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この度の湾岸戦争に触発されて、左に腰折なれど敗戦の思い出十題を記す。
ソ連の爆撃止んで二三日不安のつのる市街地なりけり
(ハルピンにて)
丸腰の兵隊どもは黄塵をあげて南下しハルピンを去る
(競馬場にて武装解除され)
谷合いは激流と化しあな恐ろし一瞬にして幕営地呑む
(玉泉にて)
何事の起れるにやと疑いぬソ連軍の祝砲とヾろく
(黄道河子にて)
吾もなく他もなく独り佇みて赤い夕日を見つめおりけり
(牡丹江にて帰国を待つ)
貨車に積まれダモイダモイといつわられニコラエフカに降ろされにけり
(ニコラエフカにて)
天地の連なるところ地の果か遙かに雨の渡り行く見ゆ
(シベリアにて)
地平線はるかに汽笛聞ゆなり望郷の懐いかりたてられつ
砂浜に腰をおろして声もなしなめるが如く船影を追う
(ナホトカにて乗船を待つ)
故国(ふるさと)は美はしきかな夢にも見し故国は美はし白砂青松
(舞鶴にて)
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