一、現地召集
私どもは昭和二十年四月廿九日に上海において召集令状をもらった。五月初めに南京で入営して新郷まで貨車で輸送され、そこから漢口まで徒歩で駄馬を運ばされた。
今から思えば既に四〇年の昔のことであり、不愉快な面は逐次消え去り、懐かしい思い出のみが残る筈である。しかし基本的な旧軍隊そのものについての疑問は、依然として鮮明に残っている。
召集された吾々は中支において恐らく最後の新兵であったものと思う。たゞ吾々は、戦時下において、その時まで召集されなかった点から見て、弱兵中の弱兵が大部分であった筈である。その弱兵が軍服を着せられて、数日間災天下の南京を歩き廻り、浦ロから鮨話の貨車に乗せられた。