社交ダンスと私 3組 浮洲静太郎

 

 社交ダンスを始めてから17年位になる。最初社交ダンスを習いたいなと思ったのは昭和15年頃だったが、その頃日本は軍国化の一途を辿っており、ダンスホールは閉鎖、学生の背広着用も禁止され、為すすべも無かった。

 昭和17年1月の現役入隊に始まった私の軍隊生活も、23年11月シベリヤからの帰国で幕を閉じたが、3年間の抑留生活で受けたダメージは余りにも大きかった。日本人のお人好しと、ロシア人の虚言癖、狡猾さや冷酷さが好対照だった。ロシヤは終戦直前になって日ソ不可侵条約を一方的に破棄し、旧満州、樺太及び千島に侵攻して厖大な権益を強奪、更には60万人の日本人将兵をシベリヤに送り込んだ。そして劣悪な条件下に昼夜兼行の危険な作業を強制、飢えと望郷の念に苛まされる幾多の同胞を死に追いやったのだ。彼等が北方領土を返還する事など決して無いと私は断言する。

 ロシヤに対する私の憎悪と不信の念は、月日の経つのにつれて益々増幅する一方で、自分でもコントロールする事が出来ない。日本は今後共ロシヤに騙されない様呉々も注意して貰いたいと切に願っている。

 扨て本題に戻り、社交ダンスの日本に於ける歴史について述べよう。それは鹿鳴館時代(1883〜89年)に政府要人が国賓を招き、社交ダンスが政府の外交政策上必要として舞踏会を催したのに端を発する。

 以後30年の空白時代を経て、1918年(大正7年)鶴見の花月園にダンスホールが開設されたのが、職業的なホールの始まりとされる。大正12年の関東大震災によりダンスの中心は一時関西方面に移ったが、数年後再び東京に戻り、第二次大戦直前(昭和15年)まで続いた。昭和20年終戦と共にダンス界は再び活況を呈し、現在に到っている。

 社交ダンスはモダンとラテンに別かれる。モダンはワルツ、フオックストロット、クイックステップ、タンゴ、ウインナワルツに、又ラテンはルンバ、チャチャチャ、ジャイブ、パソドブレ、サンバに夫々分類される。それでは次にこの標準10種目について、踊りの特性を述べてみよう。

1)ワルツ
 回転が踊りの中心で、ライズとロアーの上下運動、そしてスウエイ(左右への傾斜)がある。

2)タンゴ
 歯切れのよいスタッカートなリズムで、激しく悩ましく表現すると情熱的な雰囲気が特長。

3)フォックストロット
 英国スタイルの代表的なダンス、伸びのびした大きな動きのなかに、流れるようなムーブメントが要求される踊り。

4)クイックステップ
 軽快でいかにもアメリカ的な踊り。

5)ウインナワルツ
 ウイーンが生んだ正統派ダンスのナンバーワン。オーストリアやドイツのお家芸。

6)ルンバ
 ラテンアメリカンの代表的な踊り。男と女の愛の葛藤を表す。やわらかいヒップアクションが特長

7)チャチャチャ
 陽気さと歯切れのよいリズム。コミカルでコケッテイッシュな表現が特長。

8)サンバ
 ブラジルで生まれた素朴で情熱的なリズムをさらに磨き上げて洗練されたもの。

9)パソ・ドブレ
 スペインの闘牛士の勇壮な姿を原型にして、フランスでつくり上げられたダンス。男性がマタドールで、それに対して女性はマタドールの持つケープの役割を受け持つ迫力ある踊り。

10)ジャイブ
 黒人の踊りから発生したもので、スインギーなアクションとコミカルな楽しさが特性。

 社交ダンスを習うにはプロに直接教わるのが一番良いのだが、個人教授は申し込み殺到で予約が仲々難しい上に、金が掛かり過ぎるのが欠点だ。又良い先生を見付けるのも仲々大変だし、そこでグループレッスンが浮上する。之は料金も安いし又月間のスケジュール表が出来ているので、計画的に技術向上を計る事が出来て一番良い方法かも知れない。

 アマチュアは厳しさの面でプロに劣るので、料金は安いがおすすめ致しかねる。私自身最初のグループレッスンの先生はアマチュアで、その後あちこちのサークルやスタジオを廻ったが、矢張りプロの方が良かったと思う。アマチュアの先生はプロに比べると厳しさが足らず、知識や技能も遥かに劣るものであった。

 7年前に家のすぐ前の区民センターでダンスのサークルを始めた。ラベンダー会と名付け、女性のパートナーと共に現在は週1回月曜日の午後に開業している。会費は1回500円で茶菓を供し、4月にはさくらまつり、12月にはクリスマスパーティを開く。会員は杉並区民がメインで、1回平均30名位だったが、最近一寸減ってきた。之は会員が男女共比較的高年齢である為、病気や怪我等の故障者が多い所為だが、昨年夏後半の猛暑や、今春末の寒さも影響している様だ。

 今月から、毎月末の会は、少し会費を高くする代りに、ビールやつまみ等を出してミニパーティとすることに決めた。年齢と共に体力の低下も否めないが、私にとってラベンダー会は今や生甲斐となっており、今後共頑張るつもりだ。申し忘れたがこのサークルの内容はフリーダンスで、色々な曲の入ったテープを掛けっ放しにし、各自が適当に相手を見付けて踊るのである。

 好きな曲に合わせて気の合った異性と踊る楽しみもさる事乍ら、常連の皆さんとの心の交流は、私にとって最大の喜びです。

(註)日本に於ける社交ダンスの歴史については若林政雄著「モダンダンス教程」
ダンス10種目の踊りの特性については篠田学著「ダンスを始める人のために」から夫々引用しました。

以上