10/05/2012
JMC幹事長 石垣禎信
JMC アジアハイウェイ1号線プロジェクト ステージ1
「道路標識と国家戦略」
1.JMC AH1ステージ1とは
JMCはJosui Motor Club の略称、日本語の名称は「如水モータークラブ」で、具体的には一橋大学(当時は体育会)自動車部のOB会のことである。私の現役であったころの自動車部はラリーやフィギュア(運転技術競技)を中心に活動をしていたが、時代とともにその活動内容は変化し、今はゴーカートやダートが中心のクラブとなっている。暫くの休部を経て、幸いなことに昨年、大学の正式クラブとして復活した。
4年前に昭和45年卒を中心とした「オーストラリア遠征」がJMCとして実現、昨年の「メコンプロジェクト」によるタイ・ラオス・カンボジア遠征に続き、日本とアジアをつなぐ「アジアハイウェイ1号線」にシャレンジしようと云うことになった。日本橋を出発地点とし、韓国、北朝鮮、中国、ベトナム、カンボジア、タイ・・・インド、パキスタン・・・を経てトルコのインスタンブールに至る約2万キロの行程、その第一ステージとして韓国と板門店までの行程(約3000キロ)を走破するのが今回の目標であった。
2.第一印象:体も態度も大きくなった韓国人
十数年前、たまたま仕事でアジア・パシフィックを担当し、韓国にも度々訪れビジネスをともにした経験からの今回の感想は「韓国人は体も態度も大きくなったな〜」である。昨今の韓国経済の進展や韓流・・・の席巻はよく知られたことで、それなりに頭では理解しているつもりだったが、実際に、釜山の地下街やソウルの市内で見る韓国の若者の体格の立派さと堂々の自己表現にまず驚いた。もちろんこの現象は若者にとどまらず、ビジネスパーソンも(接触は少なかったがおそらく一般の人々も)同様であった。国と国民の努力で世界のトップグループの一員となった実績がこの背景と考えるが、隣国民として尊敬するとともに、国と国民の元気がなくなっている最近の日本の情勢を思うと、若干の嫉妬を感じると云うのが正直な感想である。
3.AH1道路標識はどのように現れたか?
前述の現役学生の自動車部顧問をお願いしている、大学院商学研究科の根本敏則教授(交通経済学)からはAH1について今回も多くのアドバイスと宿題をいただいた。その中の一つに「アジアハイウェイ」の道路標識が日本と韓国でどのように配置されているか?と云うテーマがあった。
今回の出発地点であった東京日本橋の真上を通る首都高速にある日本橋道路元標とセットになったASIAN HIGHWAYの第一号標識をはじめとして、日本と韓国の全行程の中で現れる「AH1」の標識を追いながらの走行は、「見逃してはならない」と云う軽い緊張感もあり、その現れ方や表現の違いを観察する面白い旅になった。
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4.日本と韓国の「AH1」の取扱いあるいは取り組みに大きな違いを発見した。
日本での標識の頻度は極めて少なく、名前の付いた高速道路(たとえば東名、名神・・)に入った処に申し訳程度に「AH1は続いていますよ。」と小さい標識が出てくる。日本橋から博多港までの間で凡そ10弱といったところ。
韓国では日本とは対照的で、看板の大きさは変わらないものの高速道路のインターチェンジからAH1の高速に合流するたびに、高速道路名(たとえば高速1号線)と上下のセットで「AH1」標識が出てくる。頻度は日本の10〜20倍といったところで、あたかも高速道路とAH1はいつもセットであるような印象を受ける。
さらに一般の人には「AH1」の表示だけを見ても何もわからないが、実は1号線が通る主要国を書いた大型標識がある。図示すると下図のようになる。
この大型標識が、日本では博多港への高速の出口と博多港から博多市内へ向かう交差点に、下りと上りでそれぞれ一箇所のみであった。韓国ではこの標識が主要高速道路との大型インターチェンジの近くや大型の都市標識と共にかなり頻繁に出てくる。
5.グローバルおよびアジアへの意識の違いの現れではないか。
この日本と韓国での「AH1」標識の現れ方の違いは何を意味するのだろうか?
単に韓国の道路当局の予算が潤沢なためとの解釈も成り立つかもしれないが、私は敢えて次のような理解をしたい。つまり、国としてグローバルおよびアジアへの意識の違いの所為と見る。2.の項で述べたように韓国のこの10年の発展は、グローバルおよびアジアへの政治・経済戦略の集中と努力の成果と考えると、一般国民が利用する道路標識も、この戦略を国民に意識させ浸透させる一つの手段と考えても可笑しくない。CEO大統領と自称する李明博大統領とその政府ならこれぐらいの事は考えているかもしれない。特に好奇心と吸収力の高い若い人に与える影響はさらに大きいものと思う。有り余る留学生枠を消化出来ない日本の若者と、高校は当たり前で中学から留学させるのが最近の韓国の親の目標とまで言われる韓国事情との違いの背景に、この道路標識の取り組みにつながる意識の違いがあるとかなり強引に結論づけたい。
6.「国家戦略の明確な意識と表現」と見ると言い過ぎだろうか?
私は経営戦略の策定と実現を生業としてきたが、今回のプロジェクトでAH1の道路標識と共に体感したこの感想(決して精緻な分析ではない)は、実は今の元気のない日本の原因と対策に密接に繋がるものと確信している。
つまり、日本が今一番必要なものはと問われれば、「国家戦略の明確な意識とその表現」と答えたい。
カムサハムニダ。