7組  松井 利郎

 

 湘南カントリークラブで倉垣さんから「四十周年記念文集の委員長になったので何か書いてもらいたい」とのお話がありましたが、クラスの中には学識経験共に優れ社会的になおご活躍中の錚々たる方々がおられるのにわたしごとき者の出る幕ではないと考えお断りする積りでいたところ募金会の集りの時又「立派な文集を出すから是非寄稿して君の名を文集に刻しておきなさい」と云われ、その後木村久雄さんからもお電話をいただいて友情もだしがたく遂に逃れられぬものと観念してこの拙文をしたためました。

 わたしももう齢六十八歳、近くグランドシニアーとなる年齢となりました。がお蔭様で毎日朝六時半頃鎌倉の家を出て巣鴨の事務所に八時半頃到着し、それから一日中事務をとったりセールスに飛び廻ったりして、大体七時頃帰宅するという平凡な生活を比較的規則正しく送っております。

 健康について特に何かやっているということでもありませんが、ただ次の言葉を或る時読んで大変心を打たれ、その時以来手帖に書き留め折にふれて読み返し心の糧としております。

 「青春とは心の若さである。信念と希望に溢れ、勇気に満ちて、日に新たな活動を続ける限り、青春は永遠にその人のものである」。この文の作者は知りませんが、読み返していると本当に心の底から若さが湧きでてくるような感じがします。

 「君は年より若く見えるな」とよく云われます。多少お世辞もあるのでしょうが満更悪い気もしません。本当のところわたし自身も同年の人よりは気分的に若いなと思うことがあります。
 わたしは中学を出て一ツ橋に入るまでに五年ほど道草を食いました。従って五年遅れて入学し仲間に入れてもらいましたが、卒業して就職し会社に入ってからも同期生はこれ又大体五歳位若い人達で、昭和十一年入学以来今日までずっと五歳位若い方々とのお付き合いに終始してきました。云わば人生の大半を五歳若く生きてきたようなもので、これがわたしの若さの原因で、つまりは十二月クラブの皆さんのお蔭であると云っても過言ではないと常々思っています。運命はこんなものなのかなと時折考えることがあります。

 次の言葉も又忘れ得ぬものの一つです。

 「本を読みながらノートを傍らにおいて覚えておきたいと思う意味深い箴言をそこに書きとめておくことは好ましいことだ。いつか気持がふさぎこんだ時などこれを眺めれば書きとめられた賢者たちの思索は生きてゆくのを助けてくれるであろう」。

 この言葉を読んだ時から書きとめておいたノートが今ではもう三冊になりました。そしてこれを読み返してみると、その時々の自分のものの考え方がよく分るような気がします。
 若かりし頃は企業に働く者の心得とか、管理者としての心構えとか、商売の要諦とか等々ビジネスに関するものが多かったのですが、最近では健康についてのものが多くなっています。今ここにあらためてページを開いてみると先哲のいろいろの言葉が書かれており、そしてそれらは身体に関するものと精神に関するものとに分けられるようです。

 身体についてはまずある禅僧が「正直・粗食・日湯(毎日風呂に入る)・ぶらりぶらり(ぶらぶら遊ぶことではない)・屁をする」と云っていますが、これと同じく「健康は正しく生きてよく眠り粗食少食酒もほどほど」であり「晩酌は三合以下、酒休二日を守れ」となり、その結果快眠快食快便と絶好調となるわけです。
 これを多少医学的にみると胃袋の1/3は食物1/3は飲物1/3は空気、これが正常の状態で、このバランスがくずれると不調となります。

 「長寿十則」というものの中の一つに「一剣を磨く」という言葉がありその説明に「剣は人生創造の秘器、遊び道具ではない。使いすぎず、さびつかせず、古刀ほど手入れを念入りに。」と。
 果して如何なものでしょうか。わたし自身は既に「人畜無害・不能長寿」といた年頃になったものと思っていますが。精神に関するものとしては何をおいても「正直であれ、毎日を正しく生きよ」「過去を悔やんでも役に立たぬ。かといって末来を案じて益するところはない。現在をこそ最善、最大、最強に生きることである」。

 日経連載「社長の条件」も「身体がん強で先見性判断力に富み、見識人格とも申し分なく、その上国際人としての資格も備えておくことが必要」と極めて厳しい条件がつけられていますが、第一に挙げられるのは何といっても「健康」です。「健康でなければ良い知恵は浮かばず、知識は役に立たず、文化は輝かず、富は無用なり」と昔の人が説いています。

 さて、果して然らず健康であれば長寿は約束されるものなのでしょうか。健康は医学をもってすればそれはそれなりに維持することも出来るでしょうが「長寿は天命であり、生れつきのものであるから、人為の及ばざるところである」。
 かの有名な徳之島の泉重千代さんも「長寿の秘けつ?寿命はお天とう様が決めて下さることでな。わしにも分らん」と云っておられます。
 それにつけてもわたし自身「長寿自戒」し、「上手に美しく年をとってゆきたいもの」と念願いたしておる今日この頃でございます。

 


卒業25周年記念アルバムより