五組  藤田 信正


  住みなれた興銀をはなれて日本曹達に移ってから、もう五年を経過した。銀行と事業会社はどこが違うだろうか。身にしみて感じたことは、銀行は無責任な批判をできるが、事業会社はそうでないことである。むろん、第三者的な批判も必要であるが、事業会社における批判は、代案を伴うのでなければ、現実的でないといえるだろう。それにしても、興銀にいたお蔭か、違和感もなく、新らしい仕事にとけ込むことができた。ただ、私なりに努力していることもあるので、今日はそれを整理してみたい。

  第一は、常に「自分は経営者だ」と自らいいきかせていることである。そう思って周囲をみると、もの足りない場合が多い。失礼な話であるが、年長者に対して「あなたは経営者の一員であり、気楽だからといって、昔の部長に戻ることはできなくなっている。今後も経営者として生活するほかはない。その場合に、あなたの生活を支えるのは、自分は経営者だという意識ですよ」と注意したことがある。

 それでは、経営者意識とはなんだろうか。

 私は、自己の責任において決定をくださなければならない立場にあるという意識だと思っている。世に、社長は孤独といわれるのは、このためであろう。

 もちろん、現在の私は最終責任者でなく、多くのことは常務会に諮かり、あるいは、社長と相談して決められている。しかし、その場合に、どう決めるかを求めるのでなく、こう決めたいが、それでよいかというようにしなければならないと思うわけである。

  第二は、部下から相談を求められたとき、できるだけ早く、はっきりとした決断をくだすことである。私自身の責任において決定できることはむろんのこと、そうでない場合にも、できるだけ急ぐように心がけている。

 もちろん、拙速がよいわけでなく、直ちに決められない場合も多い。そういう時には、理由を明かにして部下を納得させるとが必要である。

  第三は、いやな報告にも進んで耳を傾けることである。悪い報告を聞いて不気嫌な、いやな顔になるのは、むしろ当り前かも知れない。しかし、部下は、こちらが思う以上に、こちらの顔色をうかがっているものであるから、それがひどくなれば、悪い報告を避けることにもなりかねないだろう。そうなっては一大事であるから、注意が肝要である。

  以上の三項目は私の心掛けであり、必ずしも、完全に実行しているわけではない。第三項のごときは、むしろときどき後悔しているのが実態である。ここに生意気な文章を綴ったのも、自戒のためとおゆるし頂きたい。