如水会ゝ報
平成3年(1991)4月 第732号 p3
[橋畔随想]
建学精神と鈴木行革審
武山泰雄
(昭21学)
「治世から乱世なしに、直ちに亡国に至るべし」
―
太平の逸楽に心身ともに惰弱と化した世相に絶望した
二十一回猛士・松陰は、
身を挺して草芥崛起の先兵として、幕末回天の礎石を据えた。
いまの日本、
まさに徳川幕府の末期にも似た症状。
確たる政治意志・経綸、それに芯のない「ドーナッツ状」の与党権力構造。
対する野党も、都知事選候補さえ選べない全身麻痺の「占領憲法タダメシ喰い」、
「ダメなものはダメ」をまさに地でゆく党がなんと第一党。
幕末当時は、
この日本も小なりとも植民地化への途を必死にハネ返えし、
自分の頭と志で民族の将来を築こうとする実践的な民族的エネルギーの若さがあった。
だが、いまは満ち足りて老成したのか、飽食の肥ったブタの国よろしく、
その醜悪さの中、
「オンナは強くなったのではない、悪くなったのだ」(新潮45二月号「反時代的“女〃差別」)。
男もダラしなくなった。
その揚句、見るに耐えない、すさまじくも、「同性の男としても恥しいの一語に尽きる」
美里ナニガシというヤカラ夫婦の男女倒錯の悲喜劇が、白昼公然と眼前にさらされる。
対するにイスタブリッシュメントの世界では、
党利党略どころか個利個略、果ては、「株屋が代議士になった」か?の政治家が横行する政界。
「浮利を追わず」が数百年の家憲・社訓だった名門大企業から
シャイロックも顔負けの“天皇頭取″が生まれる経済界。
おカネ第一で官僚化し、志を喪失した感のマスジャーナリズム。
そして結果的には「合成の誤謬」を絵に描いたような官僚陣
「省益あって国益なく、局益あって省益なし」
の揚句、天下り先の陣取り合戦よろしく、“民活″に悪乗りして第三セクターづくりで、
民のカネ数千億円をマキ上げて自省藩の拡大に血眼。
まさに
「男子廉潔の志を喪い、女子含羞の香を喪えば、一国まさに亡国たるべし」
のいまの日本の精神的荒廃と堕落。
晋作も龍馬も、小五郎も、そして西郷、大久保の生まれる土壌は、
ついにいまの日本からは消え失せたのか?
起死回生、祖国回天の業のキッカケはどこに求めるべきなのか?
畏友吉村昭君の名著『桜田門外ノ変』で知った関鉄之介、そして横浜の傑商・中居屋重兵衛。
この重兵衛こそ、まさに一橋人の心意気・経論・行動様式を、幕末回天の大業の先駆者として、
天下に啓示した真の日本男子ではなかったのか?
疑う人は、北大路欣也熱演の映画『慟天』を御覧あれ!
時代の方向を確と見定め、実業に拠って足を地につけ、
無能暴戻な官憲に抗して新しい時代を切り拓いたこの市井の英雄。
井伊直弼を血祭りにあげた彼、それに並んで幕末の志士を身を以て支え切った
下関の名門豪商・白石正一郎。
おそらく、建学当初の先輩の心の中には、こうした重兵衛、正一郎の志が脈々と流れていたことだろう。
「いざ雄飛せん五大洲」も、
海外で本社ばかりを向いての仕事、それにゴルフ、日本メシ、その上カラオケ一筋とあって、
志と経綸を失えば、一橋人も所詮、官にナメられ、政治家のオモチヤにされるのが落ち。
そう思うと、会報各号を飾る一橋活性化の諸提案も、
制度的・技術的改革に加えて、
国士的経済人、キャプテン・オブ・インダストリーの「今日的・精神的原点」への回帰・探究なしには、
画竜点晴を欠きはしないか?
と思う矢先き、まさに脚下照顧というか、
なんと目前に建学の大精神を現在に生かす好個の大仕事があるではないか。
それは“硬骨の″理事長鈴木永二先輩が
「欲得なしの祖国への奉仕の念」一筋でいま打ち込んでいる第三次行革審の大業である。
官尊民卑と特権維持という官僚の精神構造に根ざす
繁鎖桂梏化している行政の許認可制・不透明行政の打破。
民権の確立・民間の創意、バイタリティの発揮、
そして中央統(規)制からの地方の解放・その活力の再生
―― この鈴木行革審の目標・ねらいは、
遠くは中居屋重兵衛の世直しの途。
そして本学が申酉事件、籠城事件でまさにその気骨を天下に示した途にも連なる。
まさに昭和幕末のいま「日本を改造し、二十一世紀新生日本を創る」乾坤一擲の歴史的大業 ――
これが鈴木行革審の真骨項であろう。
とするならば、
本学現役もOBも、また当然中央も地方(支部)も、
そして経済界、学界、ジャーナリズム界に身を置く同門諸氏、
さらに本学出身の心ある若手政治家、若手官僚、
ヂヂイもオヤジも、ムスコも、男の卒業生、女の卒業生も挙げて、
鈴木先輩のこの大業を一橋が全体として、「組織」として応援に結集しょぅではないか。
一橋活性化・起死回生の出発点はまさに足許にあり。
一橋同人挙げてのこの大業は「二十一世紀日本の死活を賭けた」日本再生プランへの礎石ともなるだろう。
新しい松陰出でよ! 重兵衛出でよ!同人の奮起、協力を冀う心、切なるものがある。
(武山事務所代表・如水会前常務理事)