一組 池田 武雄
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この十二月で卒業三十年になる。全く早いものだ。 私は三十代の初めから六年間病気をし、それを契機としてサラリーマンから自営に転じた。卒業当時考えていた人生のコースを大きく変更した訳だ。この軌道修正が成功するか、健康が続くかと心配したが、家族、先輩、友人のお蔭で今日迄なんとかやって来られた。まことに有難いことだと思っている。大病は不幸なことだったが、この転進には至極満足している。 若い頃五十過ぎの年配者から人世経験のにじみ出た分別くささや落着きを感じたものだが、今自分がその年になって果してどれだけ進歩したものか省みて忸怩たるものがある。ただ最近では平凡なもののなかに噛みしめると味のあるものがあると分るようになって来た。三十年の歳月は徒に頭髪を薄くしただけとは思いたくない。 |