亡き文治の「エレジー」
                            2組 佐藤幸男

 十二月クラブの畏友川崎文治君が、平成14年7月30日に逝去された。
 
 君は、豪放磊落の一面の裏に「エレジー」を嗜むという性格の持主でもあった。
 家庭的には、優しい夫人と、一男三女に囲まれ、恵まれた雰囲気の中で生活されていた。
 晩年は、大阪市立大学名誉教授・北九州市立大学の名誉教授として、悠々自適の日々を過ごされていた。
 
 当クラブの例会等にも、年に2〜3回は、はるばる北九付から顔を出され、われわれに独特かっ有意義な講義を賜り、その温顔は、準会員夫人にも大いに親しまれていた。
 君は平成13年12月発行の『十二月クラブ卒業60周年記念特集号』に寄稿され、「人生はエレジーの一生である」と述ペておられる。
 その中で、『母校のエレジー』として「依光良馨氏」作詩『紫紺の闇』の一節をあげた。
思想(おもい〕の空の乱れては
ゆく術(すべ)知らぬ仇し世に
濁流ルビコン渡らんと
纜(ともづな)解きし三寮よ
自由は死もて守るべし
 
 若き日の頃に、われわれが愛した「エレジ一の歌」の流れが聞こえてくるような気がする。
 また一方、君が愛した趣味の裏には、「十二月クラブ誌」の「趣味の欄」に挙げられた「ビール・酒・旅」があり、最後に彼の本音と思われる人生観の一端が、平成3年12月に刊行された『波涛 第二」に掲載されてある次の短歌の中に見出だすことができるのではないか。
      
      吾が秋(とき)は
      自暴自救の襞深く
      酒と麦洒(むぎさけ)
      のみぞ知るらむ
            文治
 君は一足先に、天国に昇られた。生き残ったわれわれも、いずれ近いうちに行くことになろうから、しばらく待っていて欲しい。

衷心よりご冥福を祈る。