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●採用面接・身元調査

 在米日系企業の経営者にとって、採用に際しての面接は頭の痛い問題の一つである。会社に貢献し得る人材か否かを見抜くことを要請されている一方、面接での質問が訴訟に発展する懸念があるからである。面接に先だって、何を質問でき、何を質問できないかを頭に入れておくことは極めて重要である。
 ワシントン州人権擁護委員会(WSHRC)は、雇用者や人材斡旋会社が採用前の就職志願者に対して尋ねても良い質問(可)と尋ねることのできない質問(否)を例示している。(WAC162−12)

1.年齢
 生年月日を尋ねることは可。(RCW49.44090−2の但書)40歳未満の人間を採用する目的で生年月日を尋ねることは否。但し、40歳以上と40歳未満の二人の志願者を面接し、40歳未満の方を採用して、もう一人の志願者から年齢による差別の訴えが起こされた場合、反証するには困難が伴う。採用前には生年月日を尋ねない方が無難であろう。

2.逮捕歴
 逮捕歴に関する質問は全て否

3.国籍
 合法的に就業できるかとの質問と採用されたら市民権の証明書かグリーンカードを提示できるかの質問は可。米国市民であるか否かの質問、採用前に市民権の証明書やグリーンカードの提示を要求すること、志願者の血統・出身地等に繋がり得る質問は全て否。

4.前科
 当該業務に関係する前科(例えば薬物を扱う業務の志願者の麻薬に関係した事件での前科)に関しては、7年前まで遡って有無を質問することは可。業務に関係のない事件での前科についての質問は否。

  註.2の逮捕歴と4の前科に関しては、法的問題がある。1993年のワシントン州控訴審判決(ANDY EARL v.SONITO.INC.)は、人権擁護委員会が逮捕歴や前科を持った人々のグループを「州法によって保護されるべきグループ」に付け加えたのは権利の逸脱である、とした。一方、人権擁護委員会の主張は「特定の人種グループで逮捕や前科の発生率が特に高いので、保護する必要がある」というものである。

5.家族
 定められた就業時間を守れるかどうかの質問は可。配偶者、子供、扶養家族に関する質問は全て否。

6.障害
 当該業務の遂行に支障を来す特定の身体的・精神的障害の有無を尋ねることは可。一般的に障害の有無を尋ねることは否。

7.身長・体重
 業務遂行能力の有無を尋ねることは可。身長・体重に関して規定を設けようとすれば、規定から外れる従業員は当該業務を遂行できないことを証明しなければならない。業務遂行に関係のない質問は全て否。

8.婚姻関係
 全て否。

9.軍隊経験
 米軍で受けた教育・訓練・職務に関する質問は可。除隊の理由や米軍以外の軍隊に従軍した経験に関する質問は否。

10.名前
 志願者が当社乃至同業他社において別の名前で働いたことがあるか否か、あるとすればその名前は何か、照会者に告げるべき名前は何か、の質問は可。結婚で変わる前の名前の質問、婚姻や出身国・先祖に結びつくような質問は否。

11.出身国
 外国語の能力が業務上要求されている場合に、当該言語の会話・読み書きの能力を質問することは可。出身国に繋がる質問は全て否。

12.団体
 団体の名前や性格が所属メンバーの人種・肌の色・信条・性別・婚姻・宗教・出身国を表さない限りにおいて所属する団体を質問することは可。志願者が所属する団体やクラブを全て列挙せよ、というような要求は否。

13.写真
 採用後に識別の目的で写真の提出を求めることは可。採用前には強制であろうと任意であろうと写真の提出を求めることは否。

14.妊娠
 就業できる期間、休まなければならない期間に関する質問は、男女の別なくなされるならば可。妊娠しているか否か、妊娠や関係する既往症に関する質問は否。

15.人種・肌の色
 人種、肌・髪・目等の色に関する質問は全て否。

16.親類
 当社乃至同業他社に働く親類の名前を尋ねることは可。それ以外の目的で親類の名前や住所を尋ねることは否。
(原注:州法は会社が親類の採用について社則を決めることを直接禁止していないが、マイノリティ・女性・その他要庇護階級に不利な社則は、業務上必要なことを証明されない限り、違法である)

17.宗教・信条
 全ての質問が否。

18.住所
 志願者と連絡を取るだけの目的で住所を尋ねることは可。志願者の同居人の名前・関係、志願者が家を所有しているのか間借りしているのかの質問は否。

19.性別
 全ての質問が否。


 雇用する側としては、採用後に発生しうるリスクを避けるため、志願者に関して出来るだけの情報を得た上で採用の決定を行いたいわけであるが、業務遂行能力以外の情報を得ようとするば、法的リスクも増大す
る。

 雇用する側が尋ねないのに、志願者が自発的に差別に繋がるような情報(例えば、自分の年齢)を提供した場合、雇用者(面接者)は、どうすればよいか。聞き流すことは法的危険に繋がる、とする意見は多い。「尋ねられたわけではないが、自分は何々であると言った。その結果採用されなかった」という口実を与えるというわけである。従って、志願者が自発的に自分のことを述べた場合、「あなたの述べたことは、我々が誰を採用するかということと全く関係がない」ということを、いちいち言い返す必要がある。
 
米国では採用面接時にできる質問には厳しい制約があるが、一方、充分な身元調査をせずに採用した従業員が犯した犯罪で雇用者の責任が問われることもある。

 1994年3月、ワシントン州控訴審において充分な身元調査なしに雇われた臨時雇員が犯した婦女暴行未遂に関し、雇用者の責任を問う判決が下された。

<事件の概要>
 Wackenhut Corporation (マイアミに本社を置く警備保障会社)は、1989年3月9日にWilliam A. Futiをコンサートの会場整理係として雇った。翌3月10日にタコマドームでBon Joviのコンサートが開かれ、Ronda Carlesenは友人と共に聞きに行った。Rondaともう一人の友人は会場で他の友人とはぐれ、会場係のFutiを警備員と思い、友人を探して呉れと頼んだ。Futiはその依頼を承諾すると共に、バンドのメンバーを会いたいかと彼女たちに尋ね、彼女たちが会いたいと答えると、会場の座席の下の通路に彼女たちを導き、ステージには一人ずつしか行けないと言って、先ず友人を案内し、次にRondaを案内する途中で強姦しようとした。Rondaの叫び声は激しい楽器の音にかき消されたが、たまたま曲が終わり、会場に明かりがつき、静かになったため、Futiは恐怖を覚えて逃げ出した。彼は婦女暴行未遂罪で起訴されたが、軽犯罪での猥褻罪(Indecent Liberties)で有罪を申し立て、30ヶ月の禁固刑を宣告された。

<被害者による雇用者の起訴>
 RondaはFutiの雇用者を、雇用に際し当然すべき身元調査を怠ったとして起訴した。身元調査を怠った証拠として、Futiが学歴・職歴を詐称しているのに調べていないこと、身元照会人の全てと連絡をとったわけでないこと、Futiの犯罪歴を調査していないことを挙げ、もし充分な身元調査をしていたなら、加害者が信用できないことが判明し、強盗罪の前科からこの職に相応しくないことを知り得た筈とした。

<雇用者の反論>
 これに対して雇用者は、Futiは警備員ではなく、臨時の「Tシャツ雇員」であり、Tシャツ雇員を雇う際の水準としての身元調査は充分に行った、と反論し、履歴書からも面接からもFutiが婦女暴行を犯す可能性を示唆するものは何もなかったとして、婦女暴行未遂がFutiの規則違反の職場離脱として行われたもので、雇用者は全く責任がないと主張した。

<判決>
 郡上級審は雇用者側の主張を全面的に認め、採用過程における雇用者の怠慢はなかったとしてRondaの訴えを退けた。これに対し、控訴審は郡上級審の判決を覆し、Ronda側の主張を全面的に認める判決を下した。控訴審がRondaの主張を認めた理由は次の通りである。
 第一に、雇用者に責任があるとすれば、Futiを採用した時点で彼がその職に相応しくないことを知っていたか、知りうる立場にいた、ということでなければならない。充分な調査がFutiの犯行の可能性を示唆したかどうかは疑問であるが、雇用者がFutiの身元調査の不充分さを認めざるをえないことが、雇用者の立場を著しく不利にした。
 第二に、Futiの仕事は実際には重要でなく、給与も低かったが、コンサートの入場者に責任を持つ仕事であり、また入場者が彼を警備員と誤認してもおかしくない立場にいた。このような立場の人間を雇う際は、雇用者は慎重に身元調査を行うべきであった。
 第三に、雇用者は、たとえFutiの犯罪歴を前もって知っていたとしても犯罪歴は婦女暴行を示唆するものではない、と主張したが、しかし強盗罪は暴力の罪であり、婦女暴行に及ぶ可能性を示唆している、とのRonda側の主張が認められた。犯罪歴の調査を怠ったことはFutiが当該業務に相応しいか否かを決める際に通常なされるべき注意義務に違反したと見なされた。

 この判決の意味するところは、雇用者が採用の際の怠慢の誹りを避けるために徹底した調査を行わなければならない、ということである。それなしに採用した場合、雇用者は本人の第三者に対する傷害事件に関して責任を負わなければならないケースが出てくる。
 米国で従業員を雇うに際し、面接においては限られた質問しか許されず、学歴・職歴の調査も容易でないことは日系企業が共通して経験する悩みの種である。その一方で、雇用者が、従業員のセクハラ行為や犯罪に責任を追求されるケースもあるわけであるから、米国における企業経営の厳しさ・難しさを充分認識する必要がある。


後藤 浩 hiroshigoto@mercury.ne.jp

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