3組 坂田 建樹

 

 我々もこの年齢になると、当然の事乍ら、相続の時期など考えて各自財産についてその整理を行ったり名義を変更したりして、少なくとも相続税の合理的負担軽減を計る様努力している。六十年以降急激な土地価高騰が始まってからは、銀行でも証券会社でも相談窓口や小冊子を盛んに作って毎日の様に情報を提供してくれる。

 定年後の自主生活を送っている方とオーナー中小会社の経営者生活を続けている者と立場の違いはあるが、一般に財産の継承をめぐってその対応が難しくなってきている事は確かで、中でも相続税の仕組みは兎も角、土地建物に対する評価額が非常識に高くなって、相続人は大変な苦労をしなければならないことになった。昔は山の手で平均的な生活をしている人ならば、その所有する土地家屋を相続しても納税は何とか出来たものだが、昨今の馬鹿馬鹿しい土地高騰では、所謂相続税評価額(路線価による計算)が年々確実に上がり、税率のみならず課税対象額が問題なのである。一寸私個人のデータを見て頂こう。

 私が所有している土地は、親からの相続財産である約一七四坪(五七五平方メートル)で現在四人の共同登記となっている。即ち四分の一の四十三坪が対象である。住宅はこの土地上に建設した七階建てのマンションビル最上階の七階である。この外に隣接地に四十坪程所有し、その上にも会社名義の五階建てビルが作られ、会社が全館使用している。この所有地は新宿区に在り、東京都内では高い方に属する。路線価で云えば平成二年度坪当り五八三万円で昭和六十一年度の一四三万円に比べると、五年間で約四倍になっている。従って土地だけでその相続税評価額は、ざっと五億円になる。今後土地の実勢価格が下る様なことがあっても、路線価は実勢価格に近付ける様年々上げる方針だから益々評価額も高くなることは確かだ。

 更に我々の問題として、土地以上に悩むものがある。それは中小会社の自社株の評価額である。自社株(特に同族会社の場合)の評価を下げる色々な対策が今迄考えられて来たが、税逃れの目的のみで実行された対策は税務当局から大概すっぽり網をかけられてしまったので、税法改正後は大方純資産評価方式となってしまった。

 従って会社の資産計算上土地は帳簿価格ではなく、相続税評価額が適用されるので、場所によって高い土地に在る会社の一株当り評価は大影響を蒙り、額面五十円の一株評価が過小資本の場合は数万円にもなってしまうのである。而も中小企業のオーナーは筆頭株主で通常三分の二位は所有しているから、相続となると大変大きな財産なのだ。尤も之は土地と違って事前準備として毎年少数宛贈与という形で名義を換えてゆくことは出来るが、贈与税も大きく、余り小口ではやらないよりやった方が増しだという程度に終ってしまうかも知れない。

 新商法では株式会社の最小資本金を一千万に規定しているからその面では増資をせねばならず、増資すれば相続財産が又増えると云う悩みもある次第。

 一千万円資本金で五十円額面ならば二十万株、オーナーは半分以上は所有するだろうから、一株当りの評価が仮りに一万円と出れば、オーナーの財産評価は二十億を越えるだろう。諸々の税額軽減措置があるにしても計算上から算出される税額は七〇%の十四億以上となるであろう。こんな数字を見ると財産として所有している重圧に負けてしまいそうだ。では手放すことが有利だろうか。又出来るだろうか。而して事業用として使用している土地建物は、簡単には手放せないし、自社株に至っては買手があろう筈がない。土地を売る為に事業を止めねばならず或は何処かへ移転するか。何れにしても土地高騰の結果であり、近郊も同じく上って来たのだ。一般にだんだん住宅を郊外や地方に移さざるを得なくなってきている。緑や空気を求め、一戸建を求めるだけでなくて、都会では持たなくなってきているのである。通勤の足は遠くなる許り、事業についても一代二代と継承されてきたオーナー会社は、資本と経営の分離もなくこつこつと築き上げて来た財産だから未練もあり、融通性はない。だからおいそれとは死ねない。

 あれやこれやと考えている内に、まあもう少し世の中の推移を見極め乍ら、複数対策を実行し、相続人に心配かけない道を開いてやりたいと思う処に落ち着いてしまうのだ。極端なことを云えば、相続人は相続財産を拒否すれば税金の心配はないではないか。財産目当てのトラブルが多かった昔とは何と違ったご時世ではないかと思ったりしている。