「巻 頭 詩」 友 へ
憧憬と焦燥と希望と悲哀と在りし日の一切を秘めつヽ
私達の学園生活はいま正に終わらうとしている
或者は謙虚に或者は誇らかに綾なす歴史の息吹きと共に
伝統の燈の下集ひつヽ送り来し一橋の幾春秋よ
さあれその憧憬がどの様に幼くとも その希望が如何に
果敢なくとも その焦燥と悲哀とが如何許り 無為に
見えようとも 私達にとって それらは凡て 真実ではなかった
らうか 否 生命ではなかったらうか
今こそ私達はそれらの一切を以って洵 国家存亡の秋
狂乱怒涛 変転極りなき世界の中に 美しくも悲壮なる
「国士たるの経済人」が栄光を自らの紅き血を以って試さなければ
ならない
憶 雲白く秋風櫟林に寒き学園の畔りに私達は
青春の金字塔を遺そう
よしや再びこの一巻を繙くとも 友よ 亦 いつの日にか語らん
昭和拾六年拾弐月