Les Fleur du Mal
悪 の 華
ボードレール
村上菊一郎訳

旅へのいざない



わが兄、わが妹、
想いみよ、かしこに
行きてふたりして住む愉しさを!
のどかに愛し
愛して死なむ、
君に似通う、その国にて!
曇れる空の
潤(ウル)む日光(ヒカリ)は、
わが精神(ココロ)には神秘なる
魅力あるなり、
さながらに涙を
透して輝ける佯(イツワ)り多き君が眼のごと。
                   
かしこには、ものすべて、秩序と美と、
豪奢(オゴリ)と静謐(シジマ)と逸楽のみ。

年月の磨きて
光澤の輝く家具は
われらが部屋を飾らなむ。
朧おぼろの
龍涎の香に
匂いを交うる珍らしき花、
麗しき天井、
奥深き鏡、
東洋風の五色の光彩(アヤ)、すべては、
そこに語らなむ、
人の心に秘やかに
そのふるさとの優しき言葉を。

かしこには、ものすペて、秩序と美と、
豪奢と静謐と逸楽のみ。

見よ、かの運河に
眠れる船を、
漂泊(サスライ)の旅を好める風情かな。
つつましき君が
望を叶えんと
世界の涯よりそは来るなり。
ーー沈む夕日は、
野邊も、運河も、
隈なく街も、塗りて飾りぬ、
風信子(ヒヤシンス)色に金色(コンジキ)に  
世は眠る、
熱き光の降りそそぐ中に。

かしこにはものすべて、秩序と美と、
豪奢と静謐と逸楽のみ。