7組  金原 昌夫

 

 今から十数年前、十二月クラブ海外旅行同行会は、カナディアンロッキーを見て、ナイヤガラ瀑布見学に向いました。その折の添乗員の説明によれば、この有名な滝は、今から四〇〇年くらい前に発見されて今日に至っているとのことでした。四〇〇年前といえば、こうした大瀑布があっても、何分アメリカとカナダの国境で、しかも大森林地帯のまっただ中だったであろうから、容易に発見できなかったのも無理からぬことと、その説明に疑義をさしはさむ者はいませんでした。しかし、私はフトその説明をいぶかしく思いました。というのは、あれだけの大爆音をたてているのに、しかもエリー湖やオンタリオ湖には人々が往来したであろうし、滝から流れた水が川となって流れていれば、その川を遡った人もいた筈ではなかったのか。それでもこの大瀑布の存在を見出せなかったというのはおかしいではないか。とすれば、あるいは四OO年前にはナイヤガラの滝はなかったのではないか。それが四〇〇年前に突然現在の滝のあたりが陥没して、そこに滝が生まれたのではないか。滝の下流の両岸に、ハッキリ断層ができているのを見れば、なおさら突然陥没したと考えたくなります。またカナダ滝の方は流量をかなり減らして(落下地点より上流部で取水して、発電に回しています)いるのにもかかわらず、滝の断崖が年々数メートル削りとられているとの説明でした。その時は雄大なパノラマや轟音に圧倒されて、ただただ感嘆するばかりでした。

 旅を終えて、興奮もさめて、旅の想い出にひたるようになって、添乗員の言葉が気にかかるようになり出しました。流量はまだ多すぎるのか、岩盤がそれに耐えられないのか。こんな事を考えている間も、滝はじわりじわりと侵蝕されているだろうか、心配です。では、誰かこの滝の後退を防ぐ者はいないか。このままではナイヤガラはないやガラになって了うなどと冗談いってる場合ではありません。

 その後、宴席などで、各方面の方々にアピールしてみましたが、中には大変興味を示してくれた方もありましたが、事が事だけに、これが成功すれば、ノーベル賞ものだといったようなキャッチフレーズ?も、ききめが薄いようです。
 ナイヤガラの侵蝕を防ぐ有志はいませんか。

 旅の想い出U

 これよりかなり古い話ですが、テレビ局の招待で、初めてヨーロッパ一周の旅に出た時でした。組んだ相棒は、私より二十才くらい年下の地方デパートの主任でした。彼は夜がくるとイキイキとして、毎夜のように夜の巷に遠征に出かけていました。そして夜の活躍の疲れからか、昼はバスに乗ると間もなくスヤスヤとおやすみです。私の方はといえば、夜はぐっすりと寝て昼の疲れをいやし、昼は乗物で一度も眠ったことはありませんでした。というよりも、次々展開するヨーロッパの森羅万象に、楽しくて楽しくて、とても眠っている暇などありませんでした。それで夜は、次の日に備えてぐっすりと眠るという寸法です。旅も終りに近づいて、夕方一杯やっている時、彼がいみじくも言い出しました。「あなたは一体何のために来たのか」と。私も「あなたは何しに来たのか」と反論して大笑いでした。
 恋さまざま願の糸も白きより 蕪村
 と思うことしきりでした。

 ところで、この頃の旅は、相変らず、夜はお薬(百薬の長)を程よく飲んで、ぐっすり眠るのですが、気力にもかかわらず、乗物で時にはうとうととすることもあり、年には勝てそうもありません。ここで十二月クラブの海外旅行の皆さんに御詫び申し上げたいのは、パリやルツェルンなどのオプションの夜のショーで、欠礼したことです。それらのショーは前に一度見たことも原因の一つでしたが、血圧もやや高めだったので大事をとったことでもあり、前述のような理由もありました。何卒御寛恕の程をお願いします。

 旅の想い出V

 ロマンティシェシュトラッセの旅は、光永さんも戸部さんも元気で、それはそれは楽しい旅でした。その折拾った拙句です。

今のさき時雨れておりし仔羊ら   金原秋水子
時雨去る牧草に牛点じては
時雨れても霽れても牧の広さかな
初時雨つたう古城に吸われけり
初時雨古城濡らして行きどころ
朝霧やおとぎの如きチロルの灯

 また人生の旅に拾ったもの

走馬灯裁くも人裁かるゝも人      (如水俳句会)
ふまれてもふまれても草紅葉かな   (〃)
汽車暖かければ方言おもしろし     (〃)
寡黙とは弱き心か石蕗の花       (〃)
夜寒さに柱の細るおもいかな      (〃)
銀漢を浴び旅愁とも悔悟とも
画廊出る画に重なりて石蕗の花
秋桜ついに虚空を掴めざる
時雨る夜は早めに燗も熱うして
葉牡丹の位置定まりてあたたかし
嵩塚の影や湖までモネの留守
稲架の影紫紺の湖の水際まで
餌りんご先づ近づくはやもめ鳥
鵙たける狭庭を憂さの捨てどころ
元朝の湯槽あふる波紋かな
物いわぬ春洋傘に雨の情
うそ寒の部屋透しくる木曽なまり
湖涼し車窓離れて又添いて