俳 壇 往 来
 
「黒揚羽と会いに」

 この句集は14頁からなり、7組 坂本 保君の俳句に長男冬彦君がペアーの対句を詠んだ 俳句集である。
両君合せて140句から。

   坂本 保(詩朗)       坂本冬彦    
 冬銀河
機影音なく
街眠る
    冬銀河
見上げ父の気
浴びており 
       
 海峡を
航(ゆ)くとき春の
音うねる
    海峡に
育ちし父は
耳澄ます 
       
 露のなか
起てばゴッホの
髯の人
     ひまわりや
一見ゴッホと
なり止まる
       
 路地裏の
師走第九が
流れくる
     一日を
決算し生く
師走かな
       
 虫の夜は
妻と昔を
語らなむ
    たわいなき
茶話妻(め)を愛す
日脚伸ぶ 
       
爽やかや
ひとり良妻に
溺れおり 
    六十路へと
学びの夢は
空を飛ぶ 
       
凍天を
カンバスとして
夢 描く 
    青き田に
希望という風
吹き渡る 


7組 兼子春三(生々)

晩節を 汚さず生きむ 初詣
歌始 大御心を  その侭に
大寒や 月皓皓と  下駄軋む
日本衛星 負けじと 翔(た)ちて弥生堂
極月や 地球の臍(へそ)の 地震九度
    (龍耳句集・平成17年より)

4組 中西光枝(故中西鋭君夫人)
 水仙
千あらば 千のゆらめき 野水仙
岬めぐる 水仙の波 十重二十重
雪中花 荒磯に 日ざしやわらか
    
野水仙 過ぎゆく 貨車の蒸気音
雪中花 海鳴り汐鳴り 岬に立つ
     (註・雪中花一水仙の別称)