四組 田中 仁栄
 
  卒業三十年、経ってみると実にあっけないというのが実感。

 卒業する時は大いに海外雄飛したいと念願していたのだが、今日になってみると事甚だ志と違ってしまった。不思議なものでいつも自分の志を達成できる道を選んだ積りだったのに、結果は殆ど裏目にでてしまった。

 これから先何年生きられるのだろうか。周囲を見廻してみると最近は八十を越しても元気に活躍している人も多い。この分なら或いは自分にもその可能性はなきにしも非ずというような気がする。とすればまだ三十年あることになる。

 しかももうすぐ停年という転機を迎えるに当り、その後をどうするか、具体的に人生設計をすべき時故に来ているのだが、まだ三十年もあるとなると、またぞろ昔のように何か海外雄飛につながる仕事はないものか等という考えがうかんでくる。人間いくつになっても若い時の夢は消えないらしい。しかし周囲の見る目は全く違っている。若い時には殆ど無限に近い可能性を秘めているが、五十を過ぎては極めて限られたものになっている。それに家族の扶養義務からもまだ解放されないので、裸一貫になってもという訳にもゆかない。それでもやはり夢は捨てきれないらしい。果してどんな三十年がこれから来るのだろうか。