如水会ネット(JFN)

●幼児教育について考える


                                  本間 道治
                                  米国 インディアナ州在住
                                  (昭和48年社会学部卒業)


(1)教育パパ

 幸せなことに43才にして初めて父親になった。誕生の瞬間にも立ち会った。二
年後には二人目の男児が産まれ、親としての喜び、幸せが二倍になった。今、二
人は6才と4才になり、毎日楽しそうに一緒の幼稚園に通っている。

 妻に言わせると、私は、典型的な親馬鹿だそうである。私自身は、親馬鹿と呼
ばれても一向に気にならない。中年になってから持った子供たちだ、可愛いのは
当たり前である、と開き直っている。しかし、ただの親馬鹿でおわるつもりはな
い。一時、日本で「教育ママ」という言葉が流行したが、私は、自分自身のことを
「教育パパ」だと思っている。また、同時に意識的な「マイホーム主義者」でもある。
毎日の時間の割り振りで、家族と接する時間に相当高い優先順位を与えているか
らだ。私は弁護士だが、昼間、事務所にいる時には、事務所でしか出来ない顧客
との面会や電話応対を優先的にこなし、出来るだけ早く家に帰るようにしている。
自分一人で出来る調べ物や書き物は、朝早く起きて自宅でするように心がけてい
る。私のウィークディの日課は、6時に子供たちを起こし、朝食を一緒にとり、7
時半に家を出て、子供たちを幼稚園まで送る。幼稚園までは、車で30分ほどの距
離だが、子供たちと話をしたり、子供同士の会話を聞くことが出来るので、この
毎朝のドライブは、私の楽しみになっている。また、車から降りた子供たちが、
先生や友達とおはようの挨拶をかわしながら嬉しそうに教室に向かう姿を見ると、
私も幸せな気分になってくる。大抵6時半には帰宅して、夕飯を家族と一緒に食べ
る。その後、子供たちを風呂に入れて、寝る前に妻と手分けして何冊か本を読ん
で聞かせ、遅くとも8時半には寝かせる。このように朝夕2時間づつ、一日4時間ぐ
らいは家族と一緒に過ごしている。また、ウィークエンドは、土日のいずれかを
子供と遊ぶようにしている。今は、家の中でボードゲームをしたり、庭でゴルフ
や野球の真似事をしたり、自転車乗りの練習に付き合うことが多い。

 幼児期の子供に対する親の影響力は、子供の活動範囲が狭い分大きくなる。従
って、この時期に、子供と接する時間を多く取ることが、教育パパとしての役割
を果たす上で最も効果的だと思う。ただし、教育と言っても、学力の向上だけを
指すのではない。マスコミでは、「いじめ」、「登校拒否」、「校内暴力」、「学級崩壊」、
「家庭内暴力」、「青少年犯罪の凶悪化」、「子供の自殺の増加」、「青少年の麻薬使用
の増加」、「おやじ狩り」、「援助交際」といった耳や目を覆いたくなるようなニュー
スが毎日のように取り上げられている。幸い、我が家では、まだ子供たちの年齢
が低いので、この種の問題には無縁である。また、アメリカに住んでいるので、
日本とは多少事情が異なると思うが、彼らを今後ともこうした事象から全く隔離
しておくことが出来るとは限らない。もし、我が子が学校で暴れたり、登校拒否
に陥ったり、いじめの加害者や被害者になれば、問題解決のために親として最大
限の努力をすると思う。だが、実際にそのようなことになる前に予防措置をとる
ことの方が、親にとっても子供にとってもはるかに良いことだと思う。うちの子
に限ってそんなことになるわけがないなどと盲信しているわけにはいかない。親
の影響力が強い幼児期に、正しく力強く生きていけるだけの善悪の判断力や自分
を大切にする心と他人の立場を思いやる心を育んでいきたいと思う。それが、親
が子供に与えられる教育の重要な側面だと思う。

 親が、子供に施すことの出来る教育の二番目に重要な側面は、子供に夢を持っ
てもらえる環境を作る事だと思う。最近まで、日本では良い学校に行き、良い会
社に入ることが、将来良い生活を手に入れるための近道とされ、多くの親が、子
供に対し良い学校に行くことを望んできた。それ自体、悪いことではないが、問
題は良い会社に入った後、そこで何をするかだ。現実は、一旦会社に入ってしま
うと、どんな仕事を担当するかは会社が決めることであり、本人の希望はなかな
か受け入れられない。そういった事が長年続くと、自分が何をしたいのかを考え
ることは無意味になり、いつしか自分で自分の進む方向を決めなくなってしまう。
結果として、自分の職業人生に夢を持てなくなってしまうわけだ。本来、人は誰
でも夢を見る。殊に子供は、大人が考えられないほど奇想天外な夢を抱く。夢は
大きいほど良い。なぜならば、人は夢に見る自分以上のものにはなれないからだ。
偶然、自分が思ってもいなかったものになれたとか、全く考えてもいなかったこ
とが出来たなどというようなことは滅多に起きるものではない。小さな夢で満足
していたら、小さな人生で終わってしまう。大きな夢を抱き、それを具体的な目
標に置き直し、その目標に到達すべく一歩一歩努力を積み重ねていくことが大事
なのだと思う。私は子供達に、「自分は将来何になりたい」、「何をしたい」という
夢を大事にする人間になって欲しい。その為に、親として子供が大きな夢を持ち
続けることが出来るような教育と環境を与えていきたいと思う。

 教育パパとしての第三の課題は言語教育である。親が子供に直接教えるべきこ
とは多々あると思うが、私は、その中で最も大切なものは言葉だと思う。なぜな
らば、言葉は人間の学習能力の根幹に位置するからである。人間が自分の頭で考
えるためには、その道具としての言葉を知らなくてはならない。具体的な事物も
抽象的な概念も、言葉に置き換えることによって初めて人間の頭の中で考える対
象になる。したがって、言葉を知ること、言葉を使う能力を磨くことは、考える
力を育成する上で基本になる。人間は生まれ落ちた時から周囲の人の話す言葉を
聞き、それを真似することによって言葉を覚え、徐々に自分でも使えるようにな
ってくる。最初は、聞き分けることから始まり、やがてそれを真似て話すように
なり、学校に行く頃には読んだり書いたり出来るようになる。ただし、我々のよ
うにアメリカで暮らしている場合、子供たちが日本語でも英語でも自然に読み書
き出来るようになるかというと残念ながらそうはならない。親子の間で日本語を
話すからといって、日本で暮らす日本人並みに日本語が自然に身につくわけでは
ないし、現地の学校に行っているからといって、英語がアメリカ人の子供と同程
度にうまくなるわけでもない。人が社会の中で成長し一人前に生活していくため
には、その社会で通用している言語で考える力が十分に備わっていることが必要
である。私は、アメリカで暮らしている以上、子供たちがしっかり英語で読んだ
り書いたり出来るようになるまで、親として子供の言語能力習得の手伝いをして
いこうと思っている。それから先、習得した言語能力を使ってどんな勉強をする
かは子供の興味次第であるし、言語能力さえしっかり習得できていれば、どんな
科目の授業にもついていくことはそんなに難しいことではないと思う。

 以上、幼児期の子供に対し親が施すべき教育の中で、私が重要と考える三つの
側面を取り上げたが、次回からそれぞれの側面につき更に詳しく私の考えを述べ
ていきたい。

(2)健康管理・安全配慮

 古臭くて恐縮だが、「健全な精神は健全な身体に宿る」という言葉がある。この
言葉の真偽には異論があると思うが、「健康状態はその人の精神状態にも影響を与
える」というように広く解釈すれば大方の賛成を得られるものと思う。その意味で、
私は健康を維持したり増進することはとても大切なことだと思っている。また、
健康であるからといって必ず健全な精神を持てるわけではないし、ましてや、幸
せになれるわけでもないが、健康な人が健康を失う苦しみは、経験しないで済む
なら自分自身経験したくないし、子供にも出来るだけ経験させたくない。健康を
維持するためには、日常の節制や予防が重要である。幼児期の子供の節制と予防
については、100%親の責任といって良い。バランスの取れた食事を規則正しく摂
ること、早寝早起き、朝晩の歯磨き、帰宅時のうがいの励行等、どれをとっても
親の手助け、指導・監督を必要とする。また、幼児が怪我をしないような配慮や子
供に対する安全教育も親の責任である。あたりまえのことばかりだが、私たち夫
婦が心がけていることを思い付くままに列挙してみる。

*健康維持
1 歯磨き(朝食後・就寝前)、親によるフォローアップ。
2 歯科医による虫歯のチェック(年1〜2回)。
3 健康診断・予防接種(年1回)。
4 帰宅後すぐにうがいをし、手を洗うこと。
5 食事の前に手を洗うこと。
6 早寝早起き(6時起床、8時半就寝)。
7 規則正しい食事時間(朝6時半、昼11時、夜6時)。
8 バランスのとれた食事。
朝;ミルク、サラダ、シリアル、トースト、ハム、乳製品、ゆで卵、コーンスー
プ、果物等の中から最低5種類ぐらいはしっかり食べさせる。約40分から50分かけ
て食べる。
ランチ;母親手製の弁当。サンドイッチやおにぎりにヨーグルト、スティックチー
ズ、果物、ジュース。
夜;日本食中心のメニュー。週に1〜2回は魚貝料理。必ず野菜を使ったおかずを
用意する。デザートは果物1〜2種類。
9 適度な休養・リラックスする時間。
十分な睡眠時間と共に、子供がリラックスできる時間を十分に与える。子供が望
むからといって、また、子供に良いからといって、過度にスポーツ教室に通わせ
たり、習い事をさせない。

 私の父は、80才の現在でも60才台の若さと健康を維持している。父の生活ぶり
で他の人と異なる点は、早寝早起きと規則正しい食事時間を守る事である。他に
も、楽天的でくよくよしない性格といった長寿、健康に寄与していると思われる
要素もあるが、これは持って生れた性格であり、真似しようにも真似出来るもの
ではない。ただ、真似できる点については見習って、我が子達にも、子供の内か
ら、規則正しい生活習慣を身につけさせ、また、バランスの取れた食事を与える
ことにより、健康の土台になる強い芯を持たせてやりたいと思う。

*安全教育・安全配慮
1 階段では遊ばない。
2 ドアの傍で遊ばない。ドアを開けたり閉めたりして遊ばない。ドアを勢いよく
開けたり閉めたりしない。後ろから来る人がいる場合は、ドアを開けて待ってい
る。
3 車から降りる時には大人から離れない。一人で勝手に駐車場や道路に出ない。
4 車は後部座席に乗りシートベルトをする。
5 自転車に乗る時は、ヘルメットとニーパッドを着用する。
6 ボール以外の物を投げない。(ボール投げは広いところで)
7 道路で遊ばない。
8 外で、知らない人に声をかけられても応答しない。
9 おもちゃの銃や水鉄砲の銃口をいきなり人に向けて驚かさない。
10 外では、片時も子供から目を離さない。
11 たとえ短時間でも、子供だけで留守番させたり、車に残したりしない。

 安全教育や安全のための配慮は子供の発達段階により異なることが求められる。
上に挙げた例は4〜6才児に必要と思われるものである。頭で理解できても、その
とおり行動できないのがこの時期の子供の特徴である。従って、間違いを犯すた
びに、何度でも口を酸っぱくして言い聞かせる必要がある。一度の失敗で取り返
しのつかないことになってしまうことも考えられる。子供はそこまで分からない。
そうならないように、常に子供の安全に対し配慮するとともに、子供に繰り返し
安全教育をすることは親に課せられた重大な責任だと思う。また、子供に安全の
重要性を認識させることは、乱暴や無謀な行いの危険性をわからせるとともに、
他の人の安全も尊重することの大事さを分からせることにもつながる。兄弟間で
の戦いごっこは、子供の最も好む遊びである。多少の乱暴な行為には、ある程度
までは、目をつぶっているが、一方が痛いと言ったり、もうやめてと言った場合
には即座にやめるよう指導している。幸い、二人とも、今まで一度も怪我をした
り怪我をさせたりしたことがないが、子供の安全については親は一瞬たりとも気
が抜けない。

 最初に触れたとおり、健康状態はその人の精神状態に影響を及ぼす可能性があ
る。したがって、与えられた健康状態を維持、向上させることは、健全な精神状
態を保つための第一歩として重視すべきだと思う。登校拒否やいじめの問題は、
様々な要因が重なって起きているのだと思う。子供が何か難しい問題に直面した
時、真正面からその問題に取り組み、自ら解決する気力を持つためには、その基
盤として、健全な精神を持つ必要がある。繰り返すが、健康な人だけが健全な精
神を持てると言うことではないが、体調を壊した時には、難しい問題に立ち向か
う勇気も持ちにくい。一方、与えられた健康状態を維持、増進する努力を続ける
ことは、自己抑制力という精神力を必要とする。その意味で健康と健全な精神は
力強く生きていく為の車の両輪と言えよう。



(2000/12/25掲載)

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