九 長江下り

 私は幸い皆と一緒に大きな達磨船に乗って揚子江を南京まで下ることになった。船は積んでいた石炭を下ろした許りとみえ、船底には石炭の粉が一面に敷かれていた。私はこの船底に寝て、マラリヤに通例の間歇的に襲ってくる震えと、四〇度を超える熱発と闘っていた。昼間は他の者は甲板に居るから船内は私一人だけである。食事の時間には起きるが、後は全部横になっており、今迄の睡眠不足を取り返すように絶えず眠っていた。例え石炭の粉で真黒になったとしても、行軍中の睡眠不足に比べれば船底の生活は正に天国であった。