5組 張 漢 卿 |
カナダ名物の郵便ストライキが、来週早々またはじまると聞き、クラス責任者モンテ氏に迷惑をかけてはと、大急ぎで脱稿します。 十七年前に移住して来た当座は、世界中にこんな親切な郵便サービスがあるかと感心したものでした。切手代四セント、毎日朝晩二回の配達、何か問合せをしたら、イエス・サー、ノー・サーと礼儀正しく応対する立派な態度。それが今では、切手代も近く二〇セントにあがるとの話。配達は日に一回、土・日は休み、態度もきわめてぞんざい。ストライキは一、二年に一度、しかもクリスマスのような繁忙期を狙って決行等々。人心の推移が一つのモデルとして浮きあがっております。 日本からのカナダヘの投資も最近だいぶ増えてきたが、日本の生産事業が、人と人との間柄を重じた経営方針で生産を高めているという話も、ぽつぼつ一般の市民に判ってきており、物質文明を過重視する北米社会に反響を起しております。 我々が卒業してからのこの四十年は、おおむね日本の経済躍進期と一致しますが、北米では五〇年代にピークした後は、ベトナムを契機にして社会的にも経済的にも傾斜ひとすじ、目下人心低迷というところであります。 移住当時、十一歳の上娘から、十八ヶ月の末娘まで、四人のこどもを抱えて、新天地開拓の苦しいたたかいをしてきましたが、その一人一人が成人してきた今日、ふりかえってみて、この土地が果して次のゼネレーションを任せうるところなりや、という疑念がない訳でもありません。 個人主義社会における孤独感、労資紛争の激化、犯罪率の上昇に比例して道徳観念の低下など、むずかしい問題が多いものです。他方、その懸念がどの世代にも共通の「としよりの冷水」であるのか、若者に追付けない親達のぐちであるのか、とも考えなおし、極力こどもたちとの対話をオープンにし、かれらからも新しいものを習ぶべくつとめております。幸に、家庭では八十を越す祖母を孫たちが大事にして、その尊敬感がいくつかの不文律をつくり、その為に東洋的な秩序を多少なりとも維持しております。 先日昭和六年卒の大先輩T氏がオレゴン州から電話があり、東京で同期の卒業五十週年記念大会に出席されたとのお話、また卒業者の五十三%以上の方々がまだ健存であるとの嬉しい統計数字をききました。 色々と北米低調の話をしましたが、「地大きく物博し」という中国の諺のとおり、まだ底力はあると思います。特にカナダは米国社会より三十年程おくれた「大きい田舎」で、割とわるずれしていず、日本からの観光客も急速に増えております。七十七年に来加された諸氏も、或はまだこられていない方々も、是非共遊びにきて下さるようお待ちしております。 |
卒業25周年記念アルバムより |