1組 宇野 啓三

 

 生を享けて七十三年、いろいろ思い出が尽きないが綴るには余りにも往事茫々たる状態です。

 平和、戦争、平和の歴史的環境の中で、何と云っても忘れられない事は戦争中の事ですが、三つの命拾(びろ)いの事です。一つは東支那海で米軍の魚雷に私の輪送船が攻撃を受け、すれすれで外れた時、一つはアンダマン島(印度洋とベンガル湾の境)で英印軍の爆撃を受けた時、もう一つはスマトラのジャングルの中で疲れたので隊を離れて一人で寝ている時眠りから覚めたら3m位の大蜥蝪(鰐かも知れぬ)が傍に居た・・恐らく蜥蝪に起こされた・・吃驚して一目散で逃げた・・等々四年有余の南方極地での戦争中の出来事です。

 さて話題を変えましょう。私が生きている間になるとは想像もしなかった事に、最近の”ペレストロイカ"があります。ベルリンの壁事件以来、世界の政治情勢に何か異変が起きるのかとは思ったのですが……。

 我々が生まれた頃に起きた"帝政ロシヤ"の革命共産党の成立、ソ連邦国家の成立から七十数年で急転変化している事です。そして米ソ間の冷戦状態が終了したような状態ですが、私は此の自由主義と共産主義の対立からの脱却を思う時に、予科時代の三浦新七先生のギリシャ哲学そして太田可夫先生の哲学の講義を思い出すのです。可さん(愛称)には囲碁で六目置いて何回か挑戦した時に〃へーゲルの弁証法"に就いて質問した事があるが、先生は「二つの矛盾した概念(正、反)をさらに高い段階(合)で調和し統一する(アウフヘーベン)歴史上の法則だよ」と云われた事を今でも昨日の事の様に思い出すのです。唯、歴史上ばかりでなく白然界に就いても話されたがよく分からなかった。まさにペレストロイカは弁証法的展開の第一歩ですね。何年前か覚えがないが、如水会の"武蔵野、三鷹支部"の会に出席した時に井藤半弥先生も出席されていた。私は先生に「先生はよく歴史は一回限りと云われましたね」と云ったら、先生は「よく云ったね」と云われ「歴史は繰り返すが又一回限りでもあるんだ」と云われた。先生の御存命中の事である。私は囲碁が趣味で12月クラブの碁会には月に二回(毎月の第二水曜と最終土曜)大概出席しているが・・杉浦正直幹事には大変お世話になってる・・出席の度に井藤半弥先生の、歴史は一回限りの言葉を思い出すのである。茶道の"一期一会"ではないが、囲碁も同じ人と何回やってもやる度に内容、質は違うのである。まさに一期一碁である。まさに歴史は繰り返しても一回限りである。

 さて話は変るが今回ゴルバチョフが来日したが、之は日ソ間の歴史の上で極めて貴重な一頁を画したと思う。今後両国間に平和な豊かな歴史が展開するよう念願するものである。
 以上12月クラブ五十周年記念論文集には雑な思い出話になりましたが之にて擱筆致します。

 


卒業25周年記念アルバムより