6組 仁品 正 |
何とか世間の老人なみに、落付いて、のどかな投稿をし度いと思っていた。 老人の、老人らしい、うしろ向きの感慨など、案外共感を呼ぴ、お互い若かったなあ、と思ってくれる人も、ひょっとしたらいてくれるか、と。 処が締切日もとっくにすぎて、クラス委員の鈴木御同役からも、たびたび督促をうけるにおよび、いよいよ焦燥の極、となると落付いていられなくなった。 石は言い訳にすぎない。現に数年前退職の時は、向かっ腹も立っていたこともあり、引継申し送り書を書き乍ら、三、四日位徹夜に近い日々を送ったが、今更徹夜することも、明日遅刻すると困るなどと、神妙な配慮は勿論持なないが、周囲の雑音ばかりいやに耳に入ってくる。勿論これは一日中でも一番うるさくて心落付かない宵の口のせいでもある。 毎朝々々、これでもかと許り悲しい人殺し、自殺が紙面を大きく占領する、蛇足、尾鰭盛り沢山の記事は無くても良い。そうでなくても新聞の五〇%以上のスペースは広告なのだから。 小さい頃、学校の修身の時間は校長先生の専任だった。校長先生は修身の権化であった。 ひと時代、無敵と云われた力道山、仲々目先のきいた商売人と思っていた。その彼はドスには弱かったが、NY興業にやって来て、市内の日本料理店では強く、無銭飲食はやるわ、弟子までこれを習う場面まで見て了ったが、エリートリポーターは何にも本国に報告しなかった。矢張り力道山は強かったのか。この文章もほめられたものとは毛頭思いもしないが、最近のエリートリポーターも情ない。大いに世の中に、今こそ警鐘を叩き、健全な良識と正義の味方と、畏敬する彼等の綴り方の近頃乱調なのは何とした事であろう。 小生には、幸にして、小さい頃、身近に校長先生とゆう「物差し」があった。大きくなっても、遠く離れて、今では消息も知れなくても、そのものさしは生きていると信じている。このものさしが、近頃てんで合わなくなったような最近の環境である。 「うそつきは、どろぽうのはじまり」、と教えられた。然し、どっちが先なのだろう。泥棒してから嘘をつくようになったのかも知れないではないか。早い話が、角栄さんだって、始めからアンナこと云う人だったら、あんなに先輩を押しのけて偉いポジションにつけただろうか。いや、追いつけ、追い越せの号令は、その十年前からムードを作っていて、親方日の丸の雷同性にうまくマッチした状況下では、始めから嘘でかためた演技で乗り切らざるを得ないとゆう、気の毒な環境に置かれていたのかも知れない。これは、凡人の、並大抵の努力の及ぶところではない。矢っ張り、雑魚と違うんだナ、と納得する。 須らく、人生は演技である。ひとなみになどと言う言葉が出る時は、既に負けているのだろう。 外人は、日本人の翻訳した外国文が下手だなどと失礼な批判は、滅多に口にしないが、自分の知識の範囲内で推測解釈してくれる。彼等の結論は、矢っ張り日本文化が低いと云う処に行って了わないか。政府のPRとか、文部省がパンフレットの改訂版を出したぐらいでは追いつかない。実証主義の彼等の文化意識の中では、重信女史は例外的存在だと、肩をいからせるだけ、彼等には日本そのものが不可解に思えてくるのではないか。パリやアテネの情ないニュース。、犯罪発生率が国によって大きく違う筈は無かろうと思うのだが。 他方では、外国での日本人は金払いが潔白で、小走りに走り廻る勤勉さが、ネイテイブどもをして、目をみはらせているのではないか。国内消費物価指数に詳しく、経済伸長率の驚異的上昇の裏づけ解説の上手な、パーセンテージに敏感で、博識なトアン・ブッサールが、チップを倍も出すだけでなく、御丁重にも、3・9!!3・9!!と頭を下げて、心にもなく見栄を張ったつもりでいるから、商取引上大歓迎を、これも心にもなく、せざるを得ず、そんなお客を粗末にするわけがないではないか、或いは半信半疑で、半ば優越感さえ持つかも知れないけれど。 八ツ当りし乍ら、杯を重ねて考えてみても、今更現役の先生方を三年なり、五年なり合宿させて、再教育するヒマも金もない日本では、せめて一人一人が考えなおして、自然の法則を勉強してみる必要がある。 今年で八十五歳になり、耳も遠くなったおふくろと、生涯ワンマンを頑と貫ぬいて、広島でわびしく、自分も九十歳の峠も越えたおやじどのも、困ったことになったと思っているに違いない。小生もほんとに困ったことになりそうだな、と考えはじめてすでに二十年たって了った。現に困った事になっている事も確かである。 われを忘れて一本一本漕いでいれば、いづれはゴールに着くことは分っていながらも、一本づつ渾身の力をこめて引き切ったあとの大きな泡を、心地よく見送る余猶もなく、あたふた、バシャバシャやっている毎日である。ゴールは無心に近づいてくる。 卒業四十周年の記念と名のつく文集に、こんな文章が未代まで残ること自体が、困った事だと思う。諸兄の健康一番御自愛を祈ります。 |
卒業25周年記念アルバムより |