5は1位イタリア40件、2位スペイン39件、3位中国35件、4位ドイツ30件、5位フランス29件、となっている。日本は14件で14位と、世界遺産条約の締結が遅かった割には上位に位置していると言えよう。
なお、世界遺産には「危機遺産」の概念もあり、自然災害や武力紛争、大規模工事、都市開発、観光開発、密漁や管理体制の不備などによって、遺産の価値の喪失の恐れがある場合には、危機遺産に登録される。2007年7月現在、30件が危機遺産に登録されている。因みにコンゴ(アフリカ)には世界遺産が5件登録されているが、全てが危機遺産である。理由は、密猟、武力紛争や難民の流入などである。
その他いくつか挙げてみると、有名な「ガラパゴス諸島」(エクアドル)は2007年に危機遺産に登録された。理由は観光客急増による環境破壊である。また、「ドレスデン・エルベ渓谷」(ドイツ)は2006年に危機遺産に登録された。橋の建造による景観破壊というのがその理由であるが、生活の利便さと遺産価値のどちらを優先させるのか住民の判断に委ねられている。一方で危機遺産から脱した遺産もある。「ケルンの大聖堂」(ドイツ)は高層マンション建設による景観破壊という理由で、2004年に危機遺産に登録されたが、高さ制限をすることで2006年に危機遺産から削除された。また、「エヴァーグレーズ国立公園」(アメリカ・フロリダ半島南部にある全米最大に湿原地帯)も農薬の流入、都市化による水位の低下などにより1993年に危機遺産に登録されたが、その後の対策が効果を上げたことにより、2007年に危機遺産から削除された。

3、 負の遺産
世界遺産条約で、「負の遺産」の内容が定義されているわけではないが、平和や人道的な観点から、人類の「負」の行為を記憶にとどめるため、その役割を果たす遺産を総称していう。代表的なものに日本の「広島平和記念碑(原爆ドーム)」がある。人類史上初めて原子爆弾によって破壊されたこの建物は、核兵器の恐ろしさを伝えると共に、世界平和と核兵器廃絶を訴える象徴として1996年に世界遺産に登録された。ただ、世界遺産への登録を審議した第20回世界遺産委員会(メキシコ・メリダ市で開催)は紛糾した。アメリカは不支持で、「戦争関連施設は遺産リストに含めるべきではない」と主張した。また、中国も賛否留保で、第2次世界大戦での日本の戦争責任に触れ、「我々は今回の決定から外れる」と発言した。しかしながら、参加21カ国のうち、他の国の反対はなく、日本の主張が受け入れられ、原爆ドームの世界遺産登録が決定した。このほか、ナチスによるユダヤ人殺害の現場、「アウシュビッツ強制収容所」(ポーランド)、奴隷貿易の拠点となった「奴隷の家」がある「ゴレ島」(セネガル)、アパルトヘイト(有色人種隔離策)の犠牲となった人々の牢獄、「ロペン島」(南アフリカ)などがそれにあたる。その中で「アウシュビッツ強制収容所」は2007年に名称が変更された。新しい名称は「アウシュビッツ ビルケナウ〔ナチス・ドイツの強制と虐殺の収容所(1940−1945)〕」となった。ユネスコのメッセージと考えるべきであろう。

4、 日本の世界遺産
日本の世界遺産は現在14件(文化遺産11件、自然遺産3件)あるが、世界遺産予備軍としての暫定リストには9件が登録されている。世界遺産登録をユネスコに申請するためには、先ず各国の暫定リストに登録されなければならない。ヨーロッパでは暫定リスト登録数だけでも1,000件以上あるという。その懐の深さには驚嘆するばかりである。さて、日本の9件は次のとおりである。文化遺産候補は、1、平泉の文化遺産(岩手県)、2、古都鎌倉の寺院・神社ほか(神奈川県)、3、彦根城(滋賀県)、4、富岡製糸場と絹産業遺産群(群馬県)、5、富士山(静岡県・山梨県)、6、飛鳥・藤原の宮都とその関連遺産(奈良県)、7、長崎の教会群とキリスト教関連遺産、8、国立西洋美術館本館(東京都)の8件であり、自然遺産候補は、9、小笠原諸島(東京都)の1件である。「富士山」が何故文化遺産候補?と不思議に思われるかもしれないが、自衛隊基地やスバルラインがあるので自然遺産候補としては不適格なので、文化的景観や山岳思想と言う観点から文化遺産候補として暫定リストに登録された。
世界遺産登録の申請は2006年から文化遺産、自然遺産とも年1件/国しか認められないことになった。日本の次の登録申請予定は2008年が「平泉の文化遺産」、2009年が「小笠原諸島」と「国立西洋美術館本館」である。「国立西洋美術館本館」はごく最近暫定遺産リストに登録された。また、世界遺産登録申請に備え、昨年12月に重要文化財に指定するよう答申された。これは「近代建築の巨匠」とされるフランス人建築家ル・コルビュジェが設計したもので、日仏など7カ国がにあるコルビュジェ建築23件を7カ国連名で文化遺産として一括登録する手続きを進めている。

5、 各国事情
今、日本ほど世界遺産が観光ブームとなっている国はない。国内の当該地では看板や幟が所狭しと立てられ掲揚されている。また、海外旅行ツアーも世界遺産が何箇所入っているかを競い合っている様である。これは日本の観光が「どこそこに行く」「どこで何を見る、何件見る」というスタイルが主流であるためであろう。韓国も日本に似たスタイルと言えよう。海外に行ってもせかせかと歩き回り、大声で喋っているのは大抵韓国人である。
一方、欧米は「どこに滞在して何をする」というスタイルのためか、あの世界遺産大国のイタリアでも、昨秋訪問したが、世界遺産の標識はほとんど見かけない。見かけても小さな字でユネスコ○○と書いてあるだけである。アメリカにいたっては全くクールである。世界遺産も20件近くあるが、国が若いため大部分が自然遺産である。世界遺産よりも世界で最初に「イエローストーン公園」を国立公園にした(1872年)という誇りの方が強いのであろう。むしろ、貴重で豊かな自然環境を保護するために世界遺産登録も進めるというスタンスである。日本は世界遺産狂想曲の趣の割には、国家予算に対する文化関係予算が実に少ない。(日経ビジネスによれば)2006年度でフランスは0.86%、それに対して日本はたったの0.13%である。もっともっと文化に対する認識を深め(文化力を高め)、誇れる国にしなければいけない。これは我々世代の責務であろう。

6、 結び
最後に、歴史学者の故木村尚三郎氏の言葉を紹介して結びとしたい(「ヨーロッパ思索紀行」NHKブックス、2004年より要約引用)。『世界遺産条約は、何も観光資源の登録を目的としているわけでなく、技術文明の成熟とともに成立したものである。すなわち「知恵の手詰まり」の今日、かつての知恵、先祖の美意識を「掘り起こし」て今日に生かす、「振り返れば、未来」のときがやってきた。その「掘り起こし」が、ルネサンスの本当の意味である。ヨーロッパの中世末・近世初頭にも社会的活力が低下し、ペストや飢餓、戦争で人々が苦しめられたが、そのとき起こった古代ギリシャ・ローマの「掘り起こし」こそが、ルネサンスであった。現代は、「セカンド・ルネサンス」というべきでだ。そのためにこそ、世界遺産条約の意味があるのだ。』まさに至言であると思うのは小生だけではないだろう。


以上
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