春の訪れを待ち遠しい3月の肌寒いある日曜日のこと。大学は春休み中。在京の自動車部
員に召集の連絡。旺文社から、部活の様子を撮影したいので協力してくれと言う訳だ。
午前中に学校へ到着したが、我々自動車部員以外の学生の姿はほとんど見当たらなかった。
間もなくすると、カメラマンとモデルのかわいい女の子が到着。
雑誌のモデルやCFにも出たことも有ると言う二十歳位の彼女は、じつに垢抜けしていて当時
数少ない一橋の女子大生とは、ちょっと雰囲気が違うような感じがした。
もちろん我々野郎どもと不釣合いなのは言うまでも無い。
部員の我々は、そろいの赤ジャンと白のつなぎに身を包み、兼松行動前あたりに集合。
(あまり汚れていないつなぎは、LL番の2着だけ。大柄の者が着ることに。)
本番が始まる。
2〜3台並べた部車の周りにそれとなく集まり、彼女を中心に、なにかを会話しているポーズ。
向きを変えたり、立ってみたりすわったり。かれこれこ一時間、ぱちぱちと撮影は進み、休憩に
入った。
その間何枚撮ったかは分からないが、カメラマンの様子は満足したような雰囲気ではなかっ
た。
映されている方も、どこか不自然でぎこちない感じもした。
彼女は木陰でくつろいでいた。
休憩時間に緊張感も取れて、車の前で野郎だけが談笑していると、そこにカメラマンが寄って
来て、「そのままの状態で話を続けて」と、また撮り始めた。
これはどうせ“ON AIR”されないだろうと、全員リラックスした雰囲気。
「折角だから始業点検の時のように、ボンネットを開けてみよう」
「皆で覗き込んでいてもなんだか解からない、工具とか部品などはありませんか?」
とっさに誰かがエアクリーンフィルターを取りはずした。
カメラマンが「そこに取り出したものをテーマに、みんなで会話してください」
部員の一人が「これはなーんだ?」といった瞬間、訳も無く全員が噴出してしまった。
いつものような和やかな雰囲気に戻った。
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