1組  深谷 光茂

 

 昭和五十五年三月二十日、春分の日、会杜の仲間と相集って、埼玉県越生の日本カントリークラブ(パー七二)でプレーをした時のことである。

 当日は幸いにして、天候に恵まれ絶好のゴルフ日和であった。クラブに着いて皆でコーヒーを呑みながら、ゆっくりと駄弁っているうちに、マイクの呼び出しをうけ、一番のスタートに駈けつけ、じゃんけんの結果は、私がトップバッターとなった。ところが全然練習もしないでブッツケ本番という心掛けの悪さと、それに大したことのない腕前でもあることが重って、そのロングホールのスコアーは、第一発からOBを出して結局は9という情ないスタートとなってしまった。仲間にも冷やかされるし、私自身も、今日は大分チョコレートをサーピスせねばなるまいと、ひそかに覚悟を決めたものである。

 その様な調子で、その後は、ボギーを出したり、ダブルボギーを出したり、トリプルボギーになったりしたが、仲間も大体同程度の腕前だったので、とったり、とられたりしながら、プレーは順調に進行して行った。

 無風快晴の天候の下、秩父連山の遠景を眺めつつプレーをする気分は、まことに爽快そのものであった。そして何となく前半のアウトを終了したが、そのスコアーは五十一ということに相成った。
 昼食後、インコースに入り、十一番が問題のショートホール(一五五米)、私が二番バッター、オナーはワンオンしている。「よし私も、乗せてやるか」と云って取り出したクラブはクリーク、このホールは、勿論真直ぐ狙ってワンオンすれば、それに越したことはないが、グリーン左側に土手があり、そこにぶっつけても、ワンオンのチャンスが、十分にあるホールである。
 オナーはこの土手にぶっつけてワンオン、私は真直ぐ狙った積りであったが、多少左ヘブレて土手にぶっつかる。しかし球は仲々現れない。どこかにひっかかったり、途中で止ってしまったのかと思っていたら、何と左の土手の陰から、スルスルと転って出て来て、アレアレと思っている中に、本当にスーッと、吸い込まれるようにして穴に入ってしまった。「ホール・イン一ワン」である。
 そこで日頃の腕前からして一番びっくりしたのが、私自身であったと思うが、仲間も同様の感じで唖然としていた。

 その直后のことは、世上、ホールインワンをした時の情況と同じような光景が展開したと考えていただければよいと思う。
 そして、その後は、又通常のぺースに戻り、実力想応のスコアーで後半を終ったわけであるが、唯記憶に残るのは、ハンデキャップ四番のショートホール、十六番で何時も苦労させられるのが、この日に限って、パーで上がれたことぐらい、そしてインコースのスコアーは、ホール・イン・ワンを含んで四十八、トータルでは、九十九と決して芳ばしい成績ではなかった。

 「ホール・イン・ワン」も本当に実力のある人のものなら、大いに意味があると思うが、私の場合は、麻雀の何とかのように、幸運というか、偶然性の所産であって、決して威張れたものではないと、今でも、そう思っている。
 唯、その時は、別に気にも止めなかったが、家に帰って、ふり返ってみて、改めて気付いたことは、当日、四つのショートホールが、最初はボギー、次がバーディー、そしてその次が、ホール・イン・ワン、最后がパー、野球で云えば、サイクルヒットみたいたもので、これは面白いたと思ったことがある。

 それから、もう一つ、翌日会杜で同僚に、この話をしていたら、その同僚が「さる著名なクラブでワンハーフを廻り、123456789を含むスコアーを出して、最終ホールでパートナーと共に快哉を叫んだという会報をみたが、貴方はどうか」と尋ねられた。出だしの「9」と、5、6、7、のスコアーまでは覚えていたが、果して「8」があったかどうかは定かではなかった。そこで家に帰って、カードを調べたところ、一ヶ所ミドルホールでOBを出し「8」になったホールがあったのである。従ってショートホールで1、2、3、4、その他のホールで「5」から「9」までが揃ったわけである。(1ホールで二桁を叩くスコアーのなかったのも幸いであった。)

 そんな次第で、ホール・イン・ワンがあったとは云うものの、内容的には、決して人様の前で大威張りして話の出来る程のものではないと思っていたし、又する積りもなかったが、幹事さんからの寄稿要請もあり、茶呑み話の種にでもしていただけたらというような気持と、十二月クラブの四十周年記念文集にも、一つや、二つ、肩の凝らないご愛矯もあってよいのではないかと考え、敢えて寄稿したわけである。

 尚、私の誕生日は、三月二日であって、ホールインワンが、偶々還暦を迎えた月に当っていたこと、然もこれも、後で分ったことではあるが、当日は、大安吉日であったことなど、単なる偶然のなせるわざとは云うものの、一寸、話が出来すぎているという感じがしないでもないのである。
 今、ここに「作り話」のような、「本当の話」を皆さんにお届けするので、何分のご批判でもいただければ幸いである。

 


卒業25周年記念アルバムより