「モテット」
Ave Maria」 (アルカデルト作曲 、ヴィットリア作曲 、ブルックナー作曲)
Ave Verum Corpus」(モーツアルト作曲)、「O Vos Omnes](カザルス作曲) 

・・・・モッテットの作曲者達・・・

By MGC T1 I 2009.03.21

Ave  Maria

マリアに幸いあれ! マリアを祝福するこの言葉は多くの作曲家の心を衝き動かし、作曲させた。キリスト教は唯一神ヤハウェを信ずる宗教であり、他の一切を信仰の対象とすることを禁じ、様々な異端との戦いを繰り返してきたのは周知の事実。しかしその例外がマリア信仰である。初期には神ならぬマリアを崇拝することは禁止された。しかし次第に民衆の間に信仰が拡がり、ついに5世紀には公会議で一転してマリアを「神の母」として公認した。キリスト教の神は罪を問い、懺悔を迫る厳しい神、過酷ともいえる神だ。その一方マリアはいったいどのような女性なのか聖書には殆ど記述がないにもかかわらず、救いを求める民衆の祈りの対象にされてきた。われわれ流にいえば観音様のように人々を優しく包み込み、その願いを受け入れてかなえてくれる慈母のごときイメージが広がり聖母として慕われてきた。ギリシャのアルテミス、エジプトのイシスなどをはじめ様々な女神信仰はひろく行われており、その下地があったからともいわれる。

JArcadelt

アルカデルト(15041568)は盛期ルネサンスのフランドル楽派の作曲家。モテットやミサも作ったが、300曲以上も残したマドリガーレやシャンソンのような世俗音楽を主に作曲した。歌いやすく、人々の心に訴えるその歌はイタリアはもとより後半活動したフランスでも高い人気を誇った。この有名なAve Mariaも彼自身の作ではなく、実は人気のある彼のシャンソンをもとに19世紀になってフランスで編曲されたものだというのもその証だろう。

TL.Vittoria スペインではVictoria

ヴィットリア(1548-1611)世俗曲を一切書かず、後期ルネサンス においては最もすぐれた宗教音楽の作曲家である。ビクトリアの作品は20世紀に復活を遂げ、古典的声楽ポリフォニーの代表とされる作曲家。スペインに生まれ、ローマへ出てパレストリーナの影響を受けたというが、パレストリーナにはない感情的な烈しさがあると評する人も多い。宗教改革に対抗して作られたイエズス会の修道院で楽長職を務めたのちスペインに帰国。スペイン王フェリペ2世の妹皇太后マリアに仕え、終生にわたって修道会にとどまって司祭・作曲家・合唱指揮者・オルガニストなど、数々の役割をこなした。

Josef Anton Bruckner

ヨーゼフ・アントン・ブルックナー(18241896)交響曲とミサの大家として有名な後期ロマン派の作曲家でありオルガン奏者として名が高い。ワーグナーに傾倒し、ベートーヴェンの交響曲に強い影響を受けたといわれ、大部分のエネルギーを交響曲を書くことに集中させた。ブルックナー・ユニゾンといわれるユニゾンの効果的な使用やブルックナー休止と呼ぶ音楽全体を休止(ゲネラル・パウゼ)など、この短い曲の中にもその特徴が示されており、和音を密集させる彼の音楽の重厚な響きは男声合唱でいっそう効果を高めているように思える。

MozartAve verum corpus

この曲はモーツァルトが、妻コンスタンツェの療養を世話した合唱指揮者アントン・シュトルのために作曲したものである。たった46小節の小品だが、モーツァルト晩年の傑作とされる。絶妙な転調によって息をもつかせないような緻密な音楽が展開してゆく。合唱を経験したものなら知らない人はいないし、誰もが歌ったことがあるだろうが、真に満足のいく演奏はないといわれるほど奥深く難しい曲である。

P. Casals

カザルス(1876年~1973)チェロの近代的奏法を確立した20世紀最大のチェリスト。深い精神性に支えられた演奏とともにカザルスは平和活動家としても有名で、スペイン内戦が勃発するとフランスに亡命し、終生フランコ独裁政権への抗議と反ファシズムの立場を貫いた。1950年代後半からはアルベルト・シュバイツァーとともに核実験禁止の運動に参加した。旧約聖書の『エレミヤの哀歌』からといわれる「道行く人よ、心して目を留めよ。よく見よ。これほどの痛みがあったろうか……」というこの歌の言葉は、大恐慌時のスペインの混乱や民衆の苦しみをも憂えてとりあげたものだろうか