Turkey

Traveller: H.S. Y.A


General Information

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正式国名 Republic of Turkey
国土面積 814,578平方km
首都 アンカラ
総人口 6252万6千人(1995年)
言語 トルコ語
通貨単位 トルコ・リラ(TRL)
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国番号 90
パスポート残存期間 入国時6ヶ月以上
ビザ 90日以内の滞在は不要
電圧 220V
周波数 50Hz
電源プラグ B/B3/C/SE

トルコ共和国大使館
トルコ政府観光局


阿部 旅行記


旅行が自分を魅了するのは、一枚一枚、こだわりのようなものがはがれ去っていく感覚のせいだと思う。当然のことがまったく当然じゃなかったり、それでもいいんだ何でもいいんだと安心したとき、目の覚める思いがする。盛夏のイスタンブールの日差しは、ジリジリというかんじも通り越して射抜くように鋭く、厳しかった。だけどそれも日中の話、深夜と明け方はかなり冷え込む。

クアラルンプールで3日間過ごし、8月6日、本来のスタート地点であるイスタンブールに到着した。スルタンアフメット地区はバックパッカー用の安宿がひしめいていて、その密集度は世界一と言っていいんじゃないかと思う。でも一年で最も観光客が殺到する期間だったせいか、めぼしいところはどこも一杯。日もまだ高いので、何件もあたってみる。それなのに最終的に選んだのは、フロントのおっさんにそそのかされて行ったルーフ・ドミトリーだった。ただの屋上だった。雨ざらしのマットがいくつか並べられている。狭い階段を5階分はのぼらされたあげく、おっさんの言い値は普通のドミとまったく一緒。論外だ。

だけど…その屋上に出た瞬間、青い青いボスポラス海峡が眼前いっぱいに開けた。視線の先は湾の出口のようで、間をおかず次々と大きな外国船がぼんやり現れる。ななめ後ろにはアヤ・ソフィアが、いいのかと思うほど近い。隣の建物も安宿だが、上の階はトルコ人家族が生活しているのが丸見えで、これまた近い。素敵すぎた。 そこに決めたあとも、今日こんな所に泊まるのかあ…と苦笑いだったけど、これだけ暑いんだし、と寝袋も毛布もないことを心配していなかった。

夕飯を食べて、憧れのイスタンブールを少しぶらぶらして戻ったころ、屋上に他の客がやってきた。家族連れ。きちんとした家族で、場所をシェアしてもいいかと断わってくれた。おばさんが、毛布持ってないなら貸してあげると言ってくれた。ただの屋上なので、日が落ちればひたすら暗くてよく見えなかったが、毛布や生活用品をぜんぶ持っているようだ。あきらかに長く旅行して回ってるのだろう。ハンガリーから、ということだったけれど、大きいお兄ちゃんから小さな弟妹まで子供が何人か一緒。小さな子達はこちらに興味ありげで、お兄ちゃんがいさめて寝かせるという様子だった。子供たち学校とかどうするんだろうとか、そういえばお兄ちゃんのほうはなんか暗い顔してるなあ…なんて考えていても、ジプシーかもという考えはその時まったく思いつかなかった。少し寒くなってくる。しばらくしたあと、おばさんがわざわざ毛布を持ってきてくれた。

イスタンブールの外気に囲まれて眠る。夜中、アヤ・ソフィアから流れるしわがれ声のアザーンが、すごく近くで響いた。寒くて寒くてたまらない。横になっているから屋上の壁で見えないけれど、たまに汽笛が控えめに鳴ったりする。縮こまって、何度も毛布のはしをたくしこんで、冷たい空気に触れないようにした。日の出前のアザーンからしばらくたって、目が覚めた。オレンジの朝焼け。真っ先に海峡を見ようと首を伸ばした

同じくらい海峡が良く見える部屋に泊まって、ちゃんとベッドで眠り、早朝に海峡に目をやったとしても、何ヶ月かたってからこんなふうに思い出すことはなかったかもしれない。昼間はどこを向いても青と白の湾が目に入り、夜汽笛の音と寒さを感じて眠り、朝立ち上がって確認したこと。ひどく爽快だった。こんど旅行するときは寝袋が必要だなあ、と笑った。