6組  佐藤 久満

 

 還暦も過ぎ、記念すべき卒業四十周年を迎えるに当って、長い人生行路を振り返って見ると、戦中、戦後の波瀾に満ちた時代をともかく大過なく歩き通して来られたことに感無量である。

 学生時代の思い出としては、特に音楽を通じての交友が懐かしく、予科時代は音楽部に入っていたので、野尻湖畔の楽しい合宿生活や年末、第九交響曲演奏会にコーラスの一員として国立音大生とともに、日比谷公会堂、放送局の公演に参加したことなどが今だに忘れられない。第九の合宿練習は日響(N響)指揮者ローゼンシュトック氏の指導がきびしく、ドイツ語の発声には特に苦労した。
 本番では、緊張というよりも興奮と感動の波に我を忘れて夢中で唱った。この「歓喜の歌」はシューベルトの歌曲とともに、私の生涯を通ずる心の糧として、荒涼たるシベリヤの長い抑留生活やその後のきびしい人生でははげしい絶望感に悩まされた時にも、限りない慰めと励ましを与えてくれたものだ。

 社会生活では、ライフワークというような仕事をもてなかったことは淋しいが、これからの老後生活でも、音楽や自然を愛し続けることが私の生き甲斐の一つとなることであろう。

 



卒業25周年記念アルバムより