六組  杉浦 正直


 学園を巣立ち、社会生活に入ってから早や三十年を経過したとは、年ばかり過ぎて大したこともしなかったことを悔やむばかりである。

  目をつぶると色々のことが思いだされてくる。記念祭で芝居をやったこと、女の着物を着て元禄花見踊りをやったこと、本科に進み、角帽をかぶったことの嬉しかったこと、教練で絞られ学園の自由な雰囲気をスポイルされたことに怒りを感じたこと、など昨日の出来事のようである。

 或るシーンはきわめて明確なのに、その前後のこととなるとさっぱり続かない。夢を見たあとの説明のようであるが懐しいことこの上ない。

  最近十二月クラブの会合に出て何時も感じることだが、はじめのうちは爺々ばかりよくも集まったなあと、自分のことは棚に上げてがっかりしているうちに、よくよく相手の顔を見つめていると、その顔が角帽、金ボタン当時の顔に見えてくるのである。途端に懐しさがこみあげてくるから不思議だ。何の利害関係もなく、裸で付き会える友は同窓生ぐらいのものであり、 貴重な宝だと思っている。今後も純粋な気分で付き会いたいものだ。