7組  青木 貞夫

 

 卒業以来、軍隊・銀行・事業団体と切れ目なく続いた組織のなかの勤務から、昨年の終りに、一先ずは離れることにした。組織にももちろん好いところがあり、組織を通じてでなければ出来ないことも数多くあるが、かねて一度は自らの意思を主体とする生活を味わってみたいと思っていたからである。

 生活の区切りの一つとして、夫婦で海外旅行をすることにし、好い季節に美しい風光に接したいという思いから、オーストリアとスイスを中心とするツアーを選び、五月下旬、十一日間の旅に出た。旅で過ごした日々はいずれも充実したものであり、それぞれに心を豊かにしてくれた。殊に、ウィーンからザルツブルグを経てインスブルックに向う列車の窓から眺めた田園風景は素晴らしかった。時は風薫る五月、萌えたつ牧草の緑、微風に輝くすみれ、ライラック・菜の花などの色彩、そして豊かにきらめくドナウの流れが、次々にあらわれ次々に去り、さながらよい音楽を聞きつゝ公園の中をゆくの感があった。

 また、まれに見る好天に恵まれた一日、ユングフラウを目指す登山電車から相い対したアイガーの北壁の巨大さには、美しさを超えて威圧感さえ覚えたのであった。
 このツアーのメンバーは、私どものような旧婚旅行組五ペアのほかは、出発の日が大安の日曜日の翌日ということもあって新婚組が七ペアおり、その他の中間年齢帯はゼロという構成であった。このような時期に、このような旅ができるのは結局このようなメンバーであるということなのであろうか。

 時がたつと、メンバーの間に打ちとけたムードが流れ、食事や車中では若い人たちとも接する機会が多くなった。話しあってみると、彼らはそれなりにけじめを持ち、また好感を与えるものをもっていた。そしていずれもがこれからの人生への期待に目を輝かせており、そうした彼らを見るのはまた楽しかった。私どもは彼らのような新婚族行はできなかったが、ともかくもろもろの起伏を越えながら、健康で現在の日を迎え、このような旅に出られたのはまずは幸わせというべきであろうと、あらためて感じたのであった。

 それにしても、彼らのこれからの人生はどうなってゆくのだろうか。今後三、四十年の歳月のあと再び私どものような旅の機会を持ち得るのだろうか、旅の仲間として切に彼らの努力と好運を祈りたいと思う。

 さて、組織を離れた現在、すべてにおいて自らを律するのは自らである。いかにして自らを律し得るかが「自由」の価値だと思っている。願わくば旅で過ごしたような充実した日々を送りたいものである。

 


卒業25周年記念アルバムより