6組故塩川精妻  塩川 昌子

 

 夏水仙一輪咲きて初孫誕生

 主人が亡くなって翌々年の八月末、初孫が生まれました。全く生まれ変りという言葉がぴったりの、それは亡き人にそっくりの男の児でした。まだ残暑きびしく病院へ通う私も汗だくで、ふうふう云う八月の二十八日でした。
 丁度生まれたその日、裏庭に一輪の夏水仙が咲きました。別の呼び名があるかわかりませんが、私は勝手にそう呼んで居ります。細長い棒の様な葉に、真白な花びらも細長い六弁の楚々とした地味な花ですが、真直ぐに延びた茎の上に咲く一輪の花はとても力強く忘れられないものとなりました。
 それから毎年不思議に孫の誕生日の頃になると忘れていたこの花が必ず咲くのです。その度に自然の移り変りの神秘に驚いて居りました。孫は悠介と名付け元気に健康ですくすくと育ってくれました。歩き方、物の食べ方などすべての動作が亡きおじいちゃんにそっくりで、又性格もよく似ていて、気が短く、せっかちで外出の時など一番に玄関に出て、まだかまだかとせかせます。亡き主人もいつもそうでした。怒りっぽい反面、すぐケロリとしてしまうところ、喜怒哀楽の感情を百%もろに表すところなど全くよく似たものと皆で苦笑いをして居ります。ママに叱られて大声で泣きわめいても一寸したことで、すぐ忘れて鼻歌など歌ったり全くひょうきんなユーモラスな子供です。とても孫を欲しがって居りました主人が生きていたらどんなにか可愛がったことでしょうと残念でなりません。私も一人になって丸十二年、孫も九才となりました。今は私の生き甲斐でございます。

 昨年の夏は、天候の関係か葉がすっかり弱り花は駄目かなとあきらめて居りました。八月二十八日、東京の孫の家で誕生会を祝い、翌日家に帰って来たところ、何と真白い花が一輪咲いているではありませんか!!うれしくなって思わず歓声をあげ、早速水をやりました。夏水仙はやっぱり孫の誕生日の花なのだと何ともいとおしくなりました。昨夏は茎も葉もあまり勢いはありませんでしたが、九月に入っても背丈の短い花が次々と咲きました。今年は夏に水を絶やさぬ様に気をつけてよい花を咲かせ度いと願って居ります。これからも毎年孫と共に年を重ねていく事でしょう。孫が健康で無事に成長してくれる様、この花と亡き主人が守ってくれる様な気が致します。

 最近になって、亡き人には充分尽くし看護もして悔はなしと思ったり、もっと早く体調に気付いて居れば、ああもし、こうも出来たのにと悔いてみたり、又こんなに私だけ長く生きてしまって「パパごめんなさい」と詫びてみたり、もう少し悠介の成長をみ守らせて下さいねと遺影に手を合わせて願ってみたり、心の揺れる日々でございます。

 夏水仙今年も咲けり孫九才