(ぶな)の木 は 伐られた  

5組 山崎 坦

隣家の庭に 

TVコマーシャルに「あの木なんの木 気になる木」
と唄われているような木があった

こちらから見ると
年々成長して 電線の高さを越していった

ぶなの木なのだそうで 

その家の先代が 白神山地から 
か? 秋田のぶなの原生林から か?
(後者はNHK・TVで紹介放映されたが)
苗木を持ってきたものだったそうだ

老先代は既に亡くなられ  相続問題で
敷地が分割され始めた
分割され始めると
 
敷地内の樹木が次々と伐られた。

其の都度 若当主は勿論のこと

近隣の住人は心を痛めた


ご当主のぼっちゃん曰く

「あの木達は泣いているよ」と
それは 持ち主としては
なんとしても維持してゆきたいのは山々だ

あるいは行政とも相談したようだ
しかし、行政には手がなかったようだ

土地の固定資産税は莫大のはずだ

或る日
業者が動いていて
土地売却の噂が立った

矢張り維持してゆくことは
出来なかったようだ
あっという間に
小枝がら伐られ始めた

業者が容赦なく伐ってゆく
キーンキーンという
電気鋸の音

近隣の人々は木の悲鳴と
聞いたのだ

みんな悲しかった

キーンと言う音が3日ほど続いた後
巨木は幹だけに
裸にされた
あっつけない幕切れのように
裸の幹も伐り倒された
切り倒された跡地は
整地され
門も取り除かれた

110坪の更地×2
の分譲地になった

この敷地の中央に
あの亭々たる ぶなの木が
あったのだ


このぶなの木は可哀想だった

何も原生林から選抜されて
こんな都会に連れてこられて
こんな目に合わされようとは
孫娘が

(彼女は毎日 このぶなの木を見て寝起きしてきた)

切られた小枝を貰ってきて花瓶に生けた

小枝の馥郁たる新鮮な息吹を 数日感じていた

悲しかった
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