7組 金原昌夫 |
特集号に何を寄稿すべきか、思案の末、最近の拙句で、馬酔木に掲載された分に、数句つけ加えてみました。 雛の間に天平の灯のともりけり 秋水子 夜桜や人薄墨の絵と流れ 犬ふぐり大きな空をもて余す まっ青な空に帽投げ卆業す 水温む色とりどりの泡うまれ つつつぽの西郷像や青嵐 桂馬はね局面動く青嵐 山霧の裾薄れゆく水芭蕉 分校に女教師慣れず水芭蕉 そよ風をふりまいてゐる土手の蝶 金縷梅や灯りて暗き資料館 聖五月懐深き樟の風 春寒の橋を重ねて墨田川 見つめゐる間も開くかに温室の花 棕櫚咲いて籬に展く日向灘 看護婦はみんな足早チューリップ 花馬酔木音なき音に遙れてをり 濃州の一枚闇や青葉木菟 沈黙の美しき刻夕牡丹 吹くほどに風をあつめて苗代田 雪柳重たき雨となりにけり 飛び込んで草となりけり青蛙 春暁の鐘嫋々と湖にかな 光年といふ静けさの天の川 銀漢を仰げば眉にこぼれけり (編集註・銀漢=銀河) 銀漢を浴び旅愁とも悔悟とも 水鏡松籟に遙れ終戦日 走馬灯裁くも人裁かるるも人 八幡平雲が放てる初夏の蝶 銀座の灯まだととのはず走り梅雨 十薬の白がしづめて山の駅 野苺の咲き添ふムンク美術館 哲学書胸に預けて籐寝椅子 ホルンにて始まる序曲夜の秋 旅先の酒肆に川音夜の秋 木道を踏みしめ夏を惜しみけり 暗闇を見つめて門火惜しみけり 初秋の稜線しかと放ち馬 駆け抜ける湖北時雨や日をこぼし 病む人に悲しき嘘や石蕗の花 菊人形稚児より蝶のこぼれけり 雨を呼びしは敦盛か菊人形 曼珠沙華燃えて身を焼く祇園坂 石庭の砂さらさらと鵙日和 流れ星自然動物園暮れて ゆく空にいのち預けて帰燕かな 渓流に耳貸す秋思忘るべく 晩年のいつかは独り石蕗の花 湖昏れてひときは白き蕎麦の花 酒を利く小さな秋のおとづれに 悼 毛塚由太郎氏 ほほ笑みて君が遺影の冬帽子 冬菜畑甲斐は頑固な山ばかり 遠き灯も近き灯もつき冬至かな 古戦場霜にひれ伏すものばかり 冴返る木曽路の風の底力 甲斐駒に八ヶ岳の応ふる雪けむり 天と地と分ちキリマンジャロの雪 音たてて二十世紀の枯葉踏む 星冴えて沈む湖北のまばらの灯 しぐれつつ歴史を刻む枯山水 大樟のしづかな齢クリスマス |