月光とピエロ(作詩:堀口大學 作曲:清水脩
秋のピエロ

・・・・テンポについて・・・・

By MGC B1 N 2002.05.26

 テンポをどうとるかは演奏する上で最も重要な要素で、指揮者のもっとも大事な仕事の一つだと思いますが、作曲者の指定したテンポというのが、実は曲者で、指揮者を悩ますのです。

 普通使われているイタリア語のアレグロとかモデラートとかいう用語は勿論相対的な概念であり、時代によっても国によってもテンポは違います。要するに幅が広いわけで、例えば日本で売っているメトロノームを見ると、アレグロはメトロノーム記号で1拍120-160などとなっているのが多いようですが、120と160では大変な違いです。それにアレグロは120-160なんていう決まりが国際的にあるわけではありません。またテンポは生き物ですから同じ曲の同じテンポ指定の中でも変ってくることはしょっちゅうあります。


 作曲者によってもテンポの認識が違うわけで、言いかえれば、この幅は演奏者の解釈に委ねられている、とも言えます。作曲者の指定と全く違うテンポでやった方がその曲の真価が出るというようなこともあり、この辺が演奏表現の面白いところだと思います。


 秋のピエロの作曲者の指定はモデラートですが、実際の演奏は色々違います。音源で調べたところ次の通りです。
1)清水修・東混 二期会;最初92-96、テンポ
(秋はしみじみ)で104に上げている。
2)畑中良輔・東海メールクアイア;最初100、テンポⅠも100
3)若杉弘・日唱;最初112-114、テンポⅠで120に上げている。
4)アラウンドシンガー;最初104、テンポ
も104.


 これらの実例からも分かる通り、通常モデラートとされる108-120で演奏しているのは若杉弘だけで(さすが??)、あとは全てモデラートより遅いアンダンテの領域(通常76-108)で演奏しています。作曲者の清水修でさえ自分の指定テンポよりかなり遅めです。(ちなみに清水修の第一曲月夜の演奏はアンダンテの指定にも拘らず、極端に遅くなんと58というアダージョ、ラルゲットよりも遅いテンポです)。ことほどさようにテンポは厳格に守るべきである一方、融通無碍なところもあり、あまり先入観をもって捉えないほうが良いと思っています。要はその曲に相応しく、且つその演奏団体に適したテンポをどう探すか、ということだと思います。


なお、上記の演奏で清水修、若杉弘ともにテンポの指定のところで、テンポを上げていることに注目して下さい。念のためですが、テンポの指定は必ずしも最初のテンポに戻れという意味では無く、その曲の中心となるテンポに戻せ”,或は(リタルダンド等でテンポを変えたとき)前のテンポに戻せという意味がありますので、ご留意下さい。(特にロマン派以降の管弦楽曲に多い)。


 今回は100かそのちょっと下ぐらいのテンポでやりたいと思っていますが、練習を重ねていく中でその近辺のMGCに適したテンポを探したいと思っています。小生の経験では、コーラスもオーケストラも全く同じで、その団体に適したテンポが必ずあり、それでやるのが良い演奏につながると信じています。