5組 大野 正庸 |
『小生古稀をすぎること既に五年、相変らず田園の酒屋にあって老妻と二人、所謂「沈香も焚かず・:云々」専ら風雨野鶴を友とし只管馬令を重ねるの日々を送る身、今更貴顕紳士の前に老醜を曝すに忍びず…・:』とはあるOB会開催の案内に対する返信の一部である。些か気の進まないことを誇張し過ぎた感じがして高齢化に伴う依枯地さをみづからも感じるところがある。 さて我々は栄光ある東京商科大学を卒業して早くも五拾年の歳月が過ぎようとしている。 ここで視点を変えてこの物質的に恵まれた国民生活を凝視した時、年を逐って上下を問わず、又男女の差別なく人間性の荒廃を突出して感じさせられてならない。そしてそれが何に基因するものであるかはにわかに結論出来ないが、周囲を見廻した時、そして種々雑多な面に亘る、種々雑多な方法によるマスコミによって知らされるものは、事の善悪はとも角として、金銭獲得を以って至上命題としていることが、人間性を荒廃せしめた、そして現在も又荒廃せしめつつある最も大きな原因をなしていると言うことのように思われてならない。 今の世相と言うか時代相は衣食足りて礼節を知るどころではなく欲求の追及に専念し免れて恥なしの風潮が瀰漫し、極端なケースでは他を陥れても己の欲求を充足することを以て人生の目的としているが如き徒輩すらも見受けられることは真に寒心に堪えない。 然し乍らこのような風潮は残念乍ら意外に我々の間近かなところにも少なからず見受けられ、欲求実現に成功した者こそ勝者であり然らざる者は敗者であるが如き評価が、些細な会合に於ては気安さも手伝って、時を得顔に巾をきかし、既に老境に入り本来ならば人生の達人たるを心掛けて然るべき人々が、目糞鼻糞談義に打興じ又これ等の手合いが羽振りをきかしているさまは如何にもにがにがしいものであり、高齢化も手伝ってこの種の会合殊にOB会等という代物には拒否反応を以て答えるケースが多い。 さて去る四月七日の東京都知事の選挙について私は局外者であり、とや角言う筋ではないが大きな関心事ではあった。何と言っても首都の最高責任者を選ぶ極めて重大なイヴェントであった筈であるにも拘わらず誠にお粗末と言う外はない実体を見せつけられた訳で、これについて若干の疑問点或いは問題 第二に政策論争と言うほどのものはなく実現性に乏しい急仕立てのお題目の羅列にすぎないと言う感じが先に立った。 第三には選挙そのものが都民不在の感が強く結局は利害関係者の泥仕合いと言っても過言ではない。 第四に中傷合戦は選挙につきもののように思われるので多少のことは已むを得ないとしても、これ又寸鉄人を刺すというような期待は出来ないにしても余りにもとってつけたという感じで迫力がなかった。 最後に何とも情けなく感じたのは、選挙の結果が一般的には予想されていたにも拘わらず負け組と目される側の有力者が如何に最終的には勝利を収めるが如く感ぜられる言辞を弄し、而もそれが政治的発言であるにせよ真剣味がなく適当にお茶を濁しているということが明々白々であったことである。 それにしても都知事候補者ともなればそれなりの見識を持った人物を想像するが、候補者十六名のうち若干の者を除き毎度のこととは言え多数の有象無象が立候補する真意が那辺にありや素人には解せないところである。 更にこれ等の人々がよい機会と言わんばかりに政見放送、略歴放送という名目で公共放送のマイクを使って都民ならぬ我々の前に出現したが、民放ならばとも角、受信料で運営されている公共放送は今少しキメ細かい運営をして欲しいと皮肉の一つも言いたくなるのは筋違いであろうか。 ここで極めて印象的と言うかこれでよいのかと言う思いが強かった一、二の点をあげると、一つには日本政府の対応の仕方である。 然るに政府の要路に在る者が不測の事態に際会して何の信念、対策もなく甲論乙駁、右顧左晒専ら自己保身に汲々として寧日なく、曠日弥久何等為すところなく右往左往、結局参加諸国の求める儘に多額の資金援助に応じたるに止まり挙句の果てに諸外国のあなどりを受けるに至っていることは国民の一人として腹だたしさすら感じるのは不当であろうか。 今回の湾岸戦争は軍事行動こそ一応矛を収めたかに思われるが所謂中東諸国間に於いては政治・経済・宗教・人種等々極めて広い範囲に亘って重大な問題の解決を迫られていることを忘れてはならないと思う。 一方目を北の方ソ連邦に転じるとこれ又社会主義国としての開国以来最大の危機に直面して過日はゴルバチョフ大統領が我が国に迄援助を求むべく心ならずも渋々乍ら来日した模様であるが、誇り高い超大国ソビエト連邦の大統領としては恐らくさもありなんと思われる。 これに対し日本政府の関係者は日ソ友好の好機と仕立て、派手なパフォーマンスを以て対応したが案の定予想通りの稔りのない結末となったことは御承知の通りである。 徒然なる儘に思いつきを記したが次回の記念文集に於ては精々筆致に磨きをかけて輝かしい国際国家日本に住む幸いを謳歌する明るい寄稿をさせて貰うことを夢みつつ筆を欄くこととする。 |