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■現在地:ホームリレーエッセイ

■リレーエッセイ
今回は演奏旅行記の第2回です。最終回は9月初に掲載します。(S42年会事務局)

混声合唱団「響」チェコ演奏旅行記(2)

阿部 祐一(Iクラス)

5月23日(土)
     今日は午後3時過ぎまで自由時間。まずは腹ごしらえと朝食をしっかり食べる。会社に遅刻しても朝飯は抜かなかった吾輩である。今夜から2泊ホームステイ。スーツケースは稲葉さんのお部屋に置かせていただき、身の回りの物をパックする。準備完了、脇田先生、藤先生、稲葉さんと連れだって市内観光に繰り出す。最初の目的地は「ドヴォルザーク博物館」。音楽家のお二人はまずもって仁義を切るべき大先達である。地下鉄を乗り継ぎ、地図を頼りに探す。英語が通じる人に出くわさない。ようやく立ち止まってくれたのはドイツ人。快く地図を覗きおよその見当をつけてくれる。あった!喜び勇んで近づくと何やらおかしい。張り紙にいわく「改装中につき暫時休館」。せめてもの記念に固く閉じられた門の前で写真を撮る。しからばと、また地下鉄に乗ってスメタナ博物館を探す。モルダウ川沿いの建物だから見つかるだろう。カレル橋のたもとを過ぎ、立ち並ぶ土産物屋を通り過ぎた所にあった。入場料を払い2階に上がる。自筆の楽譜(コピー)写真、愛用のピアノ、ごくスタンダードな陳列である。往時の新聞記事の写しや初演のプログラムなどもある。

     少しばかり賢くなったような気分で退出。1階のショップで買い物。脇田先生は遊び心あふれるネクタイを、稲葉さんと私は変形した面白いデザインのコーヒーカップをそれぞれ買いこむ。スメタナの銅像前で記念撮影。プラハ城、カレル橋がうまく背景に収まる。

     カレル橋を往復しモルダウの眺めを大いに楽しむ。橋の上ではにぎやかにライアー(手回し風琴)が鳴っている。シューベルトの「冬の旅」に歌われるライアーは物悲しさの極みだが、当地のライアー弾きは赤いチョッキが似合う陽気なおっさん。景気良く「フニクリフニクラ」なんぞを流しておる。自作のCDまで売っている。脇田先生がCDを買うと愛想よく写真を撮らせてくれた。似顔絵かき、大道芸人、土産物売り、そしてカモを探すスリもお出ましに違いない。到着するなり空港で「当地の治安はよろしいが、スリが多いのでくれぐれもご注意ありたい。」といささか自己撞着気味の警告をいただいたことを思い出す。

     あちこち歩きお腹もすいたので昼食の場所をどこにするか、一同真剣に考える。せっかくだからおいしい地元料理にしようと意見が一致。改めて地図と、「地球の歩き方」を見比べてレストラン探し。これはという店に見当をつける。街角の小奇麗な店、1階がバー兼喫茶、地下がレストラン。なかなか雰囲気もよろしい。4人でメニューを検討、良く分からんがこれにするか。シチュー風のチェコ料理らしい。ついでにビールを注文。待つことおよそ20分、出てきた、出てきた。おいしそうな匂いが立ち込める。脇田先生、藤先生のオーダーしたものはボリュームも満点。みな口数が少なめになって料理を口に運ぶ。少々塩気がきつめだが、味もよし、これなら合格だ。全員満足。お値段のほうもリーズナブル!東京ならすぐ民放のバラエティー番組のクルーが乗り込んで大騒ぎになるだろう。

     午後3時ホテルを出発、バスでプラハの市街地を抜けて郊外にある会場のズブラスラフ城に向かう。小高い丘の上のお城。手入れの行き届いた広々とした庭園を、犬と散歩する人、思う存分走り回る子供たち、ゆっくりと歩む年配のカップル、週末の豊かな時間が静かに流れている。往時は優雅な装いの貴族たちがそぞろ歩きを楽しんだり、ひょっとして恐ろしい陰謀などを素知らぬ顔で語らっていたのかもしれない。ホールは残響がたっぷり。内部の装飾画はかなり傷んでいるがかつての豪華さを十分しのばせる。この広間で、舞踏会が開かれたり、遠方からの外交使節を謁見したのだろうか。

     イギリスの「聖ピーター&ポール ロンドン合唱団」のゲネプロを聴く。練習を積んだしっかりした合唱だ。自信を持って歌っている。ご当地「ガウディウム合唱団」は人数も多く、歌いこんできた曲を披露する。負けてはおられぬ、と気合が入る。欧州の夏はいつまでも日が高い。ようやく太陽が西に傾き始めるころ聴衆が集まり始めた。

     午後6時いよいよ開演。まずガウディウム合唱団が歌う。宗教曲から民謡風の歌まで、それぞれの雰囲気をたたえた見事な演奏を聞かせてくれる。続いて聖ピーター&ポール ロンドン合唱団。合唱王国イギリスの力を見せてくれる。カウンターテナーの響きが素晴らしい。

     いよいよ出番。今宵も「モルダウ」にひときわ大きな拍手をいただく。客席の反応が手に取るように伝わってくる。女声合唱の「金毘羅舟々」のあとは男声合唱「箱根八里」。少人数なのでトップテナーは私一人。いやーきつかった!

     おしまいに合同演奏。日本の「ふるさと」これは脇田先生の指揮。英語の「O, Soldier, soldier」締めのチェコ語の「Kdys Jsem rozmar ynku」はそれぞれの国の指揮者。楽しい演奏だった。これだけの人数だと、手抜きもできる。

     ご当地自慢の白ワインのグラスを片手にレセプションが始まる。挨拶もそこそこにおしゃべりの輪が広がっている。英国のカウンターテナーの大男に声をかけられた。「あなた頑張ってたね。」「ありがとう。僕はあなたの美声に聴き惚れました。」とお世辞抜きの感想。チェコの人たちの関心はもっぱら「モルダウ」のこと。「楽譜が欲しい。」「どんな歌詞なの?」国歌にも等しい管弦楽組曲「わが祖国」の代表的なメロディーが合唱になって、しかも日本人が歌っている。これはチェコ人として放っておけないといわんばかり。脇田先生は大勢のチェコ人に囲まれてモテモテである。盛り上がっているところで、ホストファミリー宅へ移動する時間となった。

     プエリガウデンテス少年合唱団テナーのミラン君(大学生)と彼の母上アリエさん(ガウデンテス合唱団のメンバーでピアニストでもある)が迎えに来て下さった。お宅はプラハの街をはさんでこの城と反対側にあるとのこと。チェコ語は分からないが、一日の出来事を聴きたがる母親と面倒くさそうに答える息子の会話という雰囲気がおかしかった。モルダウの河畔を過ぎ高台に上る。走り始めて40分もしたろうか、目の前にいささか古めかしいコンクリート5階建ての大きなアパートが現れた。おそらく社会主義時代の建物であろう。似たような建物を、ロシアでも旧東独でも見たことがある。案内されて建物に足を踏み入れる。目の前に取ってつけたようなとしか言いようのないエレベーターがある。窮屈な姿勢で入りこむ。エレベーターを降りると3世帯のドアが並んでいる。左手がミラン君の家。少々緊張する。出迎えて下さった父上は先ほどまで演奏会場で熱心にヴィデオを取っていた紳士ではないか。

     家族は5人。お父さんのイルジーさんは国立研究所の物理学の研究者。学会のために日本にも行ったことがあるとのこと。きれいな発音の流暢な英語を話される。奥さんは事務員。立派なご両親である。ミラン君はマスコミ就職希望の大学4年生。アルバイトがてら地元テレビ局の交通情報を担当しているという。フィリップ君という弟さんが一人、20歳。重度の障害をもち、かつ自閉症を病んでいる。演奏会場で見かけたのはこの弟さんだった。もう一人ミラン君の同棲相手のガールフレンドのエヴァさん。実の家族として暮らしている。二人はもうアツアツのベタベタ。美人の彼女は博士課程を目指す生物学専攻の秀才だそうだ。お父さんが嬉しそうに教えてくれた。

     夕食が始まる。ブルーチーズベースのドレッシングにパンをつけて食べる。野菜が添えられている。「どうぞたくさん召し上がれ。」と言われてはたと気づいた。これが夕食のすべてなのだ。ビールやジュースはあるが質素なメニューに驚き、顔に出さぬように気をつけた。食事中弟さんが、大声ではしゃいだり、おしゃべりに割って入る。そのたびに家族が優しくたしなめたり、会話を引き取っている。そして一言「これが私たちの生活です。」

     「ここまで来るのは長い長い道のりでした。」「なるべく社会に出て人と接するように育てる努力をしました。朝は私が養護学校まで車で送り、車を置いて電車で出勤。夕方妻が迎えに行って、車で連れて帰る。10年以上こんな生活です。ようやくありのままを見ていただけるところまで来ました。」思わず居住まいを正す思いだった。家族の強い絆の源はここにあったのか。このお宅にお世話になって本当によかった。

(以下9月号に続く)

以上

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ライ アー引きのおっさんと
指揮者の脇田先生、稲葉女史
スメタナの銅像とプ ラハ城 英国の合唱団の指揮者と団員
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