3組 宮下八朗 |
最近の科学技術の成果と、その将来の展望には、目ざましいものがある。 冒険と投機の危険を伴うだらうが、これこそが21世紀の先進的で創造的なベンチャー精神の生き方であらうと、誰もが考えてきた。 ところが、世界的の IT 不況が予感されたトタンに、この忙わしく、前へ前へとせき立てる科学技術万能の価値観が揺らぎ始めている。 さらに私たちの齢になると、もっと大切なもの、もっと心がやすらぐものは、ないだらうかと考える様になる。 それは、懐かしい昔の想い出が一杯詰った故郷の中にあるのではなからうか、と言う声が、友達たちから聞えてくる。 「古里の家並み屋号を丹念に調べて 友の送りこし地図」 「友の家は 銭屋という名の肥料店 屋根を伝ひて往き来 したりき」 懐かしい地図を詠んだ歌が、歌誌「波濤」に採られたと、ファックスしてよこし、百ページの本より、はっきりと、そこに立っている子供時代の自分や君の姿が甦ってくる。懐かしい想い出が次々と湧き出してくる。ミレニアムの最高の贈り物を頂戴した。と、声をハズませて、電話してきたのは、竹馬の友だった。 彼は、中学校時代に肺を病み、兵役もなく、不遇な郷里の床に伏せっていた。平塚の療養所にも居たが、奇跡的に病み上がり、戦後は東京に出て、ハイテク技術者として、大成功の事業家となった男である。 この彼にして、この言葉、この感激である。 実はこの地図は、昨年、3人の協力者と力を合わせて、私の生れ育った、大正から昭和初期の故郷の旧街道筋の姿を、夫々の屋号・氏名・職業に到るまで、一つ一つ詳しく調べあげ、年の暮れには、ほゞ完成に漕ぎつけていた。 それを地図にして、地元の教育委員会・各種関係団体や友人・身内の方々に、ミレニアムの贈り物として、配布したものだった。 こゝで失礼ながら、お国自慢を並べます。 私の故郷の信州伊那は、中央アルプスと南アルプスの重量感溢れる山並みと、天竜川と渓谷・雪形の残る山肌・高山植物とお花畑・大原生林の緑と青い空・真赤な柿の実などの里であり、どれもが私たちを育てゝきた風景である。 更に古に遡ると、弥生・縄文の土器・石器や古墳群・出雲神話につながる伝説・日本武尊の東征の砌りの美しい物語など。 こんな豊かな自然と歴史の厚みの中を、あゆんできた祖先の足跡に触れると、今更の様に、謙虚な感謝と敬虔の念が湧き出して、胸をふくらませて深呼吸したくなる。 また、偉大な歴史遺産や貴重な美術品に接する時の、素直な感動の心も養われてきた。 この、かけがえのない故郷を愛することは、心がやすらぐことにもなる。それは矢張り、私たちの心の原点が故郷だからだと思う。 この故郷を愛する心は、国を愛する心に通ずる。この愛する国が、誇れる国であるように、皆して、少しでも、努めたいものです。 |