(一) |
人の命の旅の空
憧憬(あこがれ)遠く集ひより
燃ゆる緑に駒とめて
伝統(つたえ)の小琴(おごと)まさぐりし
三年(みとせ)の浪よ幻(まぼろし)の
光茫(こうぼう)今しうすれては
おだまきかへす術(すべ)もなく
春永遠(とこしえ)に恨あり
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(二) |
隅田の誉(ほまれ)多摩の栄(はえ)
さては暗きに泣きし恋
今小川辺(べ)に佇みて
回顧の夢に耽る時
ほぐれて高き土の香や
白光(びゃっこう)あわく東風(こち)吹けど
三年(みとせ)を偲ぶ草々に
あゝ断腸の想(おもい)する
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(三) |
明日は別れて西東
乾坤いかに荒ぶとも
回(めぐ)る潮の末かけて
正しく強く幸あれと
かたみに契る胸と胸
甘美(あま)き情の餞(はなむけ)に
求道(ぐどう)の友と汲み交し
涙に白む今宵かな
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(四) |
あわれ果敢(はて)なき人の子よ
まどかに眠る揺籃(ゆりかご)の
塒(ねぐら)の森は朝暁けて
亦旅烏逝く雲に
嘆きの色の深くとも
若きに滾(たぎ)る血のあらば
いざ声そろへ歌はずや
名残り尽せぬ此の庭に |