5組 小林 悦生 |
昨年の秋、私は米国のアメリカンフットボールのプロチーム、シャトルとデンヴァーのオープン試合を東京ドームに見に行った。三万円の高額な入場料にもかかわらず観覧席は超満員、然も客層の九九%が学生らしき所謂若者達であった。試合開始前より、到る所で、ビールを飲むやら、大声で騒ぐやら、とてもスポーツを観賞する雰囲気ではなかったが、定刻になり、先ずセレモニィとして、アメリカ人の歌手が、星条旗の前で米国国歌を唱い出した。私は当然のこととし、起立したが、誰も立たない。結局、私とアメリカ人の観客だけが、パラパラと立って居るだけ。中には、私の方を指差し、何やら嘲笑して居る者さえ居る。今度はゲームが始まると坐って居る全員が波を打ち立ち上がり、一斉に手を挙げる所謂ウェーブというやつが何回も始まった。私は阿呆らしいので無視し坐って居たが、逆に廻りから激しい目付きで睨まれてしまう始末、私はすっかり気分を壊し、途中で帰ってしまった。それにしても、近頃の若い者は、日頃から日の丸、君ヶ代を軽視して居るためか、他の国の国歌にも、敬意を表することを知らず、アメリカ人も呆れた表情をして居たが、大変恥ずかしい思いをした。 最近の月刊誌で、或る文化評論家が、 私は、平和で経済的に恵まれ過ぎる日本の将来を案じながら、東京ドームを後にした。然しながら、これは東京ドームの若者だけでなく、日常生活でも、近頃の若者達の目に余る姿を多く見受けるので、以下思いつくままに書いて見たい。 (1) 最近、長年のアメリカ、ヨーロッパの駐在生活を終え、日本に帰国した私の知人が、久し振りの日本を見て一番驚くことは、凡ゆる盛り場に、若者達が氾濫して居ることだと、皆が言う。然も、欧米では中高年の客層で占められて居る高価な音楽会、ミュージカル、スポーツ、そして高級レストランなどが、若い男女達で一杯。一体、そのお金はどこから出て来るのか、そして、彼等は何日勉強して居るのか。日本の大学が、いくら入学試験さえパスすれば、あとは勉強しなくても、やって行けることになって居るとは言え、欧米の学生達と余りに違うことが、不思議に見えてならないそうだ。 (2) この春、明治大学法学部で、卒業予定者の四分の一、二五七人を落第させたが、学生達は、徒党を組み「落ちたのは、確かに自分達が悪いが、落第とは余りに無慈悲、何とかして欲しい」と陳情、親達も出て来て「大学側は、全く愛情が無い。余りにひどい」と、強硬に抗議が有った由だが、勿論、大学当局は突撥ねたらしい。どんな参考書を持ち込んでも良いとの条件の再試験に対しても、白紙答案が多かったとは、全く呆れた大学生達だ。然も、週刊誌に、大学側の談として「我が明治大学は最近偏差値が上がって居り、上には東大と京大が居るだけで、大体一橋と同じ位だ。学生の質は決して悪くない筈で、只勉強をしなかっただけ」と豪語して居る記事が出て居たが、明大と同格と言われるとは、一橋も落ちたもの。 (3) 又、同じくこの春、防衛大学を卒業した学生の内、九十四人(四人に一人)が、任官拒否したが、明らかな税金泥棒である。いくら入学時、卒業して任官するかしないかは本人の自由とする制度も悪いが、月謝、衣食住すべて無料、小遣まで貰い、ハイサヨナラでは余りにも無責任。卒業までの経費一人当り約二〇〇〇万円を本人負担にすれば、入学する者が激減するというなら、せめて引き抜く企業に負担させるべきではないか。同じ戦敗国の西ドイツは、早くから徴兵制度すら実施して居る。 (4) 湾岸戦争の最中、テレビ局の若者に対する街頭取材で、「若し外国が、日本に侵略して来た場合、どうするか」に対し、全員が「真先に逃げる」、「自衛隊の派遣をどう考えるか」に対し、全員が「自分が隊員だったら断固拒否する」と答えて居るのが目立ち驚いた。 (5) 最近の月刊誌に、或る医学博士の心理学者が「朝シャンは国を亡ぼす」なる一文を書いて居たが、主旨は、「現在、学生とサラリーマンの約四割が、毎朝必ずシャンプーをして居るが、たとえ学校、会社に遅れても、シャンプーをしないと、不安で外出も出来ない。異常な清潔症候群とも言えるが、これは人間の動物性をすべて拒否しようとする病気である。然もこの病源は、登校拒否、出産忌避、人間嫌い、無気力などとも深い部分で繋がって居る大変困ったファッションでもある」。非常に面白かったが、同時に全く不可解な病気だ。 (6) 若者達の3K(きたない、きつい、危険)と言われる職業を忌避する傾向は、益々強くなって居るらしいが、これさえ無くなれば、人手不足は、かなり緩和される筈。少しでも楽な仕事で、然もより多い収入を選びたい気持も分からぬではないが、このままでは不法入口の外国人労働者が増えるばかりで、西ドイツの失敗が日本でも起る事は間違いない。諸君が背負う日本の将来の問題として、君達自身が長い目で考えて欲しい。 (7) 近頃の若者が、ガールフレンドをエスコートする場合のパターンに、@アッシイ君(女性が遊び歩くための足、即ち自動車の運転を引受ける)、Aメッシイ君(食事のお相手をする)、Bミツグ君(一生懸命女性に貢ぐ)の三つが有るらしいが、彼等は必ずしもセックスの御褒美などを頂かなくても、奉仕することが楽しいのだそうだ。最近は、それだけでは物足りず、「どんと俺について来い」的な男らしいタイプも彼女達のリストに加えられて来た由。彼女達も欲が深いが、「男達よ、もっとしっかりしろ」と言いたい。 (8) 先日のテレビニュースで、豪華な一流ホテルの年末クリスマスイブの室は、早くも予約で一杯。然も大半が若いカップルらしい。解説によれば、当日の夜、男はタキシードを着て、レンタカーのフェラーリに乗り、高価なティファニィのアクセサリーをプレゼントとして携え、ホテルのレストランでショーを見ながら食事をして室に入るのが、最も格好良いコースということになって居るが、大変なお金が吹飛ぶらしい。最後のテレビの場面で一人の若者が『大体クリスチャンでもないのに、クリスマスの夜、一年働いて貯めたお金を一夜のセックスのために使ってしまうとは馬鹿の骨頂だ』と悲憤慷慨して居たが、その通り。 (9) 警視庁の調べでは、最近激増して居る自動車事故の殆どは、乱暴なトラック運転手と無謀な若者ドライバーが原因だそうだ。えらいスピードで割り込む者、渋滞すると直ぐ路肩を走る者、九九%が若者である。 (10) 最近、電車やバスで、老人に席を譲る若者が、殆ど居なくなったが、更に近頃はシルバーシートまで占領し、漫画本を読む、狸寝入りをする、女の子といちゃつく若者達が、増えて来て居る。大体、老人に席を譲らぬ悪習は日本だけで、鉄道会社が已むなくシルバーシートを作ったものだが、そこまでも平然と占領し始めるとは。おまけに注意すると、汚い捨てゼリフを吐く女子大生らしき女性まで居るが、モラルの低下も遂にここまで来たかと情けなくなる。 (11) 最近「力ード破産」が激増して居るらしい。クレジットカードを何枚も濫用し、気がついた時は、もう遅い、返済不能の額が何百万円にも達し、簡単にお手上げとなる。特に、女子大生、若いOLに多いらしいが、平均五〇〇万円、中には一〇〇〇万近いのも居ると言う。テレビ解説によれば、彼女達は、一向に罪の意識が無く、破産宣告すれば、一切チャラになる程度にしか、感じてない者が、殆どであるらしい。如何なる神経か。 (12) 最後に、最も悪いことは、命を粗末にすることである。幼児誘拐、女子高生リンチなどの残虐な殺人事件は論外としても、自分の命も軽視する例が多いのは、全く不可解。例えば、旅行会社の話によると、最近女性の一人旅、然も格安で手に入れた往復の航空切符だけを手にし、小遣も余り持たずに冒険旅行を楽しむ女性が激増して居ると言う。然し、待ち受けて居るものは危険一杯、甘言に乗り乱暴を受けた例は、大変な数にのぼるらしい。更に、それだけでは済まず、台湾、韓国、パリ、米国その他で、次々に惨殺された被害者達の悲惨なニュースには標然とする。パキスタン河下りの早大生グループなどは、その平和ボケ、無謀、無知に呆れる。 (おわりに) 以上若者達の欠点だけを並べてしまった。勿論、私は彼等にも長所が有り、又、すべての若者が、そうだとは思わないが、彼等の全体像が、いびつの形にゆがんでしまって居ることは確かであろう。では何故このような傾向の若者達が育ってしまったのであろうか。私は、十年前、ビルマの戦友であり長年小学校の校長を務めた親しい友人より聞いた話を思い出す。彼は戦後失われつつあった道徳教育に非常な情熱を注ぎ、児童達に接して居たが、当時は圧倒的な勢力を持つ日教組の教員達が、文部省の若手グループの強力な支援のもとに、過激な活躍を続けて居た時代でもあった。彼等の狙いは、日の丸、君ケ代、そして従来の道徳観念を一切抹殺してしまうことに有り、茲に詳述することは避けるが、一例を挙げると ○ すべて児童の自由意思の尊重育成を優先せよとの指導要領が、文部省より来て居るので、社会モラルの教育、例えば「老人に席を譲れ」が如何に大事なことであるかを教える者が居ない。(私の友人談) の通り、小学校教育は、急激に移り変って行った。 若し、これに反対する教員が居れば、村八分に会い、校長、教頭と雌も激しい吊し上げを受けるなど、その横暴ぶりは、どうしようも無かったらしい。私の友人も、初めは彼等と戦って見たが、何しろ多勢に無勢、さすがの熱血漢も匙を投げてしまったと言う。そして最後に、道徳を教わらずに、上級学校入試のための勉強にのみ追われる子供達が、十年先にどんな若者達に育って行くかを考えると心配でならないと、涙ながらに語ってくれた。 幸い、最近の日教組の動きは、すっかり弱体化して居るらしいが、問題は、十年前私の友人が指摘した通り、当時の子供達が今日の若者に育ってしまったのである。そして更に、彼等は果たしてこれからの日本を背負って行く中堅層に成長してくれるのだろうか。恐らく容易でない。大変時間もかかると思うが、或いは軌道修正の上手な日本人のこと、意外に早く器用に立ち直って行ってくれるかも知れない。そうなるよう祈りつつ筆を措く。 |