本年は殊の外暑さが厳しい様ですが、貴兄にはお元気でお過しのことと存じます。
さて、小生去る六月をもって、O社を退任しました。今まで永い間、いつも忙しい仕事に追はれ、貴兄等との会合にも兎角、遅れ勝ち、欠席勝ちでしたが、これからは人並みに出席してお付合い出来るものと楽しみにしております。
仕事を辞めて、今までの四十年の会杜の生活を振返ってみますと、余りに仕事優先の生活であった様に思われます。特に小生の様に経理、総務畑を歩いて来た者にとっては、これが深く感じられます。
この様な生活から生れて来る人間関係も、自然に仕事中心となって来ます。東京の様な大都会でのドライな空気の中での人間関係は時には味気のない耐えられたい無味乾燥なものと感じられることもありました。
これから脱れようと、学生時代に始めた謡曲の練習に本腰を入れて、本職の良い先生の処に通って三年程懸命に教わった事がありますが、之も仕事が忙しくなるにつれて、仕事優先となり、段々教わることが出来なくたって、遂に止めてしまいました。
この点地方勤務は、(と云っても小生の経験は九州の長崎だけですが)長い四十年の間のわずか三年半でしたが、人間関係の付合いに温か味を感じとることが出来、大変楽しく過せました。
今、現職を止めてみて、若し仕事上の付合いしか無い自分であったら、どんなに寂しかったろうと思っています。
幸いに小生には十二月クラブの諸君とのお付合いがあるので、心温まるものがあります。退任の挨拶状に対しても、十二月クラブの方々からは慰めと、励ましのお手紙を随分いただきました。
十二月クラブのお付合いを考えてみますと、仕事の利害関係が無いこと。毎月会合を持つ様な密度の濃い付合いであり乍ら、さっぱりした付合いであること。こう云ったことが長く飽きないで続いている原因ではないでしょうか。
今後は残された人生を、もっと自分を大切にして、又、自分を中心とした人間関係を大切にして、もっと潤いのある生活を送りたいと思っております。
目下第三の人生をどうして行くのか模索中ですが、小生もまだまだ元気で働けますので、何か世の役に立つ仕事をしてゆきたいと思っております。
当面、久し振りに天から与えられた休養期間と心得て、今までしたくても時間的余裕が無くて出来たかったことをするつもりです。
取敢えず今年の十二月クラブの海外旅行に参加して、じっくり西独やスイスを見て来るつもりです。
何れ旅行から帰りましたら、旅行のみやげ話でも交えながら、貴兄とゆっくりお話をしたいと思っております。
御無沙汰お詫びかたがた近況をお知らせしました。暑さ厳しき折から精々ご自重ご自愛の程お祈り申し上げます。では又、お目に掛った折に。勿勿。
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